愛のかたち

凛子

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 翌日、彩華は九時に出勤した。昼食に間に合えば、出勤時刻は自由で構わないと言われていた。

「おはよう」

 野上がコーヒーを片手にサンドウィッチを頬張っていた。

「おはようございます。今日から宜しくお願いします」

 彩華は深く頭を下げてからにっこり微笑んだ。
 専業主婦だった自分が、居酒屋で知り合った野上の元で働くことになるなど、想像するどころか考え及びもしなかったことだ。しかもこんなにも素敵なオフィスのキッチンで。
 本来ならば誰かに自慢したくなる出来事なのだが、離婚が理由の就職は手放しで喜べなかった。
 仕事が決まったことを翔に報告しようかと思ったが、野上をあまり良く思っていなかった翔は、きっといい顔をしないだろう――と、そんなことを考えている自分に気付いて苦笑した。
 そんなことを翔に思われることも言われることも、もうないのに、と。
 そして切ない気持ちになった。

「出来上がったら俺に知らせてね。毎日俺が一番に食べるから」

 それは、校長が給食を一番に食べる『検食』を意味するのだろうか。

「わかりました」

 彩華が真剣な表情で返事をすると、「社長の特権」と野上は顔を綻ばせた。

 予算は、元々社員に支給していた一人一日千円を目安にということだった。それはかなり余裕の金額で、レパートリーも広がる。彩華は栄養のバランスや彩りも考えて幾つか献立をたててから近くのスーパーへ出掛けた。
 まずは、定番のカレーやハンバーグがいいだろうか。予算に余裕はあるが、主婦をしていた彩華は、やはり新鮮なもの、お買い得なものに目が行ってしまう。今日は『肉の日』らしく、挽き肉がお買い得になっていた。中華の予定だったが、やはりハンバーグに変更した。

 初めて作る大人数の食事で、予想より時間がかかってしまったが、何とか昼前には完成した。温かい状態で食べれるように、煮込みハンバーグにした。皿にポテトとサラダを盛り付けておいて、来た順に温かいハンバーグを乗せてあげればいいだろう。ご飯とスープは各自で好きな量を装ってもらえばいい。
 ふと思い出し、彩華は野上の元へ向かう。

「野上さん、出来ました」

 彩華が声を掛けると、野上は視線をパソコンから彩華に移動させ、にんまりした。
 野上がキッチンにやって来ると、彩華はハンバーグを盛り付けながら「ご飯とスープはお好きなだけどうぞ」と声を掛けた。

「いただきます」

 野上は昨日と同じように、礼儀正しく手を合わせてから、大きめに切ったハンバーグを口に運んだ。

「やばっ、旨すぎる!」

 目を見張り片手で口元を押さえて、野上は大袈裟過ぎる程のリアクションを見せた。

「良かったです」

 彩華は満面に笑みを広げた。
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