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~後涼殿の章~
第42話型破り中将の正論
しおりを挟む大弐の乳母が言ったように、元後涼殿の更衣の噂は公卿達の間では持ち切りだ。
さも、見てきたかのように言うのだから公卿というのは想像力が旺盛だ。
「実をいいますと、私は見たのです。いつぞや、淑景北舎から男が忍び込んでいる処を。あれはきっと元後涼殿の更衣殿の処に通っておられたに違いない」
なんで、内裏の端っこにある淑景北舎の事情を知ってんだ?
だいたい、女房の誰かに会いにきてた可能性だってあるだろうに。
「しかしこれは由々しき事態ですぞ。元後涼殿の更衣殿がもしも男御子をお産みになった場合を考えると、このままには出来ませんぞ」
「さよう。帝の血を引かぬ者を皇族の地位にいさせる訳にはゆかぬ」
「かと申して、どうするのだ?まさか、元後涼殿の更衣殿に怪しげな薬を渡す訳にはいかぬぞ?」
「ここは俗世から離れてもらうのが一番無難だ」
「生まれてくる御子も?」
「無論。母子共に出家し、御所から離れてしまえばこの件は片がつく」
「しかし、出家と一言で言ってもな。都にいれば自ずと噂になる」
「ならば、都から遠い寺院に送り込めばよい。宇治などはどうだ?」
ヤバい!
不義密通の疑いを掛けられただけでなく、このままいけば元後涼殿の更衣は子供と一緒に出家させられる(無理やりに)!
母更衣との同時懐妊なら間違いなく北山での子。
そして、疑いようもなく桐壺帝の子供だ。
父帝は最愛の桐壺の更衣が再び懐妊したことに大喜びで、元後涼殿の更衣の事など全く眼中にない状態。
この非常事態に!!!
僕が清涼殿に赴いて新しい扇子で父帝と『親子の語らい』をしていた同時刻、蔵人の中将がやらかした。
「元後涼殿の更衣様の腹の子は間違いなく帝の御子であらせられる!
北山での無体な所行は私や二の宮様だけでなく、北山の寺院に居る全ての者達が知っておるので間違いない!
疑うと申すならば、僧都殿に問いただして見よ!いや、北山周辺の住まう集落の者達からでもよい!」
ば・ら・す・な!
おめーなに勝手の言いふらしてんだ!
クソデカボイスのせいで御所中に響き渡ったぞ!!!
北山の僧都は口が堅いし、言いふらすような人物じゃなかったから放置できたけど、ココは放置できねぇんだよ!
宮中の噂は明日には都中に広まっていると言っても過言じゃねぇ!
そんだけ、皆、口が軽いんだぞ!!!
バカたれ!!!
思った通り、噂になった。
そして両親の悪評が更に高まったのは言うまでもない。
父帝は「このような辱めを受けるとは……」とか言っちゃってるけど、今更、恥も何もないだろ!
お前らの株が下がるだけだから問題ない!
騒動の後、元後涼殿の更衣は静かに里下りをした。
今上帝の御子を宿した妃にしては寂し過ぎる出立であった。
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