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第一部 第二章 旅立ち
第六話 スカニア①
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リン、カレン、エフイルを乗せた商隊の馬車は今、スカニアを見渡す丘の上で食事休憩を取っていた。
晴れ渡る夏空には雲がたなびき、時折小鳥の群れが大きなカーブを描きつつ何処かへ向かっていく。エルウェンデでも北部に当たるこの地方にも既に盛夏が訪れており、日差しは容赦なく照りつけるが湿度が低いためそこまでの暑さは感じられない。
ニテアスで商隊の手配ができるまでに凡そ二週間ほどが必要だったのは、スカニアとの往復をしている商隊の到着まで時間がかかったからだ。そこから三日の休養を挟み荷物を積み込み出発となった朝、リン達が馬車へいくとそこには見知った顔が見えた。
護衛についてくれるのがガラシング伍長の班だったのだ。
そのため、リン達は知らない人たちに囲まれる緊張がかなり緩和され、また彼らの実力を知っているため安心感となっていた。
商隊の面々とも挨拶を交わし特に問題もなく出発となりまずはドレギレナへと向かって商隊は進んでいった。
ドレギレナを越えた翌日には分岐点に到着し進路を北北東へと向ける。ここから龍尾山脈を横断してく山道へと向かっていくことになる。この尾根越えは高低差二・三七ラエファロス(約六百五十メートル)で、そこまで高くないところを通過するように道が付けられているが、場所によっては急な登攀が必要な箇所があり難所となっている。
そのようなところでは馬車を降りて押すことも必要だった。
山を登っていくとナラやブナ、クリの木、スギなどが茂る温帯樹林から徐々にマツやシラカバ、カシワなどに変わっていき、山を越えた先では完全に針葉樹林となる。
ここまでの間、狼や小妖鬼族などと出くわすことがあったがガラシング伍長達の活躍により特に問題もなく通過してきた。
街道の左側は黒い森に沿うように東に向かっていきセラリへと到達。セラリはスカニア方面から、エフェルナディ・テライオン方面ととドレギレナ・タリオン方面へと向かう分岐点にあたり、人族との交流が限定的なエルウェラウタにとっては防衛拠点にもなっている重要な集落になっている。
セラリはドリンドルメ川が北東から東へ進路を変える地点の南岸に位置し、五千六百人ほどの人口を抱え城塞を構えている。長老のザオス・ジルセランはエルウェラウタでも武勇で知られる人物だ。そのため、ここでは警備隊などの軍事施設が大きく市場規模は小さい。スヴァイトロの長老ギャリック・インヴィールも武勇で知られる人物であるが、彼は豪放磊落な親分肌という面がつよく、厳しさが表にでているセラリの長老ザオス・ジルセランとは毛色が異なっていた。
スカニアの長老サーヤ・イアンキアンが融和的で非常に温厚な人物であるため、そのような人物が後ろに控えているとも言える。
ニテアスを出て二十日。セラリを出て半日。ついに彼らはスカニアを望む丘の上に到着したのだった。スカニアを望むと言ってもまだうっすらとで、ここからスカニアまではまだ一日の距離がある。
「そろそろ出発しましょうか」
みなの食事が終わったところを見計らってガラシング伍長が商隊の主に提案した。
「よし。それじゃ出発の準備を整えてくれ」
指示を聞いてみなが三々五々準備を整えていく。
リン達も荷物をまとめ馬車に乗り込む。
出発準備の整った商隊の馬車は護衛隊に守られながらスカニアへ向かっていった。
翌日の午後、一行はスカニアの西門に到着し入門検査に並んでいた。
スカニアは人口三万三千人ほどとエルウェラウタで最も大きな街であるが、街の外周はしっかりとした獣避けの柵がある程度である。これは外からの脅威が街からは離れている黒い森から出てくる獣や魔物くらいである事による。
西門を通過し道なりに進むと左手に工房地区、右手に住宅街、更に進むと高級住宅街となり、中央広場を越えると東門へ抜ける通りを北東に進むと左手から正面にかけてが商業区、キングスレイ湾に面する右手が港湾地区となっており、この東西に抜ける通りがメインストリートとなっている。
