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第二章

77.包青side

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 巽淑妃が子供を出産した。
 それも皇子を。

 国中この慶事に沸き立った。
 その反面、後宮の妃達はこの慶事を表面的には「喜ばしい」と喜びつつも、水面下では様々な思いを抱いた。ある者は落胆し、ある者は憎悪をたぎらせ、ある者は恥辱に震えた。無理もない。既に十数人という皇子がいながら国を挙げて誕生を祝われているのだから。淑妃の産んだ第十五皇子はこれで皇太子の位に最も近くなったと噂されている。一部の妃はショックで床につく者まででる始末だ。後宮内には不穏な空気が満ち満ちていた。

「気鬱の病か……」
 
「はい……。祝賀の宴を開こうにも後宮の大半の妃が寝込んでおりますゆえ……」
 
 誕生した皇子の祝賀の宴を執り行うように命じられたが、肝心の出席者が軒並み病で寝込んでいることで宴を開くことができない。

「まぁ……誰も出たくはねぇだろうさ」

「包長官……」

「よその妃が産んだ皇子の祝いなんかしたくねぇだろ。それも後宮に入って日が浅い淑妃が産んだ子だ。その子が今や皇帝の地位に一番近いとあっては心中穏やかではいられないだろうぜ。仮病だと分かっていても『気鬱の病』って言われたらオレたちじゃどうにもなんねぇしな」
 
「……後宮を代表して貴妃様が謝罪に来られましたからね」

 高力は深く溜め息をついた。
 オレも溜息がでるぜ。

 後宮の秩序と妃達の心身の不調のためにも宴は取り止めて欲しいと先ぶれをだして内侍省に足を運んだ貴妃に深々と頭を下げられた時は流石にいたたまれなかったが、その瞳の奥に底知れぬ何かを感じた気がしてならなかった。それが何かまでは判らない。だが、とてつもなく恐ろしいものを秘めているようなそんな感じだった。
 
「それで陛下への奏上はどうされますか?」
 
「あー?まだいいんじゃねぇか?」
 
 あの陛下ならどんな些細な事でも報告するよう命じられるだろうが、今は止めておいたほうが賢明なような気がしていた。理由はよくわからない。ただ漠然とした予感があった。それは数年とはいえ、この世界で生きてきた者の勘のようなものだった。

 最近、陛下は郭丞相を始めとする郭家の動向を注視している。
 恐らく裏で何か画策しているんだろう。
 郭家は名家といえども、八州公には到底及ばない。
 奴らの狙いが何であれ用心に越したことは無い。


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