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~後涼殿の章~
第44話閑話 内大臣side
しおりを挟む「お前が中務卿の宮家の姫君との縁組を勝手に辞退した時は、お前と弟が重なって見えた」
「申し訳ございません」
「廃嫡まで考えたものだ。が、北の方が『息子と弟君は違います』と私を一括してくれたから事なきを得た。少なくとも、お前は愛情だけで按察使の大納言家の姫君を選んでいるかなら」
「はぁ……」
「弟は、結婚相手の財力目当ての結婚だった」
「そうなのですか?」
幼馴染の許嫁をは血筋こそ高貴だったが財力はそこそこだった。
内大臣家としては、家族ぐるみの付き合いである宮家と次男坊との縁組はこれ以上ない良縁であった。今も昔も裕福な家だ。結婚に関して、公家の中では珍しく人柄重視だった。弟にはそれが我慢できなかったのだろう。財力のある大納言家を選んだのがいい例だ。あれは金のかかる男でもあったからな。身の回りの物を一流品で囲い込まなければ気が済まない性格だった。
「ああ、今ではこそ貧乏公家の扱いをされているが、当時は、大臣家にも劣らない財産家であったのだ。弟の舅にあたる人物がかなりの切れ者で、財産管理も飛びぬけて上手かったからな。ただ、娘の夫選びにだけ失敗したが」
「叔父上も大納言だったのでは?」
「大納言といっても、亡くなる数年間に漸くなったものだ。それも、舅の後を引き継いでのものだからな。本人の実力とは言い難いものがあった」
「無能だったのですか?」
我が息子ながら辛辣だ。
弟は頭は良かったんだが実務能力は皆無だった。
「……本人が思っている以上の能力はなかったな」
「無能だったのですね」
もう少し遠回しにいえんのか?
あまり人の事は言えんが、この息子の性格では宮仕えは苦痛なのかもしれん。
「桐壺の更衣が帝の寵愛を受け、第二皇子をお産みになるまで、大納言家は過去の栄光に縋って生きていたといっても過言ではなかった。その栄光も先代のものだ。大納言家が未だに資産で食いつないでいけているのは間違いなく先代のお陰である。やり手であった先代から受け継がれてきた資産も残念ながら先細りになっているがな」
「その御様子では、叔父上の代から資産を切り崩していたのでは?」
「……弟は財産管理が余り上手くなかったようでな。それを指摘する家人もいたが弟が解雇している。大納言家の当主になった弟にとって下の者からの助言は屈辱以外の何物でもなかったのだろう。誇りだけは富士の山よりも高かったからな」
「よくもまぁ、そんな男を娘婿に迎えましたね」
一人娘だったからな。
大納言家の姫が弟を一目見て恋に落ち、恋煩いで寝込んでしまっては大納言も折れるしかなかったのだろう。何といっても一人娘を溺愛していたのだ。
「姫君が弟に惚れ込んでいたのも先代の目が曇ってしまった理由だろう。なにせ、当時の弟は『光り輝く貴公子』として名高かったからな」
「顔だけの男を選んで失敗した例ですね」
「まぁ…そうだな」
厳しいな。
その通りだから何とも言えないが。
「義妹となった大納言家の姫も、弟同様に私とは馬が合わない人でな。今更、親戚付き合いも無いと思っているが、主上が桐壺の更衣の後ろ盾を探していると聞くと穏やかにはいられない。血縁関係を盾に勅命されれば、我が内大臣家の逃げ場はない」
「主上は二の宮様を東宮に立てようと考えているのですか?」
「噂に疎いお前でも小耳に聞いた事はあるだろう」
「ただの世迷言と思っておりました」
「大多数の者にとっては世迷言だ。だが、それを真に受ける阿保は何処にでもいる。官位が低い者に限って信じる傾向にあるのも問題だ。」
身分制度を覆すきっかけに成りかねない。
そうなれば、政局にどれだけ影響を受けるか想像もできん。
「父上……」
息子は元後涼殿の更衣とも交流がある。
人望厚い大納言の一の姫。
父亡き後は幼い兄弟しか残されていない。
「後見人か……博打に成りそうだ」
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