リン達は入門したところで商隊と別れ、フィンゴネルからもらった地図を頼りに工房地区へと入っていった。スカニアは人族の影響が強いのか石造りやレンガ造りに漆喰が塗られた建造物が多い。このあたりも例外なく石造りやレンガ造りの工房が並んでいる。
二階建ての建物が多いのは一階が工房で二階に人が住んでいるのだろうか。
そんな街並みを右に折れ、左に折れしながら一件の工房にたどり着いた。
アラルフィンの工房だ。
外観はしっかりとした石造りで間口が意外く幅二十二ファロス(約十五メートル)ほどもあろうか。二つある窓は開け放たれており、作業の音にまじり大きな声が聞こえてきてリン達を驚かせた。
「おねえちゃん、アラルフィン伯父さんて怖い人なの?」
不安になったリンがカレンの服の裾をつまみながら尋ねる。
「んー……。正直あんま記憶にないのよねぇ。あったのってかなり子供の頃だったし。でもここまで来て帰るっていうのは無いし、あってみるより仕方ないんじゃない?」
「そうだよね……」
リンが開いている窓からこわごわと中を覗き見ると
「何やってるんだ!」
怒声が翔んできて思わず顔を引っ込める。
「お前は何度言えばわかるんだ?そこはそうじゃないといつも言ってるだろーが」
自分が怒られたんじゃないとわかってホッとするもやっぱり怖いという思いが湧いてきて、カレンの方を向くとカレンもリンを見ていて目があった。
カレンが仕方ないわねぇといいたげに肩を竦めるとドアに向かっていきノックする。
「……」
返事がないのでもう一度強くノックする。
「……」
やはり返事がない。
仕事に集中していて聞こえないのかと思い直し、そっとドアを開けて声を掛けてみると二十歳くらいに見える見習い職人らしき人がでてきて対応してくれた。
「わたしはカレナリエル、でこっちがリンランディア。ニテアスのフィンゴネルからの紹介で来ました。アラルフィン伯父さんに取り次いでもらえますか?」
カレンはそう言いながら父親から託された手紙を渡す。
「えっと……あ、はい」
彼はなにか言いたげだったが、そのまま手紙を受け取ると奥へと引っ込んで行った。
「なにー!」
大声がするとすぐにドタドタと足音が近づいてきて赤毛に無精ひげの男性が顔を出した。
袖まくりしたシャツから太い腕の覗かせ前掛けをした彼がアラルフィンなのだろう。
雰囲気かかなり違っているがどことなくフィンゴネルの面影があるように思われる。
「ニテアスのカレンなのか?フィンゴネルの娘の?」
彼はすごい勢いこんで聞いてくるのでカレンは圧倒されて目を瞠ってただ頷くのみだ。
「そうか!よく来たな!で、そっちの坊主は?」
「義弟のリンランディアです。伯父さん、まずは手紙を読んで!」
「はっはっは。すまんすまん。なになに……」
フィンゴネルは今更のように手紙を読み始める。
アラルフィンは感情豊かで表情がころころと変わる人物らしく、手紙を読みながらも忙しく表情を変えている。
「……弟の妻の姉の孫だと?よくわからんが、つまり親戚なんだな?」
「お母さんのお姉さんの娘は私から見て従姉妹。その子供だから私の甥っ子になるのよ。うちでは義弟ってことになってるけどね」
「それならそうと書けばいいのに。ややこしい表現しやがって」
と、アラルフィンは苦笑いをする。
「立ち話もなんだ。中へ入ってくれ」
中へ入ると目につくのはL字型のカウンターとテーブル席が一つ。その左側に扉があり工房になっているようだ。カウンターの奥には棚がありたくさんの商品がならんでいた。ここで商談や販売が行われているのだろう。店番がいないのはなんだか不用心にも思えるが。
「まぁ、座ってくれ」
そういってテーブル席を勧められたのでリン達は席についた。
アラルフィンがカウンターで木製のカップにお茶を淹れて持ってきてくれる。
「まぁ、あれだ。ややこしいことは抜きにしてリンはうちの坊主の従兄弟ってことでいいよな?」
「義弟なので、それで構わないと思いますよ」
「それで、フィンゴネルのやつのところでも修行してたから、うちで引き続き修行をつけてやればいいんだな?」
カレンがお茶を口に含む。
「あら、おいしいわね」
