【完結】長年の婚約者を捨て才色兼備の恋人を選んだら全てを失った!

つくも茄子

文字の大きさ
2 / 9

2.公爵子息1

しおりを挟む

 まさかキャロラインがナディアの事を知っていたとはな。迂闊だった。クラスが別だからと油断した。きっと学園の何処かで見られたんだろう。「お二人の事は学園で有名です」などと嫌味を言うとは。相変わらず可愛げのない。婚約を解消すると言って取り乱しもしなかった。嘆き悲しむ事もなければ縋り付いてもこない。冷静沈着と言えば聞こえはいいが、要は、感情が伴っていないだけだ。だが、これでナディアと心置きなく婚姻関係を結べる。

 僕は意気揚々と両親にキャロラインの婚約解消とナディアとの婚約を告げた。

 

 それに対して両親はというと――


 
「ブライアン、お前とキャロライン嬢が婚約して10年が経つ。その間、彼女が何を学んできたか承知の上で言っているのか?本当に理解しているのか?」

「勿論です!ナディアは学年でもトップに入る成績の持ち主です。公爵夫人としての立派にやっていけるはずです!」

「……名門ロードバルド侯爵家の令嬢であり、10年に渡って次期ヘルゲンブルク公爵夫人としての教育を受けてきたキャロライン嬢の立つべき場所に子爵家の娘程度が立てると本気で思っているのか?」

「ナディアなら直ぐに公爵夫人の仕事にも慣れます。ナディアは姿形だけでなく中身も可愛らしいので、きっと夫人方にも可愛がられる事でしょう」

「……本気で言っているのか?高位貴族の御夫人方はそんなに甘くはない」

「父上こそ、何を仰っているんですか?僕が知らないとでも?母上がキャロラインを連れて度々“夫人会”に参加させている事は知っているんですよ。そこでキャロラインが夫人達に我が子の如く可愛がられているという話ではないですか」

「それはキャロライン嬢だからこそだ!」

「おかしな事を仰いますね。夫人達もどうせ愛でるなら可愛いナディアの少女の方が良いでしょう。キャロラインよりもナディアの方が愛らしく愛嬌のある明るい性格ですから夫人達から大いに可愛がられる事でしょう」

「お前という奴は……」

 何故か父上に呆れたような目を向けられたが、おかしな事は言っていない。父上の隣に座っている母上は何も言わずに微笑んでいるんだ。母上には認められた。だから大丈夫だ。

 この時の僕は知らなかった。
 優しく微笑んでいた母上の目は全く笑っていなかった事を。
 キャロラインがどういった立場であるのか。

 そして、ナディアの成績が良かったカラクリ。

 全てを知ったのは全てが終わった後の事だった。



 後日、両親にナディアを紹介した。

 綺麗な姿勢で頭を下げるナディアは何処から見ても「デキる女」だった。両親もすぐにナディアを認めざるを得なくなる。そう思っていた。

 きっと気に入ると踏んでいたのに……。





 
「確かにお前が言っていたようにだ。だが、では公爵家の妻としては失格と言わねばならん」

 考えもしなかった言葉が返ってきた。
 何故だ!?
 誰がどうみたってキャロラインよりも上だろう!
 ナディアがキャロラインよりも劣っている点なんて一つしかない。

「父上、家格の事を仰っているのですか? 今時そんな古臭い考えはよしてください。昨今は実力がものを言う時代ですよ。王宮の文官や武官に家柄が関係なく出世しているのが良い証拠。それを踏まえて仰ってください。家柄で出世出来た昔とは違うんですから」

「……そういう問題ではない。彼女の振る舞い事態が相応しくないと言っているのだ」

 はぁ~~~。
 どうせ、古臭いマナーの話だろう。
 今時そんなことを言うのは古い人間位だ。いや、そう言えばキャロラインも一々煩かったな。ああ、古臭い家柄の人間は先進的な今の時代に取り残されていくんだな。憐れなものだ。やれやれ。父上は公爵家の当主としても父親としても尊敬に値する人物だが、この妙に凝り固まった時代遅れな考えには賛同できない。

