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番外編~イートン校の誇りが守られた日~
33.正反対の二人
しおりを挟む新学長と元学長。
この二人もまたイートン校の卒業生であった。年齢もそう離れていない事もあり、教育者になってからは自他共に認めるライバル関係でもある。
保守派と改革派。
それ以外でも性格など正反対の二人は正に水と油だった。
現にカーディ新学長は元学長が苦手である。
嫌いと言う程ではない。だが、元学長のフレンドリーな態度と距離感の近さがどうも合わなかった。
生真面目で融通が利かない終始鉄仮面のカーディ新学長。
茶目っ気のある親しみやすい笑顔を浮かべる元学長。
規律に厳しく厳格なカーディ新学長に対して、自由奔放な緩さを持ち合わせる元学長。
伝統と歴史を大切にするカーディ新学長と柔軟さと革新性を重視する元学長。
どちらも悪い人間ではないが人好きのする元学長は生徒から絶大な人気があった。
それでも今回の学長選に負けたのは何も元学長が画策しただけではない。多様性を大事にする元学長。長期政権はよくない的な事を言われると思う所はあるのだ。もっともそれが海千山千の老獪の甘い言葉に誘導されていたとしてもだ。
新しい学長に選ばれたカーディ教授がここまで嫌がるのには訳があった。
話は少し遡るが、イートン校の授業に学外実習というものがある。
これは毎年行われている恒例行事であり、学生の社会進出に向けての協調性と自立を補う為の重要な授業でもあった。
そこで起こった悲劇。
いや、惨劇とでもいようか。『食中毒事件』がおきた。それもかなり悪質な物だ。そして運が悪い事にそれを起こした犯人は新入生。たった一人の新入生によってもたらされた惨劇は学校に震撼を与えた。病院に担ぎ込まれた中にはカーディ教授が目をかけていた教え子がいた。しかも複数。当然、カーディ教授は怒った。
「犯人の生徒は今すぐに退学させるべきだ」
個人感情が入っていなかったとは言えない。それでも彼の主張は一定の説得力があり教師陣の大半は賛同をした。
だが、ここで一つの問題が起きた。
その生徒は『神童』と言われるほどの秀才であったからだ。
確かに犯人ではある。
だが何もわざと食中毒になるものを作ったわけではない。彼は普通に言われた通りの食材を使い言われた通りに調理しただけだ。その証拠にカメラ映像でも何もおかしな点は一切なかった。寧ろ、あの材料と調理方法でなぜ食中毒が起きるのか不思議なくらいである。それでも出来上がった料理はこの世の物とは思えない出来栄え。味は食べたもの曰く「記憶に残るのを拒否するような味だった気がする」とのこと。それはそれで凄まじい話なのだが、何よりも恐ろしい事は彼の作った料理を食べて病院送りになった生徒が二桁を越えた事であろう。ちなみにその後の被害はない。何故なら彼が作ったとされる食事を口にして意識不明に陥った生徒たちは一人残らず病院のベットの上で目を覚ましたからだ。ただ、全員が全員「連帯責任なので彼一人のせいではない」と言い放った。
「犯人を野放しにするなど以ての外。速やかに彼を警察に渡すべきだ」
カーディ教授の言葉に病院送りになった生徒達は「否」を唱え続けた。
「かの生徒に悪意が無いのかもしれないが、これは列記とした犯罪だ」
カーディ教授の言葉は正しい。
だが、教授は一つ忘れていた。病院送りになったのは貴族階級に属する生徒のみだと言う事を。自身も貴族階級出身だと言うのにだ。決して忘れてはいけない。彼らは「自分達は被害者だ」と主張する権利を有しているのと同時に大変プライドが高い。どれほと高いかというと、エベレスト並みの高さである。同級生、下級生の作った料理で病院送りにされそれを非難したとあっては貴族の名折れ。そこは大らかな心をもって許しを与えるのが美徳というもの。
結果、「これは偶然が重なった事故のようなもの。我々は気にしていない。寧ろ、入学して間もない学生を寄ってたかって非難するなど浅ましい真似がどうしてできようか」的な感じで犯人はお咎め無しとなった。例えそこに狭いイギリスの上流階級のあれやこれやの損得勘定が多少動いたとしてもだ。
そんな事もありカーディ教授はかなり犯人である新入生を警戒していたし、彼の起こす騒動に頭を悩ませてもいた。
だからこそカーディ教授にとってこの話はこれ以上ない程の面倒事でしかなかった。
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