「そうだろう?これは近くで取れるミンツというハーブなんだ」
「へー、爽やかな清涼感があっていいわね」
「俺もきにいっててな。いつも市場で買ってるんだ」
「自分で採りにいけばいいのに」
「そうは言っても時間がないんだよ」
「そっかー。それじゃこれからは私が採ってきてあげられるね」
「そりゃ助かる」
カレンはもう一口お茶をすすると話を元にもどした。
「話がそれちゃったけど、それと人族の言葉がわからないのでその勉強も」
「あぁ、そうだな。スカニアでやっていくならそれは必要だ。若いんだから直ぐに覚えられるだろ」
アラルフィンが大きな手でリンの頭を撫でながら簡単に言う。どうやら、アラルフィンはかなり大雑把な性格のようで楽観的だ。
リンは一瞬ビクッとしたあと、本当に?とでも言うように不安そうな顔をしてアラルフィンを見つめている。まだ、最初の怖い人という印象が抜けないようだ。
「ミランウェ、ちょっとこっちへこい」
一瞬、残念そうな表情を見せたアラルフィンはお茶を一口飲むと表情を切り替え、奥へ向かって大声で声をかける。
奥から扉を開けてでてきたのは長く伸ばした赤毛を後ろで一本に束ねた線の細い男性で
さきほど対応してくれた青年だ。
「この二人はお前の従姉弟にあたるカレナリエルとリンランディアだ。今日からうちで面倒みることになった。お前が世話をしろ。わかったな?」
アラルフィンの口ぶりからミランウェは彼の息子なのだろう。
「わかりました。父さん」
「父さんじゃない。ここでは親方と呼べと言ってるだろう」
「わかりました。親方」
ミランウェは素直に応じる。
「そうだ。それでいい。ミランウェは職人としてはまだまだだが、接客対応もしてるから人族の言葉も一通りは使える。リンはこいつにしっかり教えてもらえ」
「はい。わかりました。ミランウェさんよろしくお願いします」
「リン君だったね。これからよろしく」
挨拶をしたリンにミランウェが優しく微笑みながら右手を差し出す。
「リン、手を握り合うんだ。これは人族の挨拶だな」
アラルフィンが助け舟を出すと、にっこりと笑ってリンはミランウェと握手した。
ーーー
リン達は無事にスカニアに到着しました。
アラルフィンさん、フィンゴネルとはタイプがかなり違う人ですね。
でもきっと仕事はできる人、、、のはず。
今回はリアルで薬が追加になり眠気との戦いでした。
まじしんどかった~
今回の登場人物のまとめ
・リンランディア リン フィンゴネルの養子、本作の主人公
・カレナリエル カレン フィンゴネルの長女、猟師
・エフイル 妖精王の娘、白い子猫
・ガラシング伍長 ニテアス警備隊の伍長(5人長)
ーーー
・アラルフィン アラン フィンゴネルの兄(カレンの伯父)、魔道具職人、錬金術師
・ミランウェ ミラン アラルフィンの息子、カレンの従兄弟
次回、第七話 スカニア②
2023/4/22 18:00 更新予定
晴れ渡る夏空には雲がたなびき、時折小鳥の群れが大きなカーブを描きつつ何処かへ向かっていく。エルウェンデでも北部に当たるこの地方にも既に盛夏が訪れており、日差しは容赦なく照りつけるが湿度が低いためそこまでの暑さは感じられない。
ニテアスで商隊の手配ができるまでに凡そ二週間ほどが必要だったのは、スカニアとの往復をしている商隊の到着まで時間がかかったからだ。そこから三日の休養を挟み荷物を積み込み出発となった朝、リン達が馬車へいくとそこには見知った顔が見えた。
護衛についてくれるのがガラシング伍長の班だったのだ。
そのため、リン達は知らない人たちに囲まれる緊張がかなり緩和され、また彼らの実力を知っているため安心感となっていた。
商隊の面々とも挨拶を交わし特に問題もなく出発となりまずはドレギレナへと向かって商隊は進んでいった。
ドレギレナを越えた翌日には分岐点に到着し進路を北北東へと向ける。ここから龍尾山脈を横断してく山道へと向かっていくことになる。この尾根越えは高低差二・三七ラエファロス(約六百五十メートル)で、そこまで高くないところを通過するように道が付けられているが、場所によっては急な登攀が必要な箇所があり難所となっている。
