【完結】契約結婚は閃きの宝庫

つくも茄子

文字の大きさ
7 / 21

7.兄との別れ

しおりを挟む
「アリックス!」

「まぁ、お兄様。お久しぶりですわね」

 兄が私の屋敷に来るなど初めての事。
 こちらとしては大して仲の良いとは言えない兄に来られても面倒なだけだった。


「お前!一体どういうつもりだ!!」

「何をそんなに怒っているのですか?」

「これだ!これに見覚えがないとは言わさんぞ!!」

 顔を真っ赤にして怒り狂っている兄が手に持っているのは一冊の本。そう、私の小説。

「なんてことをしてくれたんだ!!こんなもののせいで私は、私は!」

 ああ、自分がモデルだと気付いたのか。

「大丈夫ですよ、それは飽く迄もフィクションですから」

「な、な……」

「そのように取り乱せば、自分がモデルの兄だと証明してしまっているのと同じですよ、お兄様」

 そんな私の言葉に兄はさらに顔を真っ赤に染め上げ、言葉も出ない様子。そんな兄の耳元で私は囁くように言葉をつづける

「…………ですがこれはあくまでフィクション……もし現実にこの小説のような兄妹がいたのならばどうでしょうかね?妹に暴言を繰り返し嫌味を垂れ流す。そんな兄を持つ妹がいるのだとすれば……」

「……は、あ」

「私は、そんな可哀想な少女が一人の人間として自立する本を書いただけのこと。ええ、飽く迄もフィクションの世界ですから」

「あ……あ……」

「ただ、こう言った精神攻撃を繰り返し、責任逃れをし、自分の方が妹よりも優秀だと固辞し続ける事を世間では『モラルハラスメント』と呼び、問題視してるようですね」

「……な……」

 兄の目は完全に光を失っていた。だがそんなことは関係ない。
 まぁ、兄が焦る気持ちも解る。ぼかしてはいるけれど、これはどう見ても私達兄妹の事だもの。常に妹に命令口調で妹を貶し続ける兄。ええ、兄の友人達は気付いているでしょうね。両親だって薄々気が付いている筈。だけど、それを公にすることはできない。一応、貴族としての体面があるから。

「お兄様さえ黙っていればバレませんよ」

「だ、だが……」

「ええ。確かにこれは『フィクション』……ですがお兄様にだって解るでしょう?もしこの話が本当に現実に起こった出来事だとすればそれは大問題になりますからね」

「……」

 私の言葉で完全に黙してしまった兄はフラフラとおぼつか無い足取りで私の横を通り過ぎて屋敷を出て行ってしまった。

 その後、時を置かずして兄は新妻を連れて領地に去って行きました。名目上は「子爵家の次期当主として、領地の経営を学び直す」という事になってはいるらしいですけれども。
 要は逃げたのです。この話を表沙汰にする事も出来ないし、両親に相談する事も出来ず。かと言って妻に相談する事はもっとできない。そんな事を相談すれば妻は離婚届にサインして実家に帰ってしまう事は目に見える。でも私の近くにいるのは怖い。なら領地へと引きこもろうといった心境だったようです。私は別に兄を嫌ってません。好きでもありませんけど。あれで好きという感情になる人間がいたら、それは悟りを開いた聖職者か、もしくは何かに目覚めてしまった人だけでしょう。


 


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

恋を再び

Rj
恋愛
政略結婚した妻のヘザーから恋人と一緒になりたいからと離婚を切りだされたリオ。妻に政略結婚の相手以外の感情はもっていないが離婚するのは面倒くさい。幼馴染みに妻へのあてつけにと押しつけられた偽の恋人役のカレンと出会い、リオは二度と人を好きにならないと捨てた心をとりもどしていく。 本編十二話+番外編三話。

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

【短編】誰も幸せになんかなれない~悪役令嬢の終末~

真辺わ人
恋愛
私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。 自分が愛する人に裏切られて殺される未来を知っている。 回避したいけれど回避できなかったらどうしたらいいの? *後編投稿済み。これにて完結です。 *ハピエンではないので注意。

【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪

山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」 「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」 「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」 「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」 「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」 そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。 私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。 さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪

婚約者の王子は正面突破する~関心がなかった婚約者に、ある日突然執着し始める残念王子の話

buchi
恋愛
大富豪の伯爵家に婿入り予定のイケメンの第三王子エドワード。学園ではモテまくり、いまいち幼い婚約者に関心がない。婚約解消について婚約者マリゴールド嬢の意向を確認しようと伯爵家を訪れた王子は、そこで意外なモノを発見して連れ帰ってしまう。そこから王子の逆回転な溺愛が始まった……1万7千文字。 ネコ動画見ていて、思いついた。

処理中です...