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107.宰相(元公爵)side
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引きずられた先で私は乱暴に投げ飛ばされた。
ドサッ!
拘束された状態で受け身も取れず、床に転げ落ちるしかなかった。転げる最中、縄が食い込んで手首を痛めた。痛覚を刺激する痛みを感じながら立ち上がろうとする私に再び衝撃が襲う。
ドカッ!!
蹴り飛ばされた。
無様に転がり壁に激突する。その拍子に目隠しが取れ、眩しさに目を細めつつも蹴ってきた相手を睨みつけた。
「やあ、お久しぶりですね。宰相閣下」
睨みつけた先にいたのは公爵家の弁護士。
何故、この男が?
訳が分からない。
もしや、ミゲルたちが私を助けにこの男を向かわせたのかと思ったがそれはないと即座に否定した。父親を助けに来るのならもっとしっかりとした武人を寄こすはずだ。間違っても畑違いの男を寄こす訳がない。
蹴りつけてきた弁護士に抗議しようにも口を塞がれている状況では何もできない。
「……ああ、いらっしゃった」
秘密通路は迷路のような構造になっている。抜け道が多く、その分だけ通行止めに行き当たる。敵が万が一、通路の存在を知ってしまった場合を考えての事だ。
そんな道の一つから出てきた人物に弁護士は頬を緩めている。
「ご苦労様」
「はい。ヴァノッツア様の仰った通り、人でなしの宰相閣下は一人で逃げ出しました。捕獲のため殴りましたが、構いませんよね?」
「勿論です。私も殴りたいのですが、これに触れるのは嫌ですから助かりましたわ」
元妻のセリフが理解できない。
私を助けにきたのではないのか?
何故、そんな顔をする?
「気持ちは分かります。この宰相閣下、味方を見捨てた挙句に公爵家に戻ろうと目論んでいたロクデナシですから」
「……公爵家に?」
「はい。家族は喜んで自分を迎えてくれると思い込んでいる様で…………気持ち悪いですね」
「え?……嫌だわ。何処からそんな夢想を?」
「全くです。寝言は寝てから言えってもんです。ま、夢で見られても迷惑ですが……まあいいでしょう。さっさと終わらせましょう」
「それがいいわ」
二人の会話の意味が分からなかった。
何故、元妻は私にそんな目を向ける?
まるでゴミでも見るような眼差しだ。
私の疑問に応える者は誰もいない。
ヴァノッツアが何か唱え始めると私の周りが光り始めた。
これは魔法陣か!?
何だこれは!?
頭の中に次々と浮かぶ映像……これは一体なんだ? 記憶の数々が次々と再生されていく。
妻との結婚。
愛する女性との思い出。
娘と第一王子との婚約。
娘の死んだ時の記憶。
義息子が復讐の鬼となった恐ろしい時間。
全てが流れ込んでくる。
そして……。
私は思い知る事になった。
これは実際に起こった出来事だと。
絶望に打ちひしがれる中、私を見下ろす元妻と弁護士の顔が悪魔の様に見えたのであった。
ドサッ!
拘束された状態で受け身も取れず、床に転げ落ちるしかなかった。転げる最中、縄が食い込んで手首を痛めた。痛覚を刺激する痛みを感じながら立ち上がろうとする私に再び衝撃が襲う。
ドカッ!!
蹴り飛ばされた。
無様に転がり壁に激突する。その拍子に目隠しが取れ、眩しさに目を細めつつも蹴ってきた相手を睨みつけた。
「やあ、お久しぶりですね。宰相閣下」
睨みつけた先にいたのは公爵家の弁護士。
何故、この男が?
訳が分からない。
もしや、ミゲルたちが私を助けにこの男を向かわせたのかと思ったがそれはないと即座に否定した。父親を助けに来るのならもっとしっかりとした武人を寄こすはずだ。間違っても畑違いの男を寄こす訳がない。
蹴りつけてきた弁護士に抗議しようにも口を塞がれている状況では何もできない。
「……ああ、いらっしゃった」
秘密通路は迷路のような構造になっている。抜け道が多く、その分だけ通行止めに行き当たる。敵が万が一、通路の存在を知ってしまった場合を考えての事だ。
そんな道の一つから出てきた人物に弁護士は頬を緩めている。
「ご苦労様」
「はい。ヴァノッツア様の仰った通り、人でなしの宰相閣下は一人で逃げ出しました。捕獲のため殴りましたが、構いませんよね?」
「勿論です。私も殴りたいのですが、これに触れるのは嫌ですから助かりましたわ」
元妻のセリフが理解できない。
私を助けにきたのではないのか?
何故、そんな顔をする?
「気持ちは分かります。この宰相閣下、味方を見捨てた挙句に公爵家に戻ろうと目論んでいたロクデナシですから」
「……公爵家に?」
「はい。家族は喜んで自分を迎えてくれると思い込んでいる様で…………気持ち悪いですね」
「え?……嫌だわ。何処からそんな夢想を?」
「全くです。寝言は寝てから言えってもんです。ま、夢で見られても迷惑ですが……まあいいでしょう。さっさと終わらせましょう」
「それがいいわ」
二人の会話の意味が分からなかった。
何故、元妻は私にそんな目を向ける?
まるでゴミでも見るような眼差しだ。
私の疑問に応える者は誰もいない。
ヴァノッツアが何か唱え始めると私の周りが光り始めた。
これは魔法陣か!?
何だこれは!?
頭の中に次々と浮かぶ映像……これは一体なんだ? 記憶の数々が次々と再生されていく。
妻との結婚。
愛する女性との思い出。
娘と第一王子との婚約。
娘の死んだ時の記憶。
義息子が復讐の鬼となった恐ろしい時間。
全てが流れ込んでくる。
そして……。
私は思い知る事になった。
これは実際に起こった出来事だと。
絶望に打ちひしがれる中、私を見下ろす元妻と弁護士の顔が悪魔の様に見えたのであった。
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