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番外編~在りし日の彼ら~
53.似たもの兄弟1
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リーンゴーン。
教会の鐘が鳴り響く中、一組のカップルが新しい門出を迎えた。
「まさか、あの子が結婚する日がこようとは……」
ポツリと零したのは今日の主役の一人、ロイド・マクスタードの兄だ。それに深く頷いたのは横にいるロイドの姉。
にこやかに主役の二人を祝福している両親は表面上は兎も角、内心は大いに慌てふためいていた。
何かと問題を起こす末息子がまともに結婚した事にではない。
相手が同性なのは些細な問題だ。
それが異国の人間であろうと、国際結婚が多い国ではよくある事だ。
では何を驚いているのかというと、相手が未成年にしか見えない上に天然の性格が垣間見えたせいだろう。
((この日本人は息子の性質を知っているのだろうか?))
夫婦の心の声が聞こえてきそうだ。
心なしか、イギリス側の出席者たちの笑顔は若干引きつっていた。
「欲しいな」
「何がです?」
「あんなに幸せそうなロイドは始めてみた」
「好きな相手との結婚ですからね」
「いい笑顔だ。羨ましい」
「なら、お兄様も結婚なさったら宜しいのでは?何度目の再婚かは問いませんが」
「オリヴィア、私は『欲しい』と言ったんだ」
「ですから」
「ロイドの伴侶が欲しい」
妹の言葉を遮り告げられたのは最低のセリフである。
オリヴィアは呆れた顔で兄を見ると、冗談ではない事を確信した。それから周囲を見渡す。どうやら兄妹の会話を聞いていないようだ。
「弟殺しは止めて頂戴」
弁護士として、人として至極真っ当なことを言った。
何故ここで殺しの話になるのかというと、今は廃れたとはいえ、兄弟が亡くなった場合に財産を守るという名目で「兄弟の妻」を娶る習慣があったからだ。かの悪名高きヘンリー八世の最初の妻、キャサリン・オブ・アラゴンは「兄の妻」だった女性。歴史を紐解けばそんな例は枚挙にいとまがない。
「オリヴィア、私は何も未亡人の彼が欲しい訳じゃない」
「マスミを望んでいると言ったではありませんか」
「離婚して再婚すれば問題ないだろう?」
大問題だ。
未亡人になった弟の妻を哀れに思って嫁に貰うのとは訳が違う。
「オリヴィアも彼を気に入っていだろう?」
「どうしてそう思うのです」
「分かるさ。私達兄弟はよく似ている」
「私とお兄様は別として、破天荒なロイドと一緒にされたくないのですが……」
「私達は理性で自分自身を押さえつけている面が多いからな」
「まるで根は同じと聞こえます」
「ああ、その通りだ。根っこは一緒だ」
物凄く屈辱的な発言が飛び出してきた。
オリヴィアは自ずと顔を顰めていくのが分かる。
「そんな顔をするな。本当は自分でも分かっているだろう?」
「……」
「無言は肯定と取るぞ」
「……それで、どうなさるんです?」
「今の処はロイドに預けて置こう」
「直ぐに奪い取るのかと……」
「私はそこまで短絡的な考えは持っていない。ロイドと違って常識的な彼のことだ。義兄など恋愛の対象外だろうしな。気長にいくさ」
最後に自分の物になれば問題ない――――そんなニュアンスが含まれていた。気のせいではなく。そしてそこには「未亡人」になるのを待っても良し、というものまで含まれているのを察しのいいオリヴィアは気付いていた。
ただ、マスミの場合は正面から正々堂々と行った方が効果的であり、兄のように姑息な手段を取るより遥かに勝率は高い事も分かっていた。だから敢えて口にしなかったのだ。何故か。それはこれから自分も参戦するからである。恋敵に塩を贈るような真似をする程、彼女は甘くはない。
そんな二人の思惑を知らないマスミは、晴れやかな気持ちで祝福を受けていた。もっとも、ロイドは兄と姉の不穏な動きは既に察知していた。
(二人とも油断ならないからな)
しかし、彼はそれをおくびにも出さない。
余裕の表われと思うかもしれないが、実際は違う。余裕が無いからこそ情報収集を怠らないだけなのだ。
教会の鐘が鳴り響く中、一組のカップルが新しい門出を迎えた。
「まさか、あの子が結婚する日がこようとは……」
ポツリと零したのは今日の主役の一人、ロイド・マクスタードの兄だ。それに深く頷いたのは横にいるロイドの姉。
にこやかに主役の二人を祝福している両親は表面上は兎も角、内心は大いに慌てふためいていた。
何かと問題を起こす末息子がまともに結婚した事にではない。
相手が同性なのは些細な問題だ。
それが異国の人間であろうと、国際結婚が多い国ではよくある事だ。
では何を驚いているのかというと、相手が未成年にしか見えない上に天然の性格が垣間見えたせいだろう。
((この日本人は息子の性質を知っているのだろうか?))
