カラフル

凛子

文字の大きさ
4 / 6

秋の夕日に染められて

しおりを挟む
 暑さも和らぎ、紅葉の季節が近付いた。
 十月最終の日曜日、特にやることもなく、俺は部屋の緑をぼんやり眺めていた。
 そろそろたー子が来る頃だろうか。

 あれから、朝倉の言葉がずっと気になっていた。
 もしかすると、もうたー子に告ってたりするのかもしれない。朝倉はあの見た目もあって、自分にかなり自信を持っていそうだから、行動に移すのが早そうな気がする。付き合ってるなんてことは多分ないはずだが、朝倉とたー子が恋人同士になったら、たー子と俺の関係はどうなるのだろうか、なんて考えてしまう。
 朝倉はいい奴だが、たー子と恋人同士になるのは、なんとなく嫌だった。相手が朝倉じゃなかったらと考えても、やっぱり嫌だ。

 今日はもう来ねぇか……。
 俺は窓を開けて夕日なんか眺めて、柄にもなくおセンチな気分に浸る。
 たー子は俺のことをどう思っているのだろうか。
 何故だか無性にたー子に会いたくなった。

 翌日、たー子を捕まえて食事に誘った。
「二人で?」と、たー子は不思議そうな顔をしていたが、すぐに表情を緩め「オッケー」と軽い返事をした。
 定時に会社を出ると、既に待っていたたー子が「お疲れ~」と笑顔で駆け寄る。
「おう、お疲れ」
「どこ行く?」
「特に決めてねぇんだけど」
「じゃあさぁ、行ってみたいお店あるんだけど……」
「じゃあそこにしようぜ」
 たー子の頬が夕日に染められて、すげぇ綺麗だ。
 ただ駅に向かって他愛もない話をしながら歩いているだけなのに、何がそんなに楽しいのかと思うくらいに、たー子は弾けるような笑顔を見せる。
 到着したのは、たー子にしては珍しい静かで落ち着いた感じの店だった。
 いかにも女が好きそうな、デートにぴったりな感じの店だ。

「なんで今日誘ってくれたの?」
 たー子が首を傾げて俺に尋ねる。
「別に……そこにたー子がいたから」
「なんだ、そっかぁ」
 たー子は少し残念そうな表情を見せた。
「最近お前、家来ねぇなーと思って」
「あぁ……」
「ネタ切れか? 次は、柿色のカーテンと焼き芋でも持って来んのかと思ってたんだけど」
「いいね~」
 たー子がケラケラ笑う。
 少しの沈黙の後、たー子がぽつりと言った。
「井上がもう元気そうだから」
 あぁ、そういうことか。
 俺はたー子に目を遣り、口元を緩めた。
 
 オレンジ色の灯りは女を艶っぽくみせるのだろうか。
 俯き加減にフォークを口に運ぶたー子につい見とれてしまい、不意に顔を上げたたー子と視線がぶつかって、俺は慌てて逸らした。
 気付かれてしまっただろうか。
「井上?」
「ん?」
 なにを言われるのかと緊張した。
「まだ彼女はいらないの?」
 思いも寄らない質問だった。
 俺がもし「彼女がほしい」と言ったら、たー子はなんと言うのだろうか。
「どっかにいい女いねぇかなぁ……」
 俺はたー子の顔色を窺う。
「井上は面食いだからねぇ」
 たー子は顔色ひとつ変えずそう言った。
 やっぱり朝倉の思い違いだろうか。
「じゃあさぁ、もしイヴまで彼女いなかったら、ケーキ作って持っていくから一緒に食べようよ。こう見えて実は私、趣味はお菓子作りなんだよね~」
「おぉ。別にいいけど」
 俺の返事を聞いて、たー子は満面の笑みを浮かべた。
「井上はさぁ、普通の生クリームとチョコクリームだったら、どっちがいい?」
「俺はチョコかな」
「オッケー」
 たー子は俺に彼女が出来ないのを前提で話している。
 まぁいいけど。

「美味しかったね~! ご馳走になって良かったの?」
「おぉ。俺が誘ったしな」
「そこにたー子がいたから、でしょ?」
「バカ、嘘だよ!」
「嘘なんだ」
 たー子は眉を少し上げてから安堵したような表情を見せた。
 遅いから家まで送ると言うと、「へぇー。一応私のこと女子だと思ってくれてるんだぁ」と、たー子ははにかんだように微笑んだ。
 なんだよその顔……。
 どちらともとれそうな、たー子の言葉とはにかんだ顔が、俺の心をもやもやさせた。今の関係を壊すのが怖くて、確証がないと踏み切れない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

コンプレックス

凛子
恋愛
需要と供給……?

結婚の条件

凛子
恋愛
理想の彼女に出会い、最幸の趣味を見付ける――

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

君の名を

凛子
恋愛
隙間風は嵐となる予感がした――

カモフラージュの恋

湖月もか
恋愛
容姿端麗、文武両道、しかも性格までよし。まるで少女漫画の王子様のような幼馴染な彼。 当たり前だが、彼は今年も囲まれている。 そんな集団を早く終わらないかなと、影から見ている私の話。 ※あさぎかな様に素敵な表紙を作成していただきました!

謎かけは恋の始まり

凛子
恋愛
……その心は?

薫る袖の追憶を捨て、月光の君に溺愛される

あとりえむ
恋愛
名門の姫君・茜は、夫の高彬に蔑まれ、寂れた離れで孤独な死を迎えた…… けれど意識が途切れた瞬間、視界を埋め尽くしたのは命を削って輝く緋色の夕映え。 目が覚めると、そこは高彬との婚約が決まったばかりの十五歳の春に戻っていた。 「二度目の人生では、誰のことも愛さず、ただあの方の幸せだけを願おう」 茜は、かつて自身の孤独を救ってくれた「最推し」の東宮・暁を、未来の知識で密かに支えることを決意する。 執着を捨て、元夫に無関心を貫く茜。 一方、高彬は自分に興味を失った茜の価値に気づき、今更遅い後悔に狂い始めるが……。 「見つけた。お前は俺の、運命の番だ」 正体を隠して東宮を支えていたはずが、冷徹な暁に見出され、逃げ場のないほどの執着と溺愛を注がれることに。 平安の雅な風情の中で描かれる、逆転と救済の物語。 最後は、二人が永遠の契りを交わす和歌で幕を閉じます。

処理中です...