悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

文字の大きさ
66 / 85
200年後

63.魔王討伐後2

しおりを挟む
 黒髪の勇者。

 彼の名前は『大河勇樹』。
 思った通り日本人だった。


「本当に良かったんですか?この国に残って」

「はい」

「貴族になる事だって王族の猶子になる事だってできたんですよ?」

「はい」

「……この国で貴族の称号は欲しいですか?」

「遠慮しておきます」

「無欲ですね」

「私がですか?」

「ええ」

「大聖女様、それは違います。私はとても強欲です」

「そうでしょうか?」

「はい。こうやって王宮内に住まわせてもらっていますからね」

「当然です」

 なにしろ、彼は地位も名誉もいらないと公言している。
 それを言葉通りに受け止める事はできないし、彼自身も衣食住の保証はして欲しいと言ってきた。
 だから私は彼を王宮に住まわせている。

 客人として――――

 客といっても彼は自分一人でなんでもできる。
 身の回りの世話役は必要ないという本人からの希望だ。

 これで欲深いと言われたら他の勇者たちはどうなるというのか……。


「私は一般庶民ですから」

「はぁ……」

「王侯貴族の生活なんてできません。恥を晒すだけですよ」

「そうですか」

「大聖女様はどうですか。庶民に王侯貴族の生活ができると思いますか?本物の王族のように振る舞えると?」

「無理……とは言いませんが相当な努力は必要でしょう」

「ですよね?だから私は王侯貴族にはなりたくないんです。それに伴う義務も責任も果たせそうにありませんから」

「なるほど。理解できました」

「納得していただけましたか?」

「はい」

 彼は本気で王侯貴族の生活は無理だと言っている。
 そして、それは彼の本音だと感じた。
 本人の申告通り、彼は結構な年齢で亡くなっていた。
 激動の昭和を生きた世代だ。
 王族や貴族の在り方を知っているのだろう。

 これが現代の若者ならまた考え方は違っていたかもしれないけど。

 まあ、仕方ないわよね。

 ある意味では彼の選択は正しいと言えるだろうし。

 私も知らなかったけど、他の勇者たちは比較的若い世代だったらしい。
 元の世界で死んでいることは間違いないけど、老齢とは言い難い。

『爺は自分だけですよ』

 そう言った大河勇樹の言葉に嘘はないでしょう。
 これは一度、ゴールド枢機卿と話し合う必要がありそうだわ。

 それに彼から聞いた不可解な現象も気になるのよね。



しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

処理中です...