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100年後
46.シャルル王太子視点2
しおりを挟む「今日をもってロベール王家を解体する。王国は枢機卿団の元で運営される」
宣言したのは枢機卿の一人だ。
私達は抵抗することもできずに従った。
数日後、父上は『公爵』の地位と嘗ての王領を領地として与えられた。
一代限りの爵位。
それが何を意味するのか悟ってしまった。
殺されなかっただけ良かったと喜ぶべきだろうか。
それとも潔く散るべきだったのだろうか。
分からない。
目まぐるしく過ぎた日々。
私は王族で無くなった。
その事は嫌でも理解出来た。
『これからは自由に生きられる。君が望んだ結果だ』
最後に囁かれた言葉が何時までも耳に残った。
自由――
渇望したもの。
それを手に入れたと思った。
だが、『自由』とは何だろう?と――
私は知らなかった。
自由と不自由は表裏一体である事を。
『君が望んだ結果だ』
また声が聞こえた気がする。
望んだこと?
これが?
私は王太子の地位を失った。
もう王族ですらない。
歴史書に『最後の王太子』と記されている。
国王になる事のなかった王太子として――
生まれ育った王宮を出る時は何故か「嫌だ」と感じた。
私にとっては監獄も同然の場所だと言うのに。
何故か悲しかった。
見送りに大勢の使用人たちが来ていた。
彼らはこれからも王宮で出仕するらしい。
王族がいないのに……。
主のいない城を運営する気か?
私が不思議そうな顔をしていると、女官長が「枢機卿の方々が暫く住む事になりました」と教えてくれた。
それを聞いて納得した。
「シャルル様、これでお別れになりますが、どうかご自愛くださいませ」
永久の別れの挨拶のようだと苦笑した。
国外に追放された訳じゃない。
いつかまた会える。
両親を見ると、別れを惜しむ家臣達に囲まれていた。
「王族から貴族になるだけだ」
私の小さな呟きに気付く者はいなかった。
元は王領。
土地からの収入源で生活は十分できた。
流石に、元の生活のままという訳にはいかない。
当然、生活の質は落ちた。
以前なら当たり前に飲んでいた紅茶の茶葉。そのランクを落とした。
肉中心の食生活は野菜中心になり、ワインの代わりに果実酒に。
オーダーメイドの一点モノの服も既製服へ。
随分と質を落とした生活だとつくづく実感した。
慣れるのに数ヶ月かかった。
それでも今目の前で起こっている事に比べれば些細なものだ。
「母上?何をなさっているのですか?」
目を覆う光景が広がっていた。
母が、元王妃が掃除をしている。これには驚かずにはいられないだろう。
「見て分からない?屋敷を掃除しているのよ」
「いえ、それは分かります。私が言いたいのは何故母上が掃除をしているのかと言う事です。メイドはどうしたんですか?」
職務怠慢だろう。
女主人に自分達の仕事をさせるなど!!
田舎だからか?
まともに仕事も出来ないとは!!
憤慨する私に母はキョトンとした表情をする。そして笑いだした。
そんなにおかしな事を言っただろうか? 私は真面目に話していると言うのに。
「嫌だわ、シャルル。あの子達は辞めたわよ」
「辞めた!?」
信じられない言葉だった。
何も言わずに出て行くなど。一体何様のつもりなのだろうか。
「無責任にも程がある!!!」
「あら?どうして?」
「ど、どうしてって……母上!彼らは!」
「雇用期間が終わったのだから止めるのは当然でしょう?雇用の延長など求めなかったのだから」
「はぁ!?」
「元々、半年間の契約だったの」
そう言って母は私に説明してくれた。
公爵の地位は名ばかりに過ぎない事。
実質的に地方の伯爵クラスの生活水準だという事。
ただ、父が死ねば自分達は「平民」の身分になる。
そうなれば生きていけないと危惧していたそうだ。
その為、使用人達に屋敷の仕事と並行して家事を教わっていたらしい。
「お父様が亡くなった後は爵位と領地は国に返還しなければならないわ。今は土地からの収入があるから生活には困らないけれどね。でも、土地からの収入を断たれると生活できなくなるわ。だから少しでも節約しないといけないのよ」
確かに母の言う通りかもしれない。
ただ―――――
この惨状を見て素直に納得できなかった。
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