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2.契約結婚2
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「そう言えば、お兄様には子供が出来たらしいですわね」
話題を変えると途端に真っ青な顔をされます。
ええ、勿論、情報源は使用人。それと領民達。私は、どこかの誰かさんと違って領民との関係は良好です。手紙で兄夫婦の内情を教えてくれる程に。
「娘だとか」
「ああ……」
「随分可愛がっているようですわね」
「ああ……」
「今度、子供向けの絵本をお送りいたしますわね」
「…………すまない」
その謝罪はどういう意味を持つのかしら。
謝るから孫娘に何もするなという事かしら?
あの兄の事ですから、娘を産んだ妻に「次は男子を頼む」とでも言いそうです。
そこのところを父は理解していないのかしら?
喉元過ぎれば熱さを忘れる――とは正にこの事。
「それで?私の結婚相手は誰かしら?」
「――――だ」
「はい?聞こえませんわ」
「だからっ、相手の男性はオエル・ブリトニー伯爵だ!」
「あらまぁ」
思わず目を丸くしてしまいました。
随分大物が出てきてしまいましたね。
この国でも相当な資産家。その上、伯爵位の中でもトップの家柄です。しかも社交界を騒がすゴシップ男。美貌、地位、財産、権力、名声の全てが兼ね備わっております。
女好きとしても有名で、殺傷沙汰になった事もあるとかないとか……。そんな御方が私に結婚を申し込んでくるなんてありえません。一体どんな裏があるんでしょう。
「何でまたそのようなお方を?」
「う……む……」
「何か理由があるのでしょう?」
私が訊ねると、渋々話し始めました。
要約するとこういう事らしいです。
伯爵は兄の友人。
兄は次期当主としての実績を欲しがり、友人である伯爵に事業提携を申し出たそうです。馬鹿な話です。お父様から聞いて内心呆れてしまいました。
何故なら、伯爵と事業提携するのは簡単な事ではないのです。伯爵が了承したところで契約内容によってはこちらが不利になる場合だってありますもの。それに、そんな上手い話があるものですか。
「ブリトニー伯爵は条件を付けられた」
「条件?」
「そうだ。事業提携をする代わりにアリックスを嫁に貰いたいと……」
「どのような条件で結婚をするのです?」
「……」
黙秘ですか。相変わらずですわね。
言いたくない事は黙る癖は抜けてません。
「お父様、伯爵様は私にどのような妻をお望みなのです?」
「……っ」
「あれだけの男性ですもの。結婚相手に苦労しない筈なのに、わざわざ友人の妹を望んだ理由はそれでしょう?」
「それは……その」
「それは?」
「伯爵は、その、伯爵家を取りまとめる女主人をお望みだ」
「具体的に言ってください」
「その、つまり、だ。伯爵は自由人だ。束縛を嫌う。それに今も付き合っている女性が数人いる。それらを容認してくれる妻をだな……」
「要は“都合の良い妻”を望んでいると言う事ですね」
「はっきり言えばそうなる」
俯いて黙りこむ父は、私と目を合わせようとなさらない。
恐らく、兄はこの話を受けたのでしょうね。そして私の説得を父に任せたと。
本当に自分勝手な男達だこと。
貴族の令嬢としてはとっくに行き遅れ。
両親や兄とは既に他人も同然の関係を続けていたからこのままだとばかり思っていたわ。
実家に頼らなくとも高収入を得ているから結婚願望なんて失っているに等しい。
「お父様、五年前の約束はお忘れではなくて?」
「いや!忘れてはいない!!」
意外だった。
てっきり忘れているとばかり思っていたわ。
そうでなければ私に形ばかりとはいえ「結婚しろ」とは言えないもの。
「なら、お兄様は?覚えていて私に婚姻を勧めていると?」
「……」
また、だんまりですか。
覚えていても直接会わなければどうにでもなると思っているのかしら?
喉元過ぎれば熱さを忘れる、とはこの事でしょうね。
ですが――
「解りましたわ。伯爵様にお会いしましょう」
「いいのか!?」
「ええ、会って話し合う必要があると判断しました。そうでなければ、お兄様が詐欺師として訴えられかねませんものね」
「……」
「この場合、どちらが訴えるべきかしら?私?それとも伯爵様?」
「……」
「ほほほ、そのような顔をなさらないで。まるで虐めているようじゃありませんか」
沈黙を貫く父を放って、カップに入った紅茶を飲み干すと侍女に父を見送るように促しました。見送り?まさか。そんな面倒な事は致しません。
父が背中を丸めて部屋から出て行くと、そっと息を吐きました。
話題を変えると途端に真っ青な顔をされます。
ええ、勿論、情報源は使用人。それと領民達。私は、どこかの誰かさんと違って領民との関係は良好です。手紙で兄夫婦の内情を教えてくれる程に。
「娘だとか」
「ああ……」
「随分可愛がっているようですわね」
「ああ……」
「今度、子供向けの絵本をお送りいたしますわね」
「…………すまない」
その謝罪はどういう意味を持つのかしら。
謝るから孫娘に何もするなという事かしら?
