悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

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200年後

61.軍人視点

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 勇者様方は個性的だった。

 黒髪の勇者……といっても他にも黒髪の勇者はいる。
 ただ、正論を並べ立てた人物が黒髪だったので、つい彼のことを『黒髪の勇者様』と呼んでしまう癖ができた。

『命の保証はあるんですか?』

 最初は勇者の癖になにを言っているんだと思った。
 しかし、冷静に考えてみると、もっともな話だった。
 更に彼は「自分の世界のことでもない。自国のことでもないのに戦えと?」と続けたのだ。

『この世界に軍人はいないんですか?』

『他の世界の民間人を巻き込むつもりなんですか?』

 立て続けに言われたセリフ。
 軍人は要ると答えると、「プロがいるのに異世界の人間に頼るんですか?」と心底不思議そうな顔をされた。
 まるで何を言っているんだ?と言わんばかりだ。

『軍人が魔王を倒せば良いのでは?』

『軍人が魔王を倒せないなら、民間人の私達が倒せると思えないのですが』

『勇者といっても一般人ですから』

 正論だった。
 何も反論できなかった。

 魔王を倒すのは勇者の宿命だと神官たちが訴えたが、黒の勇者は納得しなかった。

『流石に引きますよ。他力本願にも程がある……』

 最後の方はポツリと呟かれただけだったが、黒の勇者の本心だったと思う。
 確かにその通りだ。
 耳が痛い。

 他の勇者たちは俺達をゴミでも見るような目で見ていた。
 悔しかった。
 だがそれ以上に、黒の勇者に憐れみの目で見られることが堪えた。

 あの目が言っている。

 可哀想に……と。








 黒の勇者に言われたからというのもあるが、こちらとて軍人の誇りというものがある。勇者に憐れまれるなど、恥以外の何物でもない。
 だから、黒の勇者が剣を上手く使いこなせないでいるのを見た時、思わず「勝った」と思ってしまった。
 他の勇者たちは何とか様になっていた。
 しかし、黒の勇者は違う。
 だから勘違いしていた。
 黒の勇者は剣が苦手なのだと。

 だが、違った。

「これをですか?」

 何度も聞いてしまった。
 なにしろ黒の勇者が所望した剣は片刃だったからだ。
 片刃の剣は美術品としての価値が高い。
 だが、それは美術品としての価値があるだけでなく殺傷能力も高いからだ。
 片刃の剣は扱いがかなり難しい。
 実際に使用する者は稀だ。

 それを彼は所望した。

「はい。お願いします」

 黒の勇者はハッキリとそう答えた。
 迷いがない。
 彼は本気で片刃の剣を使うつもりなのだと感じた。
 そして、それは正しかった。

 比較的早く用意できた片刃の剣。
 それを黒の勇者は軽々と振るう。
 そして、片刃の利点を生かす戦い方を心得ている。なるほど。
 黒の勇者はこの剣に慣れている、と言っていたのは本当だった。

 彼の国では片刃の剣がポピュラーな剣の主流だと言う。そんなことがあるのだろうか?よほどの使い手でなければ扱えない剣だというのに。嘘を言っているようには見えない。もっとも、今は違う武器が一般的だそうだ。それでも剣といえば片刃の剣らしい。

 黒の勇者が片刃の剣を振るうと、他の勇者たちは大興奮していた。
 どうやら勇者たちの世界でも片刃の剣は珍しいようだ。




 そうして我々は勇者様方一行と魔王討伐の旅へと出発した。



 

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