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秋の夕日に染められて
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暑さも和らぎ、紅葉の季節が近付いた。
十月最終の日曜日、特にやることもなく、俺は部屋の緑をぼんやり眺めていた。
そろそろたー子が来る頃だろうか。
あれから、朝倉の言葉がずっと気になっていた。
もしかすると、もうたー子に告ってたりするのかもしれない。朝倉はあの見た目もあって、自分にかなり自信を持っていそうだから、行動に移すのが早そうな気がする。付き合ってるなんてことは多分ないはずだが、朝倉とたー子が恋人同士になったら、たー子と俺の関係はどうなるのだろうか、なんて考えてしまう。
朝倉はいい奴だが、たー子と恋人同士になるのは、なんとなく嫌だった。相手が朝倉じゃなかったらと考えても、やっぱり嫌だ。
今日はもう来ねぇか……。
俺は窓を開けて夕日なんか眺めて、柄にもなくおセンチな気分に浸る。
たー子は俺のことをどう思っているのだろうか。
何故だか無性にたー子に会いたくなった。
翌日、たー子を捕まえて食事に誘った。
「二人で?」と、たー子は不思議そうな顔をしていたが、すぐに表情を緩め「オッケー」と軽い返事をした。
定時に会社を出ると、既に待っていたたー子が「お疲れ~」と笑顔で駆け寄る。
「おう、お疲れ」
「どこ行く?」
「特に決めてねぇんだけど」
「じゃあさぁ、行ってみたいお店あるんだけど……」
「じゃあそこにしようぜ」
たー子の頬が夕日に染められて、すげぇ綺麗だ。
ただ駅に向かって他愛もない話をしながら歩いているだけなのに、何がそんなに楽しいのかと思うくらいに、たー子は弾けるような笑顔を見せる。
到着したのは、たー子にしては珍しい静かで落ち着いた感じの店だった。
いかにも女が好きそうな、デートにぴったりな感じの店だ。
「なんで今日誘ってくれたの?」
たー子が首を傾げて俺に尋ねる。
「別に……そこにたー子がいたから」
「なんだ、そっかぁ」
たー子は少し残念そうな表情を見せた。
「最近お前、家来ねぇなーと思って」
「あぁ……」
「ネタ切れか? 次は、柿色のカーテンと焼き芋でも持って来んのかと思ってたんだけど」
「いいね~」
たー子がケラケラ笑う。
少しの沈黙の後、たー子がぽつりと言った。
「井上がもう元気そうだから」
あぁ、そういうことか。
俺はたー子に目を遣り、口元を緩めた。
オレンジ色の灯りは女を艶っぽくみせるのだろうか。
俯き加減にフォークを口に運ぶたー子につい見とれてしまい、不意に顔を上げたたー子と視線がぶつかって、俺は慌てて逸らした。
気付かれてしまっただろうか。
「井上?」
「ん?」
なにを言われるのかと緊張した。
「まだ彼女はいらないの?」
思いも寄らない質問だった。
俺がもし「彼女がほしい」と言ったら、たー子はなんと言うのだろうか。
「どっかにいい女いねぇかなぁ……」
俺はたー子の顔色を窺う。
「井上は面食いだからねぇ」
たー子は顔色ひとつ変えずそう言った。
やっぱり朝倉の思い違いだろうか。
「じゃあさぁ、もしイヴまで彼女いなかったら、ケーキ作って持っていくから一緒に食べようよ。こう見えて実は私、趣味はお菓子作りなんだよね~」
「おぉ。別にいいけど」
俺の返事を聞いて、たー子は満面の笑みを浮かべた。
「井上はさぁ、普通の生クリームとチョコクリームだったら、どっちがいい?」
「俺はチョコかな」
「オッケー」
たー子は俺に彼女が出来ないのを前提で話している。
まぁいいけど。
「美味しかったね~! ご馳走になって良かったの?」
「おぉ。俺が誘ったしな」
「そこにたー子がいたから、でしょ?」
「バカ、嘘だよ!」
「嘘なんだ」
たー子は眉を少し上げてから安堵したような表情を見せた。
遅いから家まで送ると言うと、「へぇー。一応私のこと女子だと思ってくれてるんだぁ」と、たー子ははにかんだように微笑んだ。