あの兄の事ですから、娘を産んだ妻に「次は男子を頼む」とでも言いそうです。
そこのところを父は理解していないのかしら?
喉元過ぎれば熱さを忘れる――とは正にこの事。
「それで?私の結婚相手は誰かしら?」
「――――だ」
「はい?聞こえませんわ」
「だからっ、相手の男性はオエル・ブリトニー伯爵だ!」
「あらまぁ」
思わず目を丸くしてしまいました。
随分大物が出てきてしまいましたね。
この国でも相当な資産家。その上、伯爵位の中でもトップの家柄です。しかも社交界を騒がすゴシップ男。美貌、地位、財産、権力、名声の全てが兼ね備わっております。
女好きとしても有名で、殺傷沙汰になった事もあるとかないとか……。そんな御方が私に結婚を申し込んでくるなんてありえません。一体どんな裏があるんでしょう。
「何でまたそのようなお方を?」
「う……む……」
「何か理由があるのでしょう?」
私が訊ねると、渋々話し始めました。
要約するとこういう事らしいです。
伯爵は兄の友人。
兄は次期当主としての実績を欲しがり、友人である伯爵に事業提携を申し出たそうです。馬鹿な話です。お父様から聞いて内心呆れてしまいました。
何故なら、伯爵と事業提携するのは簡単な事ではないのです。伯爵が了承したところで契約内容によってはこちらが不利になる場合だってありますもの。それに、そんな上手い話があるものですか。
「ブリトニー伯爵は条件を付けられた」
「条件?」
「そうだ。事業提携をする代わりにアリックスを嫁に貰いたいと……」
「どのような条件で結婚をするのです?」
「……」
黙秘ですか。相変わらずですわね。
言いたくない事は黙る癖は抜けてません。
「お父様、伯爵様は私にどのような妻をお望みなのです?」
「……っ」
「あれだけの男性ですもの。結婚相手に苦労しない筈なのに、わざわざ友人の妹を望んだ理由はそれでしょう?」
「それは……その」
「それは?」
「伯爵は、その、伯爵家を取りまとめる女主人をお望みだ」
「具体的に言ってください」
「その、つまり、だ。伯爵は自由人だ。束縛を嫌う。それに今も付き合っている女性が数人いる。それらを容認してくれる妻をだな……」
「要は“都合の良い妻”を望んでいると言う事ですね」
「はっきり言えばそうなる」
俯いて黙りこむ父は、私と目を合わせようとなさらない。
恐らく、兄はこの話を受けたのでしょうね。そして私の説得を父に任せたと。
本当に自分勝手な男達だこと。
貴族の令嬢としてはとっくに行き遅れ。
両親や兄とは既に他人も同然の関係を続けていたからこのままだとばかり思っていたわ。
実家に頼らなくとも高収入を得ているから結婚願望なんて失っているに等しい。
「お父様、五年前の約束はお忘れではなくて?」
「いや!忘れてはいない!!」
意外だった。
てっきり忘れているとばかり思っていたわ。
そうでなければ私に形ばかりとはいえ「結婚しろ」とは言えないもの。
「なら、お兄様は?覚えていて私に婚姻を勧めていると?」
「……」
また、だんまりですか。
覚えていても直接会わなければどうにでもなると思っているのかしら?
喉元過ぎれば熱さを忘れる、とはこの事でしょうね。
ですが――
「解りましたわ。伯爵様にお会いしましょう」
「いいのか!?」
「ええ、会って話し合う必要があると判断しました。そうでなければ、お兄様が詐欺師として訴えられかねませんものね」
「……」
「この場合、どちらが訴えるべきかしら?私?それとも伯爵様?」
「……」
「ほほほ、そのような顔をなさらないで。まるで虐めているようじゃありませんか」
沈黙を貫く父を放って、カップに入った紅茶を飲み干すと侍女に父を見送るように促しました。見送り?まさか。そんな面倒な事は致しません。
父が背中を丸めて部屋から出て行くと、そっと息を吐きました。
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