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62.王子side
しおりを挟むブリジット・ベアトリス・ぺーゼロット公爵令嬢。
いずれ結婚する相手だと言われた少女。
彼女の事を知るために王宮の者達に聞いてまわった。
幼いながら高等教育を受け、教師達から絶賛される「完璧な淑女」だと言う。
優秀な公爵令嬢は王妃に相応しいとまで言っていた。
父上と同じ評価。
父上と同じように期待を掛けている。
『先が実に楽しみな令嬢』
私には一度たりとも言ってくれなかった言葉だ。
勉強をサボっても苦笑しながらも許してくれる父上。
剣の稽古を休んでも仕方ないと笑って許してくれる父上。
父は私を愛してくれている。
それは間違いない。
だが期待はしていなかったのだろう。
悔しかった。
生まれて初めて悔しいと思った。
それからだ。
真面目に机に向かうようになったのは。
公爵令嬢に負けないように。
彼女よりも優れていると証明するために努力した。
私のペースに合わせるようにとの緩やかな教育課程から一段と厳しいものに切り替えてもらった。それに合わせて教育係たちも変更された。新しい教育係達は厳しかった。容赦が無かった。最初は頑張った。だが新しい教育係達の説明は私には難し過ぎた。言っている事の殆どが分からない。「分かるように説明しろ」と言っても困った顔をして首を傾げ「なぜ理解できないのですか?」と言うばかり。そんな日々がしばらく続いたある日、私はついに音を上げた。父上に直談判する事にしたのだ。
父上は怒らなかった。
いつも通りの穏やかな顔で諭されただけだった。
『お前はまだ幼い。ゆっくり学べば良いではないか。教師達も元に戻そう。その方がお前のためだ。無理をして体を壊しては元も子もない。そうだろう?それにお前の足りないところはブリジット嬢が補ってくれる』
私はその言葉を聞いて泣き崩れてしまった。そして悟ってしまった。父上は息子に期待などしていないのだと。
父上はきっとぺーゼロット公爵令嬢のような子供を望んでいたんだろう。王家の色を持った、魔力の高い、優秀な子供の父親になりたかったに違いない。
私が王子として出来損ないだった。期待に応えられなかった私でも父上は「国王」になることを望んでいた。だからだろうか。私は未だ見ぬ婚約者、ぺーゼロット公爵令嬢に嫉妬と反感を抱いてしまっていた。父上の期待に応えて王妃になる彼女に――――
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