なんだよその顔……。
どちらともとれそうな、たー子の言葉とはにかんだ顔が、俺の心をもやもやさせた。今の関係を壊すのが怖くて、確証がないと踏み切れない。
十月最終の日曜日、特にやることもなく、俺は部屋の緑をぼんやり眺めていた。
そろそろたー子が来る頃だろうか。
あれから、朝倉の言葉がずっと気になっていた。
もしかすると、もうたー子に告ってたりするのかもしれない。朝倉はあの見た目もあって、自分にかなり自信を持っていそうだから、行動に移すのが早そうな気がする。付き合ってるなんてことは多分ないはずだが、朝倉とたー子が恋人同士になったら、たー子と俺の関係はどうなるのだろうか、なんて考えてしまう。
朝倉はいい奴だが、たー子と恋人同士になるのは、なんとなく嫌だった。相手が朝倉じゃなかったらと考えても、やっぱり嫌だ。
今日はもう来ねぇか……。
俺は窓を開けて夕日なんか眺めて、柄にもなくおセンチな気分に浸る。
たー子は俺のことをどう思っているのだろうか。
何故だか無性にたー子に会いたくなった。
翌日、たー子を捕まえて食事に誘った。
「二人で?」と、たー子は不思議そうな顔をしていたが、すぐに表情を緩め「オッケー」と軽い返事をした。
定時に会社を出ると、既に待っていたたー子が「お疲れ~」と笑顔で駆け寄る。
「おう、お疲れ」
「どこ行く?」
「特に決めてねぇんだけど」
「じゃあさぁ、行ってみたいお店あるんだけど……」
「じゃあそこにしようぜ」
たー子の頬が夕日に染められて、すげぇ綺麗だ。
ただ駅に向かって他愛もない話をしながら歩いているだけなのに、何がそんなに楽しいのかと思うくらいに、たー子は弾けるような笑顔を見せる。
到着したのは、たー子にしては珍しい静かで落ち着いた感じの店だった。
いかにも女が好きそうな、デートにぴったりな感じの店だ。
「なんで今日誘ってくれたの?」
たー子が首を傾げて俺に尋ねる。
「別に……そこにたー子がいたから」
「なんだ、そっかぁ」
たー子は少し残念そうな表情を見せた。
「最近お前、家来ねぇなーと思って」
「あぁ……」
「ネタ切れか? 次は、柿色のカーテンと焼き芋でも持って来んのかと思ってたんだけど」
「いいね~」
たー子がケラケラ笑う。
少しの沈黙の後、たー子がぽつりと言った。
「井上がもう元気そうだから」
あぁ、そういうことか。
俺はたー子に目を遣り、口元を緩めた。
オレンジ色の灯りは女を艶っぽくみせるのだろうか。
俯き加減にフォークを口に運ぶたー子につい見とれてしまい、不意に顔を上げたたー子と視線がぶつかって、俺は慌てて逸らした。
気付かれてしまっただろうか。
「井上?」
「ん?」
なにを言われるのかと緊張した。
「まだ彼女はいらないの?」
思いも寄らない質問だった。
俺がもし「彼女がほしい」と言ったら、たー子はなんと言うのだろうか。
「どっかにいい女いねぇかなぁ……」
俺はたー子の顔色を窺う。
「井上は面食いだからねぇ」
たー子は顔色ひとつ変えずそう言った。
やっぱり朝倉の思い違いだろうか。
「じゃあさぁ、もしイヴまで彼女いなかったら、ケーキ作って持っていくから一緒に食べようよ。こう見えて実は私、趣味はお菓子作りなんだよね~」
「おぉ。別にいいけど」
俺の返事を聞いて、たー子は満面の笑みを浮かべた。
「井上はさぁ、普通の生クリームとチョコクリームだったら、どっちがいい?」
「俺はチョコかな」
「オッケー」
たー子は俺に彼女が出来ないのを前提で話している。
まぁいいけど。
「美味しかったね~! ご馳走になって良かったの?」
「おぉ。俺が誘ったしな」
「そこにたー子がいたから、でしょ?」
「バカ、嘘だよ!」
「嘘なんだ」
たー子は眉を少し上げてから安堵したような表情を見せた。
遅いから家まで送ると言うと、「へぇー。一応私のこと女子だと思ってくれてるんだぁ」と、たー子ははにかんだように微笑んだ。
なんだよその顔……。
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