カラフル

凛子

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 そうこうしている間に桜の季節は過ぎ、新緑の季節を迎えた。
「たー子!」
 久しぶりに会社で見かけたたー子に声を掛けた。
「あ、井上ぇ、久しぶり~」
 たー子はいつもの屈託のない笑顔を見せた。
「あれからどう? 少しは元気になった?」
「あぁ、まぁ……」
 曖昧に答えた俺の顔を、たー子が覗き込む。
「まだ吹っ切れてないんだぁ」
 たー子が困ったような顔で言った。
 その通りだ。
 情けない男と思われたって別に構わない。俺は彼女にゾッコンになるタイプだ。心にポッカリ開いた穴は、そう簡単には塞がらない。

 次の日曜日、またもやたー子がやってきた。
 今度は大きな観葉植物を抱えている。
「な、なんだよ」
「これ、育ててみなよ。部屋に緑があると癒されるよ~」
「いや、俺そんなの育てたことねぇから無理だよ」
「大丈夫大丈夫! 店員さんが、育てやすいですよ~って言ってたから」
 たー子はそれを玄関に置くと、いつものように笑顔を振り撒き帰っていった。
 モノトーンの部屋に、桜色と緑色も仲間入りした。
 今回は俺も結構気に入っていた。なかなかお洒落だ。

 枯らしてしまっては、たー子にも植物にも申し訳ないと思い、俺は今まで全く興味がなかった観葉植物のことを少し勉強してみた。
 成長が早く、新しい葉が出てくるとすげぇテンションが上がった。
 またしてもたー子に感謝……かもしれない。

 調子付いた俺は、ある日の仕事帰り花屋に寄った。
「なにかお探しですか? プレゼントですか?」
 挙動不審な俺に店員が尋ねる。
「あ、いや、まぁ……」
「こちらなんて可愛いですよ。育てやすいですし」
 そういえばたー子も言ってたな。
『育てやすい』は花屋の常套句なのだろうか。 
 サボテンは俺でも知っていた。俺は、同じものをふたつ購入した。

 翌朝、たー子を捕まえて袋を手渡した。
「育ててみろよ」
「え、なに?」
 生き物でも入っていると思ったのか、たー子は気味悪そうにそっと袋を覗き込む。確かに生き物だが。
「え……無理無理無理無理っ!! 私植物育てたことないし」
 たー子は戸惑っている。
「大丈夫大丈夫! 花屋のねぇちゃんが、育てやすいですよ~って言ってたから。因みに、俺も同じの買ったから」
 俺はにやりとして言った。

 それから部屋には少しずつ緑が増えていき、俺はそれを眺めてにんまりする。
 緑に囲まれていると、心が和むような気がした。
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