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46.幻の縁組
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山吹大納言が酒宴を催していた頃、二条邸では父と息子の二人で酒を酌み交わしていた。
「さて、時次。左大臣家との縁組、どう思う?」
「……父上、誰と誰の縁組ですか?それによって答えは変わってきます」
「あちらの三男と四男の縁談だ」
「ああ……あの二人ですか。って、待ってください。妹たちには婿がいますが?」
「そうだな」
「……隠し子でも見つかったんですか?」
「私に隠し子などいるか!」
時次は顔を顰めた。
父の言っていることは意味不明だ。
右大臣と左大臣は仲が悪い。政敵だから当然だ。それを解消、または融和するために互いの子供同士を結婚させるのは理解できる。よくあることだ。ただ、問題は結婚させる娘がいないということ。なのに縁組させると言うのだ。もう訳が分からない。
「婚姻させる娘がいないのに何を仰っているんですか。ボケたんですか?」
「ボケてなどおらん!」
「では、どうするんです?妹の誰かを離縁させて新たに左大臣家の男子と縁組させるのですか?」
「それは無理だな。離縁できぬ」
「じゃあ、どうするんです?」
「養女をもらうのだ」
「はあ!?」
今度こそ訳が分からない。
養女って。
どこの誰を養女に迎える気だ。
まさかとは思うが本邸や弘徽殿にいる女房たちじゃないだろうな。
「誰を養女に迎えるおつもりで?」
「中納言家の姫だ」
「え?」
どこの中納言家の姫だ?
父が養女に、と言うくらいだ。
うち派閥内の人間に違いないが……。
右大臣家の養女にできるような中納言はいたか?
時次は記憶を掘り起こそうとしたが、咄嗟には思い浮かばなかった。
「心当たりはありませんが、どこの姫ですか?」
「…………元白梅派にいた者だ」
「それって、まさか……あの中納言ですか?」
「そうだ」
「本気ですか?」
時次は父の顔を見た。
冗談で言っているようには見えない。
「まあ、まだ候補の段階だがな」
父は言葉を濁した。
まだ本決まりではないということか。
それにしても、何故あの中納言なのか?
元白梅派とはいえ、中納言はどちらかというと伯父の先の右大臣派と言った方が正しい。この辺は少々複雑な関係性があるようだが。
一応、直属の上司は伯父だった。なので、時次も少しは関わりがあった。ちょこっとだけ。かすり程度には。
伯父が死んで、父が跡目を継いだ。
誰よりも早く寝返ったのが中納言だ。あっさりと父に鞍替えした。
伯父亡き後、伯父の下にいた連中の多くは白梅入道に付いたというのに。
まぁ、白梅の変が起きる前の話しだからな。
巨大派閥の大ボスに組する気持ちは分かる。だが、組して一年で呆気なく崩壊したことを考えると中納言は先見の明があったと言えなくもない。
「で?何故、中納言の姫を養女にするんですか?他にもいるでしょう?」
「まぁな。ただな、その中納言、昔はかなりのやり手だったんだ」
「だった。今は違うと」
「仕事は出来るんだがな。どうも運が悪くなった……らしい?」
「なんですか。その曖昧な表現は」
「他家の問題などしらん。仕事に支障がなければそれで良いんだ」
そりゃそうだ。
人のプライベートに首を突っ込むつもりはない。
よくよく聞けば、長兄と中納言家は険悪の仲らしい。
ダメだろ、それ。
「兄上と仲が悪いんじゃあ、意味ないでしょう」
「やはりか」
「ええ」
「中納言は結構情報通なんだがな……」
「それは昔の話しでは?」
「まぁな……」
煮え切らない。
珍し‥‥‥くもないか。
昔と違って目立つ点のない中納言だ。仕事は出来るらしいが。
影が薄くなった気もしないではない。
もしかして兄が関係しているのか?
でも何故?
世代が違い過ぎる。
個人的に話すことなどあまりないだろうに。まぁ、挨拶ていどならするだろうが。
何かあるのだろうか?
「父上、少し調べてみます」
調べた結果、地雷原に突っ込んだ気持ちになった。
あの親父、焚きつけたな!
父は知っていたんだ!
