17 / 31
17
翌日、彩華は九時に出勤した。昼食に間に合えば、出勤時刻は自由で構わないと言われていた。
「おはよう」
野上がコーヒーを片手にサンドウィッチを頬張っていた。
「おはようございます。今日から宜しくお願いします」
彩華は深く頭を下げてからにっこり微笑んだ。
専業主婦だった自分が、居酒屋で知り合った野上の元で働くことになるなど、想像するどころか考え及びもしなかったことだ。しかもこんなにも素敵なオフィスのキッチンで。
本来ならば誰かに自慢したくなる出来事なのだが、離婚が理由の就職は手放しで喜べなかった。
仕事が決まったことを翔に報告しようかと思ったが、野上をあまり良く思っていなかった翔は、きっといい顔をしないだろう――と、そんなことを考えている自分に気付いて苦笑した。
そんなことを翔に思われることも言われることも、もうないのに、と。
そして切ない気持ちになった。
「出来上がったら俺に知らせてね。毎日俺が一番に食べるから」
それは、校長が給食を一番に食べる『検食』を意味するのだろうか。
「わかりました」
彩華が真剣な表情で返事をすると、「社長の特権」と野上は顔を綻ばせた。
予算は、元々社員に支給していた一人一日千円を目安にということだった。それはかなり余裕の金額で、レパートリーも広がる。彩華は栄養のバランスや彩りも考えて幾つか献立をたててから近くのスーパーへ出掛けた。
まずは、定番のカレーやハンバーグがいいだろうか。予算に余裕はあるが、主婦をしていた彩華は、やはり新鮮なもの、お買い得なものに目が行ってしまう。今日は『肉の日』らしく、挽き肉がお買い得になっていた。中華の予定だったが、やはりハンバーグに変更した。
初めて作る大人数の食事で、予想より時間がかかってしまったが、何とか昼前には完成した。温かい状態で食べれるように、煮込みハンバーグにした。皿にポテトとサラダを盛り付けておいて、来た順に温かいハンバーグを乗せてあげればいいだろう。ご飯とスープは各自で好きな量を装ってもらえばいい。
ふと思い出し、彩華は野上の元へ向かう。
「野上さん、出来ました」
彩華が声を掛けると、野上は視線をパソコンから彩華に移動させ、にんまりした。
野上がキッチンにやって来ると、彩華はハンバーグを盛り付けながら「ご飯とスープはお好きなだけどうぞ」と声を掛けた。
「いただきます」
野上は昨日と同じように、礼儀正しく手を合わせてから、大きめに切ったハンバーグを口に運んだ。
「やばっ、旨すぎる!」
目を見張り片手で口元を押さえて、野上は大袈裟過ぎる程のリアクションを見せた。
「良かったです」
彩華は満面に笑みを広げた。
「おはよう」
野上がコーヒーを片手にサンドウィッチを頬張っていた。
「おはようございます。今日から宜しくお願いします」
彩華は深く頭を下げてからにっこり微笑んだ。
専業主婦だった自分が、居酒屋で知り合った野上の元で働くことになるなど、想像するどころか考え及びもしなかったことだ。しかもこんなにも素敵なオフィスのキッチンで。
本来ならば誰かに自慢したくなる出来事なのだが、離婚が理由の就職は手放しで喜べなかった。
仕事が決まったことを翔に報告しようかと思ったが、野上をあまり良く思っていなかった翔は、きっといい顔をしないだろう――と、そんなことを考えている自分に気付いて苦笑した。
そんなことを翔に思われることも言われることも、もうないのに、と。
そして切ない気持ちになった。
「出来上がったら俺に知らせてね。毎日俺が一番に食べるから」
それは、校長が給食を一番に食べる『検食』を意味するのだろうか。
「わかりました」
彩華が真剣な表情で返事をすると、「社長の特権」と野上は顔を綻ばせた。
予算は、元々社員に支給していた一人一日千円を目安にということだった。それはかなり余裕の金額で、レパートリーも広がる。彩華は栄養のバランスや彩りも考えて幾つか献立をたててから近くのスーパーへ出掛けた。
まずは、定番のカレーやハンバーグがいいだろうか。予算に余裕はあるが、主婦をしていた彩華は、やはり新鮮なもの、お買い得なものに目が行ってしまう。今日は『肉の日』らしく、挽き肉がお買い得になっていた。中華の予定だったが、やはりハンバーグに変更した。
初めて作る大人数の食事で、予想より時間がかかってしまったが、何とか昼前には完成した。温かい状態で食べれるように、煮込みハンバーグにした。皿にポテトとサラダを盛り付けておいて、来た順に温かいハンバーグを乗せてあげればいいだろう。ご飯とスープは各自で好きな量を装ってもらえばいい。
ふと思い出し、彩華は野上の元へ向かう。
「野上さん、出来ました」
彩華が声を掛けると、野上は視線をパソコンから彩華に移動させ、にんまりした。
野上がキッチンにやって来ると、彩華はハンバーグを盛り付けながら「ご飯とスープはお好きなだけどうぞ」と声を掛けた。
「いただきます」
野上は昨日と同じように、礼儀正しく手を合わせてから、大きめに切ったハンバーグを口に運んだ。
「やばっ、旨すぎる!」
目を見張り片手で口元を押さえて、野上は大袈裟過ぎる程のリアクションを見せた。
「良かったです」
彩華は満面に笑みを広げた。
あなたにおすすめの小説
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
愛していると気づいたから、私はあなたを手放します
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
愛しているのに、触れられない。
幼なじみの夫は、こう言った。
「もう、女性を愛することはできない」と。
それでも「君がいい」と言い続ける彼と、
子どもを望む現実の間で、私は追い詰められていく。
だから決めた。
彼のためにも、私は他の誰かを探す。
――そう思ったのに。
なぜあなたは、そんな顔で私を追いかけてくるの?
これは、間違った優しさで離れた二人が、
もう一度、互いを選び直すまでの物語。
※表紙はAI生成イラストを使用しています。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
秘められた薫り
La Mistral
恋愛
エブリスタにて、トレンド#恋愛で最高位
55位を獲得した作品です。
「愛しているよ」という夫の言葉が、今の美咲には虚しい空気にしか聞こえない。
欠けていたのは、理性を焼き尽くすような衝動。
クライアントの慎吾と交わす視線。ビジネスという仮面の下で共有される、剥き出しの欲望。
指先が触れる。名前を呼ばれる。ただそれだけで、美咲の積み上げてきた「良き妻」としての世界は音を立てて崩れ去る。
完璧なアリバイ、塗り固めた嘘。
夫の隣で微笑みながら、心は別の男の指先を求めている。
一度知ってしまった濃厚な「薫り」は、もう彼女を元の場所へは戻してくれない。
守るべき家庭と、抗えない本能。
二つの世界の境界線で、美咲が選ぶ「最後の一線」とは――。
欲望の熱に浮かされた女の、美しくも残酷な堕落の記録。