悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

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100年後

48.シャルル王太子視点4

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「どうしたの?」

「いえ……」

「何か言いたい事があるのでしょう?」

 母上に見透かされた。
 流石は母親というところだろう。なんでも見通している。

「母上、ひとつ聞いても構いませんか?」

「なにかしら」

「何故、母上は父上と別れないのですか?」

「おかしな事をいうのね。別れる理由なんてないでしょう?」

「ですが、父上と離縁なされば母上は実家に帰る事ができます」

「何故?」

「母上の身分ではこのような暮らしをなさる必要はないと言っているのです。侯爵家から定期的に手紙が届いている事も知っています」

 そうなのだ。
 母の実家は母上の窮状を知って父上と離縁して戻って来るようにという内容の手紙を送ってくる。
 母上はそんな実家の願いを聞き入れず、離婚を拒んでいる状態なのだ。

「あなたは誤解しているようね」

「誤解ですか?」

「そうよ。私は何も後悔はしていないわ。王家に嫁いだ時から覚悟はしていた事ですもの。確かに生活環境の変化には戸惑ったけど、今の生活に不満はないの」

「不満がないですか?」

 信じられなかった。
 侯爵家の令嬢として生まれ育ち、王妃にまでなった女性がこのような不自由な生活を強要され不満に思わない筈がない。笑っていても、それは表面的なものだとばかり思っていた。本心を隠すのが王侯貴族というものだ。

「あなたは未だ分かっていないのね」

 母上の言葉が理解できなかった。
 何を言いたいのか分からない。


 数年後、母が屋敷をホテルに改装した。
 屋敷の敷地内には果樹園もある。軌道に乗るのはまだまだ先だったが、いずれは収益を上げるだろうと言われていた。

 元王家所有の屋敷という触れ込みは宣伝効果があったようだ。

 村人をホテルの従業員として雇い入れて運営をしている。
 このホテルが国一番の人気を誇るようになるとは、この時は誰も予想していなかった。
 その頃には父は他界し、私は商人として忙しく働く毎日だったからだ。

 結局、私は国に留まる選択はしなかった。
 新しい場所で、誰も知らないところで何もかも最初から始めた。

 商人の世界は思った以上に厳しかった。

 貴族社会でないにも拘わらず、彼等は私の事を知っていた。

 商人は情報が命だ――

 私に商売を教えた人物の言葉だ。

 自由になったと思ったのに、以前よりも不自由を感じた。
 王族でなくなったことにより私は守る術を失っていた。

 何度も騙された。
 身ぐるみはがされる寸前まで行った事もある。
 それでもなんとか切り抜けてきた。
 その度にあの頃の自分を悔やんだ。そして今の自分を見て嘲笑する。
 ただただ生きる事に必死になっているだけだ。
 だが、不思議と辛くはなかった。
 それが普通だと知ったからだ。これが自分の選んだ道なのだから……。
 そんな日々の中で時折、聖王国の話を聞く。


 元婚約者は『聖女』になったと――――


 

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