夫婦の心の声が聞こえてきそうだ。
心なしか、イギリス側の出席者たちの笑顔は若干引きつっていた。
「欲しいな」
「何がです?」
「あんなに幸せそうなロイドは始めてみた」
「好きな相手との結婚ですからね」
「いい笑顔だ。羨ましい」
「なら、お兄様も結婚なさったら宜しいのでは?何度目の再婚かは問いませんが」
「オリヴィア、私は『欲しい』と言ったんだ」
「ですから」
「ロイドの伴侶が欲しい」
妹の言葉を遮り告げられたのは最低のセリフである。
オリヴィアは呆れた顔で兄を見ると、冗談ではない事を確信した。それから周囲を見渡す。どうやら兄妹の会話を聞いていないようだ。
「弟殺しは止めて頂戴」
弁護士として、人として至極真っ当なことを言った。
何故ここで殺しの話になるのかというと、今は廃れたとはいえ、兄弟が亡くなった場合に財産を守るという名目で「兄弟の妻」を娶る習慣があったからだ。かの悪名高きヘンリー八世の最初の妻、キャサリン・オブ・アラゴンは「兄の妻」だった女性。歴史を紐解けばそんな例は枚挙にいとまがない。
「オリヴィア、私は何も未亡人の彼が欲しい訳じゃない」
「マスミを望んでいると言ったではありませんか」
「離婚して再婚すれば問題ないだろう?」
大問題だ。
未亡人になった弟の妻を哀れに思って嫁に貰うのとは訳が違う。
「オリヴィアも彼を気に入っていだろう?」
「どうしてそう思うのです」
「分かるさ。私達兄弟はよく似ている」
「私とお兄様は別として、破天荒なロイドと一緒にされたくないのですが……」
「私達は理性で自分自身を押さえつけている面が多いからな」
「まるで根は同じと聞こえます」
「ああ、その通りだ。根っこは一緒だ」
物凄く屈辱的な発言が飛び出してきた。
オリヴィアは自ずと顔を顰めていくのが分かる。
「そんな顔をするな。本当は自分でも分かっているだろう?」
「……」
「無言は肯定と取るぞ」
「……それで、どうなさるんです?」
「今の処はロイドに預けて置こう」
「直ぐに奪い取るのかと……」
「私はそこまで短絡的な考えは持っていない。ロイドと違って常識的な彼のことだ。義兄など恋愛の対象外だろうしな。気長にいくさ」
最後に自分の物になれば問題ない――――そんなニュアンスが含まれていた。気のせいではなく。そしてそこには「未亡人」になるのを待っても良し、というものまで含まれているのを察しのいいオリヴィアは気付いていた。
ただ、マスミの場合は正面から正々堂々と行った方が効果的であり、兄のように姑息な手段を取るより遥かに勝率は高い事も分かっていた。だから敢えて口にしなかったのだ。何故か。それはこれから自分も参戦するからである。恋敵に塩を贈るような真似をする程、彼女は甘くはない。
そんな二人の思惑を知らないマスミは、晴れやかな気持ちで祝福を受けていた。もっとも、ロイドは兄と姉の不穏な動きは既に察知していた。
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しかし、彼はそれをおくびにも出さない。
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