「キャロラインよりもナディアの方がずっと公爵夫人として相応しい事を証明してみせます」

「ブライアン。お前は本当に彼女がキャロライン嬢よりも公爵夫人に相応しいと考えているのか?キャロライン嬢がこの10年間何をしてきたか理解して言っているんだろうな?全て承知した上でナディア嬢と一緒になるというのか?最初に言っておくが、。二人でキャロライン嬢がやって来たこと、これから先もするであろうことをしてもらう。キャロライン嬢が10年かけて築き上げてきたものの穴埋めにお前たちを突入させるのだが、覚悟はできているか?」

 父上の厳しい声が室内に響く。

「勿論です」

 キャロラインがやってきた事など所詮、高位貴族夫人達のおべんちゃらに付き合う程度だ。一緒にお茶やお菓子を食べてお喋りを楽しむという非生産的なもの。そんな単純作業、ナディアなら難なくクリアする筈だ。

「寧ろ、キャロラインよりもナディアの方が上手くやれますよ」

 凡庸なキャロラインに出来てナディアに出来ない筈がない。トップの成績を修めているナディアだぞ?彼女なら短期間で公爵夫人の教育をマスターするはずだ。場合によっては教育課程をすっ飛ばせるのではないか?




しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

悪女は婚約解消を狙う

基本二度寝
恋愛
「ビリョーク様」 「ララージャ、会いたかった」 侯爵家の子息は、婚約者令嬢ではない少女との距離が近かった。 婚約者に会いに来ているはずのビリョークは、婚約者の屋敷に隠されている少女ララージャと過ごし、当の婚約者ヒルデの顔を見ぬまま帰ることはよくあった。 「ララージャ…婚約者を君に変更してもらうように、当主に話そうと思う」 ララージャは目を輝かせていた。 「ヒルデと、婚約解消を?そして、私と…?」 ビリョークはララージャを抱きしめて、力強く頷いた。

その言葉はそのまま返されたもの

基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。 親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。 ただそれだけのつまらぬ人生。 ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。 侯爵子息アリストには幼馴染がいる。 幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。 可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。 それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。 父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。 幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。 平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。 うんざりだ。 幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。 彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。 比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。 アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。 まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。

婚約破棄、ですか。此方はかまいませんよ、此方は

基本二度寝
恋愛
公国からやってきた公女ニドリアラは、王国の王子アルゼンが男爵令嬢と良い仲になっていると噂を聞いた。 ニドリアラは王国に嫁ぐつもりでやってきたはずなのだが、肝心の王子は他の令嬢にうつつを抜かし、茶会の席にも、夜会の出席もない。 ニドリアラの側にいつも居るのは婚約者の王子ではなく、王家から派遣された護衛の騎士だけだった。

奪われたものは、全て要らないものでした

編端みどり
恋愛
あげなさい、お姉様でしょ。その合言葉で、わたくしのものは妹に奪われます。ドレスやアクセサリーだけでなく、夫も妹に奪われました。 だけど、妹が奪ったものはわたくしにとっては全て要らないものなんです。 モラハラ夫と離婚して、行き倒れかけたフローライトは、遠くの国で幸せを掴みます。

君を幸せにする、そんな言葉を信じた私が馬鹿だった

白羽天使
恋愛
学園生活も残りわずかとなったある日、アリスは婚約者のフロイドに中庭へと呼び出される。そこで彼が告げたのは、「君に愛はないんだ」という残酷な一言だった。幼いころから将来を約束されていた二人。家同士の結びつきの中で育まれたその関係は、アリスにとって大切な生きる希望だった。フロイドもまた、「君を幸せにする」と繰り返し口にしてくれていたはずだったのに――。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

婚約破棄は嘘だった、ですか…?

基本二度寝
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」 婚約者ははっきり宣言しました。 「…かしこまりました」 爵位の高い相手から望まれた婚約で、此方には拒否することはできませんでした。 そして、婚約の破棄も拒否はできませんでした。 ※エイプリルフール過ぎてあげるヤツ ※少しだけ続けました

婚約破棄した令嬢の帰還を望む

基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。 実際の発案者は、王太子の元婚約者。 見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。 彼女のサポートなしではなにもできない男だった。 どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。

処理中です...