悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

文字の大きさ
30 / 85
20年後

29.王太子視点

「王太子殿下、お帰りなさいませ」

「ああ」

「公爵様の御様子は如何でしたか?」

「自分が何をしたのか理解していなかった」

「それはまた……」

「公爵もそうだが、国王陛下もレオーナ様の価値を全く理解していなかった」

「やはりそうでしたか。では……」

「レオーナ様が描く絵の価値を知らない。彼らにとっては『綺麗な絵』としか捉える事はできなかったのだろう」

「国王陛下方を責めることはできません」

「ああ、我々も知らなかった。枢機卿猊下に言われるまでな。情けない話だ」

 『祝福を受けし者』の存在は伝説とされている。
 それはそうだろう。
 一生に一度会えるかどうか分からない相手だ。
 世界の大半の人間は神話時代の話だと思っている。

 その上、『祝福を受けし者』の『加護を受けた者』など更に希少性が高い。
 そんな存在がいる事自体信じられない。まさかその存在がレオーナ様だったとは。

「幸運を運んでくる絵、悪しきものを滅する絵。描き手であるレオーナ様が亡くなった以上は残っている絵は全て神殿に寄付する事が決まった」
 
「宜しいのですか?」
 
「どれが『幸運の絵』なのか誰も鑑定できない状況だ。中には真逆の『不幸を呼ぶ絵』がないとも限らない。下手に国に置いて何らかの災いが怒らないとも限らないからな」
 
「そうですか」

「残念だが仕方ない。レオーナ様はこの国に殺されたようなものだ。幸運を運んでくる絵ばかりを描き残してはいないだろう」
 
「……はい」

 引き取り先はビンチ枢機卿の神殿だ。
 芸術をこよなく愛するかの人なら悪いようにはされないだろう。





 神殿から破門宣告をされたからといって、国が滅ぶ訳ではない。
 それでも王家は権威を失い、周辺国から失笑と侮蔑を受けながらも何とか国の舵取りを行っていた。
 
 最初の異変は、とある侯爵家のメイドからだった。
 メイドはある日急に苦しみだし、高熱に魘されること十日後、息を引き取った。

 次は伯爵家の庭師だ。
 庭園の手入れ中に倒れてそのまま帰らぬ人となった。

 その次はとある子爵家の次男だ。
 何の前触れもなく原因不明の病を発症し亡くなった。
 
 その後も次々と人が急死していく。
 
 最初は流行り病かと思われた。
 だが、平民達はいつも通りの生活をしている。
 貴族の極一部の者だけが次々に謎の病に倒れていったのだ。
 ある者は心臓麻痺を起こし、ある者は突然苦しみ出して泡を吹きながら悶死した。
 一体何故こんな事が起こっているのか? 貴族達の間で噂が流れ始めた。
 

 
「それは本当か?!」

「はい、調査の結果、亡くなった者達には共通点がございました。全員がランジェリオン公爵家に以前勤めていた者達です。しかもレオーナ様の絵を所持しておりました」

「何故、レオーナ様の絵を?」

「分かりません。家族の誰も絵の事は知らなかったようです」

「レオーナ様が贈ったとは考えられないな。公爵も使用人に絵を贈るタイプじゃない。となると、盗んだのか?」
 
「恐らく」
 
「絵を持っていた者が謎の死を遂げたということか。まさか、あの絵が原因だというのか?」
 
「まだ断定はできませんが可能性は高いと思われます」
 
「まさか…………」
 
「調査を続けさせておりまが恐らく何も出てこないでしょう」
 
「その絵を撤収できるか?」
 
「可能です」
 
「ならば至急頼む」
 
「畏まりました」

 それから数日後、絵の撤収が完了した。
 回収した絵を調べたが特に変わったところはなかった。ただの偶然ではない。狙ったかのように公爵家の元使用人たちばかりだ。

 レオーナ様の絵はビンチ枢機卿に献上し神殿に保管されることになった。


 だから知らなかった。
 まさかレオーナ様の絵を盗んだ者が他にもいた事を。

 それが公爵の愛人であった女性だとは――――

 かの女性ミリアリアは恋人の公爵とは別の男と結婚した。
 実家の命令か、それとも落ち目となった公爵に見切りをつけたのかは分からない。
 だが彼女の結婚相手は他国の羽振りの良い貴族だった。
 彼女は結婚して暫くすると未亡人となった。事業に失敗した夫は多額の借金を苦にしての自殺だった。夫の借金のカタとして彼女は娼館へと売られていった。その後の行方は分からない。庇護欲をそそる容姿であるものの、美貌の持ち主という訳でもなく、若さも失っている彼女がどのような扱いを受けてきたのか想像できるというものだ。流れ着いた先は地獄だろう。

 一人の女のせいで、国は衰退の道をゆっくりと歩んでいる。
 あの女が死んだという知らせは届かない。
 長く苦しんで死んでくれ。そう願わずにはいられなかった。


感想 126

あなたにおすすめの小説

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。 番外編(編集済み)と、外伝(新作)アップしました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路

藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。 この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。 「聖女がいなくても平気だ」 そう言い切った王子と人々は、 彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、 やがて思い知ることになる。 ――これは、聖女を追い出した国の末路を、 静かに見届けた者の記録。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

私は善意に殺された・完結

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?