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89.騎士団団長side
しおりを挟む私達は他愛もない話をつづけながら歩いていると、回廊の曲がり角でガーデーヴィ子爵と出くわした。文官である彼の両手には大量の書類を抱えて歩いていた。私達の姿が視界に入ると足を止め会釈をした。
「それは例の資料だろうか」
ダリューン伯爵が訊ねた。
「はい。王族の血縁関係を遡って調べた調査結果になります」
「大変だな」
「仕方ありません。これが私の役目ですので……」
そう言って彼は微笑むがどこか元気のない笑顔だ。
「大丈夫か?」
私は心配して聞いた。彼は一瞬目を丸くし、そして視線を外した。
「正直なところ、これといった目ぼしい血縁者は出てきておりません。断絶してしまった大公家を調べても何も出てきません。生き残っている形跡すらありません」
王家の直系はことごとく断絶している。その中には不慮の事故で亡くなった者もいる。陛下はその中で生き残っている者がいないかと探しているそうだが成果はでないだろう。今までも繰り返し調査は行われていた。それに関して新しい情報は全くない。上がってくる報告にしても空振りばかりだった。
「初代国王の時代まで遡って調べましたが一向に……」
「陛下はそのことを?」
「…………これから報告に……」
顔を伏せるガーデーヴィ子爵に無責任な慰めは言えなかった。
彼は陛下の魔力枯渇の前から調査をしていた。もちろん、陛下の命でだ。その努力が報われなかったのだ。私はかける言葉がなかった。だがダリューンは違った。彼の肩を叩き、「気を落とすな。君はよくやってるよ」と言って笑った。彼らしい励ましの言葉だった。私には無理だな。子爵は無言でうなずくと一礼して、そのまま資料を持って歩き去っていった。
こうして何の成果も出せないまま陛下のもとに報告に向かわなければならない。一体これで何度目になるのだろうか。子爵の足取りが重くなるのも無理はなかった。
陛下が存命中のうちに次の王位継承者を選定しなければならない。
第一王子殿下を王にする事はできない以上、代わりになる存在がどうしても必要だった。
ただ、その代わりもいないとあってはどうしようもない。
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