56 / 112
56.とある令嬢side
しおりを挟む
数日後、エミリーは自主退学をした。
やはりと言うべきか、ブリジット様の悪評を流した事がいつの間にか学園中に知れ渡り、エミリーの評判はガタ落ち。それに加え、誹謗中傷が全て噓であると立証され彼女は「狼令嬢」という通り名で呼ばれるようになった。学園に居辛くなったために退学していったと噂が流れたけれど本気でそれを信じている人は一体何人いるのかしら。
ミゲル様が動かれたに違いない。
証拠は何処にもないけれどそんな気がした。
エミリーの実家の店。
王都でも有数の店は数日で廃業を余儀なくされている。娘の噂のせいで王都で商売ができなくなったらしい。爵位を返上し、一家で他国に向かったという噂が流れ始めた。
嫌な予感がして、探偵を雇い調査した。
前回の私のように悲惨な末路ではなかった事にホッとした。それでも彼女にとっては悲惨な未来なのかもしれない。隣国に引っ越したエミリーの家族はそこで商売を始めたらしいわ。それでも貴族で商売していた頃と平民として一から商売するのではやり方も方法も全く違う。相当、苦労しているようだった。それは一ヶ月後にエミリーが親子ほど歳の離れた豪商の後妻になることから、おおよその想像がついた。エミリーの婚姻で豪商の後ろ盾を得られるのだろう。この婚姻はいわば商人同士の政略結婚。豪商の方でも元貴族の人脈と情報はバカに出来ないと考えたのだ。そう考えれば妥当と言えるでしょうね。
エミリーは泣き暮らしているそうだけど、泣けるだけ貴女は幸せよ。
家族だって揃っているもの。
本当の不幸にあうと泣くことも出来なくなるのよ。
結婚後も調べてもらった。
未だに自分の不幸に酔っているのか、一日の大半を部屋で過ごしているらしい。嘆き悲しむことしかしない彼女は徐々に孤立している。婚家には義理の息子達もいるらしく、今更後妻のエミリーが子供を産む必要はないようだった。腫れ物扱いだそうだ。
探偵からの調査報告書を読みながら溜息をつくしかなかった。
もう、エミリーの事を調べるのはよそう。
彼女を調べていると誰かの視線を感じると探偵が言っていた。
探偵曰く、「プロでしょう。そして、私が彼女を調べている事を知っていてワザと気配を漂わせていた」ということだ。
『これは恐らく警告でしょう。彼女に関われば次は我々だという』
顔色を悪くしながら言ってきた探偵は数日後に王都から居なくなった。
身を隠すと言っていたので消されてはいないと思う。
ごめんなさい、エミリー。
貴女は私にとって大切な友人だった。
それでも助ける事はできないの。
貴女を助ける事は私と私の家族の破滅を意味する。
もう二度と失いたくない。
神様が与えてくださったチャンスを無駄にしたくないの。
私は幸せになりたい。
普通の幸せを得たいの。
貴女と関われば、ミゲル様の逆鱗に触れてしまう。
あんな地獄のような場所で死にたくないの。
私は学園卒業後に同じ子爵家の男性と結婚し、二男一女を授かった。
夫は可もなく不可もない。平凡な人だけど、とても優しい。貴族としてそれはダメなのかもしれない。それでも田舎貴族には丁度いいのかもしれない。善良な領主として領民から親しまれている。退屈なくらい平凡な日々。
それは前では手に入らなかったもの。
優しい日向の道だった――――
やはりと言うべきか、ブリジット様の悪評を流した事がいつの間にか学園中に知れ渡り、エミリーの評判はガタ落ち。それに加え、誹謗中傷が全て噓であると立証され彼女は「狼令嬢」という通り名で呼ばれるようになった。学園に居辛くなったために退学していったと噂が流れたけれど本気でそれを信じている人は一体何人いるのかしら。
ミゲル様が動かれたに違いない。
証拠は何処にもないけれどそんな気がした。
エミリーの実家の店。
王都でも有数の店は数日で廃業を余儀なくされている。娘の噂のせいで王都で商売ができなくなったらしい。爵位を返上し、一家で他国に向かったという噂が流れ始めた。
嫌な予感がして、探偵を雇い調査した。
前回の私のように悲惨な末路ではなかった事にホッとした。それでも彼女にとっては悲惨な未来なのかもしれない。隣国に引っ越したエミリーの家族はそこで商売を始めたらしいわ。それでも貴族で商売していた頃と平民として一から商売するのではやり方も方法も全く違う。相当、苦労しているようだった。それは一ヶ月後にエミリーが親子ほど歳の離れた豪商の後妻になることから、おおよその想像がついた。エミリーの婚姻で豪商の後ろ盾を得られるのだろう。この婚姻はいわば商人同士の政略結婚。豪商の方でも元貴族の人脈と情報はバカに出来ないと考えたのだ。そう考えれば妥当と言えるでしょうね。
エミリーは泣き暮らしているそうだけど、泣けるだけ貴女は幸せよ。
家族だって揃っているもの。
本当の不幸にあうと泣くことも出来なくなるのよ。
結婚後も調べてもらった。
未だに自分の不幸に酔っているのか、一日の大半を部屋で過ごしているらしい。嘆き悲しむことしかしない彼女は徐々に孤立している。婚家には義理の息子達もいるらしく、今更後妻のエミリーが子供を産む必要はないようだった。腫れ物扱いだそうだ。
探偵からの調査報告書を読みながら溜息をつくしかなかった。
もう、エミリーの事を調べるのはよそう。
彼女を調べていると誰かの視線を感じると探偵が言っていた。
探偵曰く、「プロでしょう。そして、私が彼女を調べている事を知っていてワザと気配を漂わせていた」ということだ。
『これは恐らく警告でしょう。彼女に関われば次は我々だという』
顔色を悪くしながら言ってきた探偵は数日後に王都から居なくなった。
身を隠すと言っていたので消されてはいないと思う。
ごめんなさい、エミリー。
貴女は私にとって大切な友人だった。
それでも助ける事はできないの。
貴女を助ける事は私と私の家族の破滅を意味する。
もう二度と失いたくない。
神様が与えてくださったチャンスを無駄にしたくないの。
私は幸せになりたい。
普通の幸せを得たいの。
貴女と関われば、ミゲル様の逆鱗に触れてしまう。
あんな地獄のような場所で死にたくないの。
私は学園卒業後に同じ子爵家の男性と結婚し、二男一女を授かった。
夫は可もなく不可もない。平凡な人だけど、とても優しい。貴族としてそれはダメなのかもしれない。それでも田舎貴族には丁度いいのかもしれない。善良な領主として領民から親しまれている。退屈なくらい平凡な日々。
それは前では手に入らなかったもの。
優しい日向の道だった――――
378
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
婚約破棄された聖女様たちは、それぞれ自由と幸せを掴む
青の雀
ファンタジー
捨て子だったキャサリンは、孤児院に育てられたが、5歳の頃洗礼を受けた際に聖女認定されてしまう。
12歳の時、公爵家に養女に出され、王太子殿下の婚約者に治まるが、平民で孤児であったため毛嫌いされ、王太子は禁忌の聖女召喚を行ってしまう。
邪魔になったキャサリンは、偽聖女の汚名を着せられ、処刑される寸前、転移魔法と浮遊魔法を使い、逃げ出してしまう。
、
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる