15 / 31
15
翌日、野上のオフィスを訪れた彩華は、自分が場違いなところに来てしまったのではないかと戸惑った。
ビルの高層階にある広々としたワンフロアのオフィスは、まるでお洒落なカフェのような雰囲気だった。インテリア雑貨や家具を扱っているだけあって、室内の照明、テーブル、ソファー、ラック、いたるところにある小物までもが全てお洒落で、彩華は目を奪われた。
そして何より一番驚いたのは、入ってすぐに目を見張るような大きなキッチンがあったことだ。その周りで、社員と思われる男性数人がノートパソコンを広げてコーヒーカップを傾けていた。ヒーリング系BGMまで流れている。正に、カフェそのものだった。
「ここ、オフィスですよね?」
彩華は呆気にとられていた。
「そうだよ。なかなかいいだろ?」
野上が笑う。
「色々拘ってデザインしたんだよ。二十名程の少ない社員だから、アットホームな感じがいいなと思ってさぁ。うちに来てくれた時点で、俺はもう家族だと思ってるからね。隔たりを作りたくないし、コミュニケーションがとりやすいようにワンフロアにしたんだけど、当然ながらここには俺もいるわけで……見通しが良すぎて俺に監視されてるような気になるんじゃ仕事が遣りづらいかな、とかも考えて、所々パーテーションで仕切ったブースなんかも作ってみたりね」
彩華は頷きながら聞いていた。
「キッチンを作ったのもそうなんだ。キッチンって、自然と人が集まるだろ? 家庭でもそうだと思うんだ。うちの社員も、集中したい時は個室ブースに移動したりバラけて仕事してるけど、結局ここが落ち着くのか、いつの間にかまた自然と集まってるよ」
「へえー」
と言ったまま、開いた口がなかなか塞がらなかった。社員を一番に考えている辺りが、さすが野上だと感心した。
キッチンにあるコーヒーメーカーで二杯分淹れると、野上に促されカウンターに二人で腰を下ろした。
「本当に素敵なキッチンですね。すごく綺麗に使われてるみたいだし」
キッチンを眺めていた彩華が野上に視線を向けると、野上がフッと笑った。
「俺の勝手なイメージでさぁ、ここで社員達と料理して一緒に食事しながら和気あいあいと出来たらな……ってのがあったんだよ」
「そんな会社、素敵ですねぇ」
楽しそうな光景が目に浮かぶ。
「ところがさぁ……誰も大して料理なんてできないんだよね」
プッと吹き出した野上が大きな口を開けてケラケラと笑った。
「一応食事代として、一日千円支給してるんだけど、女性社員は弁当作ってきてるみたいだし、うちの男連中は外には食べに行かず、簡単なもんで済ませる奴ばっかりなんだよね。すぐそばにあるコンビニで弁当とかカップ麺なんかを買ってきて、ここで食べてるよ。キッチン使うのは、カップ麺の湯を沸かす時くらいじゃないかな」
「男性は案外みんなそんなものかもしれないですよ」
「そうかなぁ……俺としては、うちの社員には食事で健康管理もしっかりしてほしいんだけどね」
そう言うと、野上は腕時計に目を遣った。
ビルの高層階にある広々としたワンフロアのオフィスは、まるでお洒落なカフェのような雰囲気だった。インテリア雑貨や家具を扱っているだけあって、室内の照明、テーブル、ソファー、ラック、いたるところにある小物までもが全てお洒落で、彩華は目を奪われた。
そして何より一番驚いたのは、入ってすぐに目を見張るような大きなキッチンがあったことだ。その周りで、社員と思われる男性数人がノートパソコンを広げてコーヒーカップを傾けていた。ヒーリング系BGMまで流れている。正に、カフェそのものだった。
「ここ、オフィスですよね?」
彩華は呆気にとられていた。
「そうだよ。なかなかいいだろ?」
野上が笑う。
「色々拘ってデザインしたんだよ。二十名程の少ない社員だから、アットホームな感じがいいなと思ってさぁ。うちに来てくれた時点で、俺はもう家族だと思ってるからね。隔たりを作りたくないし、コミュニケーションがとりやすいようにワンフロアにしたんだけど、当然ながらここには俺もいるわけで……見通しが良すぎて俺に監視されてるような気になるんじゃ仕事が遣りづらいかな、とかも考えて、所々パーテーションで仕切ったブースなんかも作ってみたりね」
彩華は頷きながら聞いていた。
「キッチンを作ったのもそうなんだ。キッチンって、自然と人が集まるだろ? 家庭でもそうだと思うんだ。うちの社員も、集中したい時は個室ブースに移動したりバラけて仕事してるけど、結局ここが落ち着くのか、いつの間にかまた自然と集まってるよ」
「へえー」
と言ったまま、開いた口がなかなか塞がらなかった。社員を一番に考えている辺りが、さすが野上だと感心した。
キッチンにあるコーヒーメーカーで二杯分淹れると、野上に促されカウンターに二人で腰を下ろした。
「本当に素敵なキッチンですね。すごく綺麗に使われてるみたいだし」
キッチンを眺めていた彩華が野上に視線を向けると、野上がフッと笑った。
「俺の勝手なイメージでさぁ、ここで社員達と料理して一緒に食事しながら和気あいあいと出来たらな……ってのがあったんだよ」
「そんな会社、素敵ですねぇ」
楽しそうな光景が目に浮かぶ。
「ところがさぁ……誰も大して料理なんてできないんだよね」
プッと吹き出した野上が大きな口を開けてケラケラと笑った。
「一応食事代として、一日千円支給してるんだけど、女性社員は弁当作ってきてるみたいだし、うちの男連中は外には食べに行かず、簡単なもんで済ませる奴ばっかりなんだよね。すぐそばにあるコンビニで弁当とかカップ麺なんかを買ってきて、ここで食べてるよ。キッチン使うのは、カップ麺の湯を沸かす時くらいじゃないかな」
「男性は案外みんなそんなものかもしれないですよ」
「そうかなぁ……俺としては、うちの社員には食事で健康管理もしっかりしてほしいんだけどね」
そう言うと、野上は腕時計に目を遣った。
あなたにおすすめの小説
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
愛していると気づいたから、私はあなたを手放します
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
愛しているのに、触れられない。
幼なじみの夫は、こう言った。
「もう、女性を愛することはできない」と。
それでも「君がいい」と言い続ける彼と、
子どもを望む現実の間で、私は追い詰められていく。
だから決めた。
彼のためにも、私は他の誰かを探す。
――そう思ったのに。
なぜあなたは、そんな顔で私を追いかけてくるの?
これは、間違った優しさで離れた二人が、
もう一度、互いを選び直すまでの物語。
※表紙はAI生成イラストを使用しています。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
秘められた薫り
La Mistral
恋愛
エブリスタにて、トレンド#恋愛で最高位
55位を獲得した作品です。
「愛しているよ」という夫の言葉が、今の美咲には虚しい空気にしか聞こえない。
欠けていたのは、理性を焼き尽くすような衝動。
クライアントの慎吾と交わす視線。ビジネスという仮面の下で共有される、剥き出しの欲望。
指先が触れる。名前を呼ばれる。ただそれだけで、美咲の積み上げてきた「良き妻」としての世界は音を立てて崩れ去る。
完璧なアリバイ、塗り固めた嘘。
夫の隣で微笑みながら、心は別の男の指先を求めている。
一度知ってしまった濃厚な「薫り」は、もう彼女を元の場所へは戻してくれない。
守るべき家庭と、抗えない本能。
二つの世界の境界線で、美咲が選ぶ「最後の一線」とは――。
欲望の熱に浮かされた女の、美しくも残酷な堕落の記録。