愛のかたち

凛子

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 一ヶ月近く経つと、彩華は社員の顔と名前も完璧に覚えていた。準備も手際よく進められるようになり、余裕のある時は、デザートを作ることもあった。献立を立ててスーパーに行っても、お買い得品に釣られて結局予定を変更してしまうことがよくあるが、まあそれならそれでいいか、と臨機応変にやっていた。
 彩華の作る料理は大好評だった。足りないよりはいいだろう、と少し多めに作るようにしていた。最終余った分は保存容器に移して冷蔵庫に入れておくと、独身社員達が分けて持ち帰る。野上が持ち帰ることもあると聞いた。
 翔が毎日空になった弁当箱を持って帰ってきた時のように、翌朝「ご馳走さまでした」と綺麗に洗った容器を渡されると、幸せな気持ちになった。この仕事を与えてくれた野上には本当に感謝していた。
 昼食後は、洗い物当番の社員達でキッチンが賑わう。野上が言っていた社員とのコミュニケーションは、やはりここで深まるような気がした。女性社員からは、ラタトゥイユやエスニック料理などのリクエストがあったり、個人的にレシピを教えて欲しいと言われることもあった。


 月末、野上から渡された初めての給料明細を、彩華は穴が開くほど熟視していた。十分一人で生活していける金額だった。
 健太には仕事が決まったことをその日のうちに報告したが、結局翔にはまだ伝えられずにいた。数ヶ月働いて仕事を完璧にこなせるようになったら、翔からの生活費の援助を断ろうと考えていた。翔との繋がりは金銭面だけだが、援助がなくなると完全に繋がりが途絶えてしまうのかと思うと、少し寂しくもあった。
 今は家賃も翔が払ってくれているが、一人には贅沢過ぎる広さと金額だった。もっと狭くて家賃の安い部屋への引っ越しも考えているが、そうなると引っ越し費用が必要になる。それが貯まるまでは、まだ少し時間が掛かりそうだ、ということを、少し嬉しく思っている自分がいる。
 たとえ金銭面の援助だけだとしても、それが続く限り、翔は毎月自分のことを考えるだろう、と、まだそんなことを思ってしまう往生際の悪い自分に自嘲した。
 もう翔は戻ってこない。そんなことはわかっているのに、彩華の気持ちは、あの日から全く変わっていなかった。

 どうすれば諦めがつくのだろうか……。
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