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第二章
74.徳妃side
しおりを挟む数日後――
賢妃は、最下級の位である「采女」に降格され冷宮行きとなった。
「内侍省による尋問はなかったようです」
私付きの侍女は中々の情報通でもある。内侍省にも顔が利く。もともと殷家に仕える家柄の娘。妃の直属の侍女は大半が実家から共に来た者に限られる。その侍女の殆どがそれなりの家柄。私の侍女が知る情報は他の妃の侍女にも当然、それくらいの情報は直ぐに手に入るものだった。
「そう……乳母の件は何処まで広がっているの?」
「未だに内密になっておりますが、恐らく、大体の妃達は知っているかと思われます」
「まぁ、無理もないわね。賢妃にへばりついていた乳母が彼女の傍にいないとなれば察する者も多いでしょう」
入内してから今まで賢妃はずっと乳母の背中に隠れている存在だった。
最初は、乳母まで連れてくるなどなんて箱入りなのかと思われた程に。
あの乳母があそこまでしゃしゃり出ていたのも賢妃が大人し過ぎる事を案じての事だろう。一人では何もできない姫様、と言わんばかりに色々と手を打っていたのを覚えている。乳母の働きかけもあってか、当時は低い身分の妃だった賢妃に同格の妃達が何くれとなく話しかけたりしていたようだけど……まともに妃の輪に入らなかった賢妃が孤立したのは自然の事だった。今にして思えば、賢妃には気に食わない行為だったのかもしれない。あれで気位の高い女だから……。
何も言わずに目や仕草で相手に察してもらおうとする態度は最悪の一言に尽きた。目は雄弁に語るとは言うけれど、あの賢妃ほど顕著だった者はいない。
“どうして私を理解してくれないの?”
“どうして私をのけ者にするの?”
“どうして私の知らない話をするの?”
そんな風に目で語られる事が多々あった。
この後宮で「察してくれ」という受け身では到底、生き残れない。
賢妃は運が良かった。
行動的な乳母のお陰で貴妃の“義妹”となり、皇帝陛下の子供を産んだのだから。
賢妃の降格とそれに伴う冷宮送り。
これが表の権力争いに関連していない事は皆が知っていること。近いうちに賢妃の罪が公表されるとはいえ、既に答えにいきついている者は多いはず。乳母の犯した過ちはそのまま主人である賢妃の罪になる。
皇帝陛下の逆鱗に触れて冷宮送りになった妃の末路は二択。劣悪な環境で病によって亡くなるか、または狂うか……。
「そう長くは持たないでしょうね」
「徳妃様……」
「容色が衰えて朽ち果てるだけの人生なら早く終わらせた方が逆に親切というものだわ」
鄧家は賢妃に対して何もしないでしょう。
抗議の声を上げる事は決してしない。
もし、何か不穏な行動をすれば淑妃の実家が抑え込む手はずになっているはず。
乳母だけの単独ではない。
そう考える者が一体この後宮で何人いることか。
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