正しい恋の始め方

凛子

文字の大きさ
5 / 5

5

しおりを挟む
「え? あれ? じゃあ拓海君が『また会えたね』って言ったのはどういうこと?」

「ああ、また会えたと思ったのは、俺だけだよ。でも、それにひっかかったのが萌香だ。『ああ、あの時の』なんて言ってただろ? 誰と勘違いしてんだよ」

 拓海が悪戯な笑みを浮かべている。

「それは、何ていうか、挨拶返しのつもりだったんだけど……。なんだぁ。そうだったんだ。ずっとおかしいと思ってたんだよ。でもそれ、よく考えたら新手のナンパだよねえ」

 萌香は眉をひそめる振りをしつつ、内心安堵の溜め息を吐いた。そして、拓海で良かった、と心底思えた。

「でももし嫌なら、断ることも出来ただろうし、不審な点を問い質すことも出来ただろ?」

「まあ、そうだけど」

「え……。もしかして、嫌だったってこと?」

 不意に表情を曇らせた拓海に、萌香は首を横に大きく振ってみせた。

「萌香の顔がすごく好みだったんだ」

 ストレート過ぎる拓海の言葉に頬の火照りを感じた萌香は、拓海の顔を直視出来ずに視線を逸らした。
 誠実そうな感じがした、なんて言われるよりよっぽどいい。拓海の正直で飾らないところが好きなのだ。

「都合よく、萌香が俺を誰かと勘違いしてるみたいだったし、何より、俺達すごくうまくいってると思ったんだ」

「そうだよね」

 萌香の同調に、拓海が口元を緩めた。

「誤解を解かずに黙ってたのは、俺がもう後戻りできないくらい、萌香に惚れてしまったからなんだ」

 拓海がぶつける直球は、いつも萌香を安心させる。まだ頬の火照りを感じていたが、今度は視線を逸らさず、萌香は真っ直ぐに拓海を見つめた。

「本当のことを知るのが怖かったんだ。もし仮に今、萌香が悪事に手を染めてることを知ったとしても、俺はそれを理由に別れを選ぶことなんて出来ないから。まあ、結局は受け入れるしかないんだけど……」

 拓海は困ったように頭を掻いて笑っている。
 自分が逆の立場だったら、と考えると、やはり同じだろうと思った。

「その時はもちろん、更生させるけど」

「そうだよね」

「新手のナンパだって言われても仕方ないけど、出会い方なんて、俺は何だっていいと思うんだ」

「うん。それも同感。恋なんて、どんなタイミングで始まるか分かんないもんね。それに……」

「それに?」

 言葉数多く語らなくても、拓海とは情意投合しているように感じるけれど、これだけはどうしても言っておきたかった。


「ひっかかったのは、私も拓海君と同じこと思ってたからだよ」





【完】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

この先の未來

詩織
恋愛
本当は止めてはダメだった。 でもそれても私は…

優しい彼

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の彼は優しい。 ……うん、優しいのだ。 王子様のように優しげな風貌。 社内では王子様で通っている。 風貌だけじゃなく、性格も優しいから。 私にだって、いつも優しい。 男とふたりで飲みに行くっていっても、「行っておいで」だし。 私に怒ったことなんて一度もない。 でもその優しさは。 ……無関心の裏返しじゃないのかな。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

コンプレックス

凛子
恋愛
需要と供給……?

処理中です...