こんな事故物件はお断りだ。
当然、縁組の話しも養女の話しも御破談。
父は兄に何も言っていなかったようで、いつも通りに政務に励んでいる。
(初めから縁組などする気はさらさらなかったのだな……)
中納言はゲッソリと痩せ一気に老けたと評判だ。
よほどショックだったのだろう。無理もない。
父も人が悪い。
持ち上げて置いて、一気に突き落とすのだから。
「父上……」
時次は父をジト目で見た。
「なんだ?腹でも痛いのか?」
「違います。兄上をどうなさるおつもりですか?」
「どうするもなにも。そのままだ」
「そのままって……」
「どう転ぶかは、あの子次第だ」
厳しいがそれも致し方のないことだった。
父が兄を転ばすのか、自分で転落するのか。
巻き込まれるのは確実だ。
既に巻き込まれているが……。
父の意図は不明だ。
だが、兄の出方次第で父は兄を切る。そうなるだろう。
両大臣の縁組の話しは誰にも囁かれることなく終わった。
余談ではあるが、この縁組話しは内々どころか、全く表沙汰にされることなく終わった。
「狸め」
ぼそっと呟いたのは、時次のみだった。
「さて、時次。左大臣家との縁組、どう思う?」
「……父上、誰と誰の縁組ですか?それによって答えは変わってきます」
「あちらの三男と四男の縁談だ」
「ああ……あの二人ですか。って、待ってください。妹たちには婿がいますが?」
「そうだな」
「……隠し子でも見つかったんですか?」
「私に隠し子などいるか!」
時次は顔を顰めた。
父の言っていることは意味不明だ。
右大臣と左大臣は仲が悪い。政敵だから当然だ。それを解消、または融和するために互いの子供同士を結婚させるのは理解できる。よくあることだ。ただ、問題は結婚させる娘がいないということ。なのに縁組させると言うのだ。もう訳が分からない。
「婚姻させる娘がいないのに何を仰っているんですか。ボケたんですか?」
「ボケてなどおらん!」
「では、どうするんです?妹の誰かを離縁させて新たに左大臣家の男子と縁組させるのですか?」
「それは無理だな。離縁できぬ」
「じゃあ、どうするんです?」
「養女をもらうのだ」
「はあ!?」
今度こそ訳が分からない。
養女って。
どこの誰を養女に迎える気だ。
まさかとは思うが本邸や弘徽殿にいる女房たちじゃないだろうな。
「誰を養女に迎えるおつもりで?」
「中納言家の姫だ」
「え?」
どこの中納言家の姫だ?
父が養女に、と言うくらいだ。
うち派閥内の人間に違いないが……。
右大臣家の養女にできるような中納言はいたか?
時次は記憶を掘り起こそうとしたが、咄嗟には思い浮かばなかった。
「心当たりはありませんが、どこの姫ですか?」
「…………元白梅派にいた者だ」
「それって、まさか……あの中納言ですか?」
「そうだ」
「本気ですか?」
時次は父の顔を見た。
冗談で言っているようには見えない。
「まあ、まだ候補の段階だがな」
父は言葉を濁した。
まだ本決まりではないということか。
それにしても、何故あの中納言なのか?
元白梅派とはいえ、中納言はどちらかというと伯父の先の右大臣派と言った方が正しい。この辺は少々複雑な関係性があるようだが。
一応、直属の上司は伯父だった。なので、時次も少しは関わりがあった。ちょこっとだけ。かすり程度には。
伯父が死んで、父が跡目を継いだ。
誰よりも早く寝返ったのが中納言だ。あっさりと父に鞍替えした。
伯父亡き後、伯父の下にいた連中の多くは白梅入道に付いたというのに。
まぁ、白梅の変が起きる前の話しだからな。
巨大派閥の大ボスに組する気持ちは分かる。だが、組して一年で呆気なく崩壊したことを考えると中納言は先見の明があったと言えなくもない。
「で?何故、中納言の姫を養女にするんですか?他にもいるでしょう?」
「まぁな。ただな、その中納言、昔はかなりのやり手だったんだ」
「だった。今は違うと」
「仕事は出来るんだがな。どうも運が悪くなった……らしい?」
「なんですか。その曖昧な表現は」
「他家の問題などしらん。仕事に支障がなければそれで良いんだ」
そりゃそうだ。
人のプライベートに首を突っ込むつもりはない。
よくよく聞けば、長兄と中納言家は険悪の仲らしい。
ダメだろ、それ。
「兄上と仲が悪いんじゃあ、意味ないでしょう」
「やはりか」
「ええ」
「中納言は結構情報通なんだがな……」
「それは昔の話しでは?」
「まぁな……」
煮え切らない。
珍し‥‥‥くもないか。
昔と違って目立つ点のない中納言だ。仕事は出来るらしいが。
影が薄くなった気もしないではない。
もしかして兄が関係しているのか?
でも何故?
世代が違い過ぎる。
個人的に話すことなどあまりないだろうに。まぁ、挨拶ていどならするだろうが。
何かあるのだろうか?
「父上、少し調べてみます」
調べた結果、地雷原に突っ込んだ気持ちになった。
あの親父、焚きつけたな!
父は知っていたんだ!
こんな事故物件はお断りだ。
当然、縁組の話しも養女の話しも御破談。
父は兄に何も言っていなかったようで、いつも通りに政務に励んでいる。
(初めから縁組などする気はさらさらなかったのだな……)
中納言はゲッソリと痩せ一気に老けたと評判だ。
よほどショックだったのだろう。無理もない。
父も人が悪い。
持ち上げて置いて、一気に突き落とすのだから。
「父上……」
時次は父をジト目で見た。
「なんだ?腹でも痛いのか?」
「違います。兄上をどうなさるおつもりですか?」
「どうするもなにも。そのままだ」
「そのままって……」
「どう転ぶかは、あの子次第だ」
厳しいがそれも致し方のないことだった。
父が兄を転ばすのか、自分で転落するのか。
巻き込まれるのは確実だ。
既に巻き込まれているが……。
父の意図は不明だ。
だが、兄の出方次第で父は兄を切る。そうなるだろう。
両大臣の縁組の話しは誰にも囁かれることなく終わった。
余談ではあるが、この縁組話しは内々どころか、全く表沙汰にされることなく終わった。
「狸め」
ぼそっと呟いたのは、時次のみだった。
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