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3.公爵子息2
しおりを挟む「なんだこの書類は!?」
驚いたのは今までに無かった仕事量だ。紙の束が山のように机に積み上げられていた。
「なにと申されましても……若様に任された書類です」
「それは見れば分かる! 僕が言いたいのは何故急に仕事量が増えたかという事だ!!」
「……これが本来の仕事量です」
「はっ!? そんな筈ないだろう!!」
どう見ても通常の倍はある。
父上の嫌がらせか!?
「……今まではキャロライン様が半分任されていただけです」
「キャロライン……が?」
「はい」
「そんなバカな……キャロラインは何も言って……」
「若様、キャロライン様が公爵家の仕事を任されていた事は屋敷中の者が知っております。キャロライン様の行動を見れば分かる事でしたので、誰も若様に説明する者もいなかったのでしょう」
説明するまでもない常識の事だったと語られたが僕は知らなかったぞ。
「キャロラインにコレができるのか?」
そこが心配だった。下手に関わってダメにされては困る。僕の考えが執事にも伝わったのだろう。厳しい目で見られた。
「失礼ながら、若様の数倍、キャロライン様は優秀な方です」
はぁ!?
それはないだろう?
「学園の成績が中の上でしかないキャロラインが優秀なはずないだろう!成績だって中の上だぞ?学年で5位の僕よりも優秀だなんて有り得ないだろう!」
「若様こそ何を仰っているのですか? 学園で高位貴族が下位貴族に順位を譲るのは当然の事でしょう」
「な、なに……?」
「幼少の頃から高度な教育を受けてきた高位貴族が本気で試験に取り組めば下位貴族など隅に追いやられてしまいますよ」
何だと? そんな事がまかり通っていいのか? 信じられない!!
「そんなの間違っている。おかしいだろう!どちらも全力で取り組んでこそ意味があるんだぞ!」
「その考え方がそもそもズレています」
「え!?」
「よろしいですか? 高位貴族の子女が学園に通っているのは幅広い人脈作りが主です。成績を競う場ではありません。何故ならば、将来家を継ぐ長男は家の仕事を卒業までに実施訓練を施されますし、次男以下は長男の補佐的役割を求められます。爵位を貰って分家しているのがいい例でしょう。譲られる爵位がない場合でも高位貴族の子息は入り婿という形で爵位持ちの令嬢と結婚するのが大半です。各家で求められる技能を身に付けるための場所でもあるんです。高位貴族に比べて下位貴族は専ら家を出る子息や子女が多く、自ら生計を立てなければならない者もいるのです。上位成績者は文官への推薦を貰えますから余計に必死に勉強します。高位貴族はそんな下位貴族の道を防がないようにワザと手を抜いて試験を受けているのです。若様には納得できない事でしょうが、それが学園や社交界では暗黙の了解となっているのです」
執事の言葉に衝撃を受けた。
知らなかった。誰もそんなこと言わなかったじゃないか!
「ぼ、僕は……」
「若様が気付かずに全力で試験に挑んだ結果、文官への道が閉じた下位貴族の学生もいるでしょう」
「僕のせいじゃない!」
「はい。実力をだすな、という不文律はありません。飽く迄も高位貴族が下位貴族に対して配慮したものですから。若様が上位の成績を収めても誰も文句など言えません。ですが、若様の行動を見た貴族方が『高貴なる義務』を理解していないと判断されるのもまた致し方ないことだとご了承ください」
「そんなバカな……」
呆然とする僕に容赦なく執事が現実を突き付けてくる。
「とりあえず、今日の分だけでも片付けましょう。大丈夫ですよ。日頃から『優秀だ』と自負されている若様なら難なくクリアできるでしょう」
穏やかに微笑む執事にゾッとした。
その目は書類が片付くまで部屋から出さないと言っているからだ。
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