偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子

文字の大きさ
57 / 94
~第三章~

56.アンハルト国王side

しおりを挟む
 
 問題児アヴィドを強制的に再教育を施す事を命じた。
 それ以外に方法がなかったともいう。

「酷いな……」

 溜息と共に問題児アヴィドの行動に呆れるしかない。

「パッツィーニ侯爵家は、アレに何を学ばせていたんだ?」

 庶民から貴族になったのだ。
 当然、貴族の教育は受けさせられていた筈だろうに。
 アレが侯爵家に入って数年は経つ。その間に最低限の教養は身に着けているべきだろう。

「教育は受けさせたようですが……。残念ながら、全く身につかなかったようです」

 侍従が肩を落として報告してくる。

「それと、王太子殿下と王女殿下が『婚約者は愛嬌があるほうがいい』『あまり優秀過ぎると碌なことは無い』などと発言され、それを真に受けたようで……」

 私は盛大に溜息を吐くしかなかった。
 息子と娘は、何を言っているんだ!!
 そもそも優秀以前の問題だろ!!

 子供達の行動に頭が痛い。
 そして……その言葉を聞いて納得する部分もあった。

 王族のお墨付きとでも思ったのだろう。どうりで改善しない訳だ。

 だからと言って何も手を打たない訳にはいかない。

 数十人の教育係に徹底的に矯正するように命じたが、あの問題児アヴィドが矯正される事は無かった。

 更には、本物のパッツィーニ侯爵家次男が大国に移住し、そこで国王の相談役という高い地位に就いているらしいとも報告された。
 最初は何かの間違いだと思ったが調査した結果本当だった。

 最悪だ。よりにもよって大国に奪われていたとは!!!

 だが考えようによっては大国との繋がりができたと喜ぶべきか?
 サビオ・パッツィーニを呼び戻して再び王女と婚約させれば全てが丸く収まるのではないか?
 本物が戻ってくれば偽物などに用はない。
 元々、神殿側の不手際でこうなったのだ。奴らがサビオ・パッツィーニに頭を下げて謝れば万事うまくいく。最近、何かに付けてデカい態度を取り始めた神殿に一泡吹かせてやれるぞ!


 家臣達は反対するだろうからな。
 極秘で進めさせなければ。


 きっと上手くいく。
 私が謝罪するのだ。
 この国の民なら喜んで応じるだろう。
 なに、他国に移住したとしても我が国の民である事には違いない。
 そう簡単に祖国を捨てる事などできるものか。
 そう考えた私だったが……現実は非情であった。



 数日後――

「何だと!?それは本当なのか!」
 信じたくない報告を聞いた私は思わず叫んでしまった。

「は、はい」

「何かの間違いではないのか!?」

 私の質問に対して首を横に振る侍従。

「本当です。ブランデン王国からはパッツィーニ侯爵家所縁の者はいないと返答がありました」

「バカな!!!」

 信じられない答えだった。何故ならばサビオと言う名前で活躍している人物が王国にいるからだ。どう考えてもサビオ・パッツィーニだろう!!!

「ブランデン王国はサビオ・パッツィーニと名乗る者は存在しないと断言しております」

 侍従の報告を聞きながら目の前が真っ暗になった気分だ。
 そんな事はあり得ない。
 一体どうなっているんだ??

「サビオと言う名前の者は一人。サビオ・黒曜であって、サビオ・パッツィーニでは無いとの事でございます」

「同一人物だろう!!!」

 人を馬鹿にするにも程がある!怒りが湧き上がる。こんなバカげた話はない!ブランデン王国はサビオを飽くまで別人だとしている。パッツィーニ侯爵子息である事を否定しているのだ!それも分かった上でだ!!何故だ!どうしてだ!!?

「くっ……。あちらが飽く迄も別人だと言い張るのならこちらも何度でも使者を送り続けるまでだ!」

 後には引けん!引くわけにはいかん!!
 その後、何度かブランデン王国に向けて手紙を送ってみたものの全て返送されてきた。しかも使者を送り返した事に対する謝罪すら無かった。何処までもこちらを馬鹿にした態度に腹が立つ!!王になったばかりの青二才の分際で!!


しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...