そのようなところでは馬車を降りて押すことも必要だった。
山を登っていくとナラやブナ、クリの木、スギなどが茂る温帯樹林から徐々にマツやシラカバ、カシワなどに変わっていき、山を越えた先では完全に針葉樹林となる。
ここまでの間、狼や小妖鬼族などと出くわすことがあったがガラシング伍長達の活躍により特に問題もなく通過してきた。
街道の左側は黒い森に沿うように東に向かっていきセラリへと到達。セラリはスカニア方面から、エフェルナディ・テライオン方面ととドレギレナ・タリオン方面へと向かう分岐点にあたり、人族との交流が限定的なエルウェラウタにとっては防衛拠点にもなっている重要な集落になっている。
セラリはドリンドルメ川が北東から東へ進路を変える地点の南岸に位置し、五千六百人ほどの人口を抱え城塞を構えている。長老のザオス・ジルセランはエルウェラウタでも武勇で知られる人物だ。そのため、ここでは警備隊などの軍事施設が大きく市場規模は小さい。スヴァイトロの長老ギャリック・インヴィールも武勇で知られる人物であるが、彼は豪放磊落な親分肌という面がつよく、厳しさが表にでているセラリの長老ザオス・ジルセランとは毛色が異なっていた。
スカニアの長老サーヤ・イアンキアンが融和的で非常に温厚な人物であるため、そのような人物が後ろに控えているとも言える。
ニテアスを出て二十日。セラリを出て半日。ついに彼らはスカニアを望む丘の上に到着したのだった。スカニアを望むと言ってもまだうっすらとで、ここからスカニアまではまだ一日の距離がある。
「そろそろ出発しましょうか」
みなの食事が終わったところを見計らってガラシング伍長が商隊の主に提案した。
「よし。それじゃ出発の準備を整えてくれ」
指示を聞いてみなが三々五々準備を整えていく。
リン達も荷物をまとめ馬車に乗り込む。
出発準備の整った商隊の馬車は護衛隊に守られながらスカニアへ向かっていった。
翌日の午後、一行はスカニアの西門に到着し入門検査に並んでいた。
スカニアは人口三万三千人ほどとエルウェラウタで最も大きな街であるが、街の外周はしっかりとした獣避けの柵がある程度である。これは外からの脅威が街からは離れている黒い森から出てくる獣や魔物くらいである事による。
西門を通過し道なりに進むと左手に工房地区、右手に住宅街、更に進むと高級住宅街となり、中央広場を越えると東門へ抜ける通りを北東に進むと左手から正面にかけてが商業区、キングスレイ湾に面する右手が港湾地区となっており、この東西に抜ける通りがメインストリートとなっている。
リン達は入門したところで商隊と別れ、フィンゴネルからもらった地図を頼りに工房地区へと入っていった。スカニアは人族の影響が強いのか石造りやレンガ造りに漆喰が塗られた建造物が多い。このあたりも例外なく石造りやレンガ造りの工房が並んでいる。
二階建ての建物が多いのは一階が工房で二階に人が住んでいるのだろうか。
そんな街並みを右に折れ、左に折れしながら一件の工房にたどり着いた。
アラルフィンの工房だ。
外観はしっかりとした石造りで間口が意外く幅二十二ファロス(約十五メートル)ほどもあろうか。二つある窓は開け放たれており、作業の音にまじり大きな声が聞こえてきてリン達を驚かせた。
「おねえちゃん、アラルフィン伯父さんて怖い人なの?」
不安になったリンがカレンの服の裾をつまみながら尋ねる。
「んー……。正直あんま記憶にないのよねぇ。あったのってかなり子供の頃だったし。でもここまで来て帰るっていうのは無いし、あってみるより仕方ないんじゃない?」
「そうだよね……」
リンが開いている窓からこわごわと中を覗き見ると
「何やってるんだ!」
怒声が翔んできて思わず顔を引っ込める。
「お前は何度言えばわかるんだ?そこはそうじゃないといつも言ってるだろーが」
自分が怒られたんじゃないとわかってホッとするもやっぱり怖いという思いが湧いてきて、カレンの方を向くとカレンもリンを見ていて目があった。
カレンが仕方ないわねぇといいたげに肩を竦めるとドアに向かっていきノックする。
「……」
返事がないのでもう一度強くノックする。
「……」
やはり返事がない。
仕事に集中していて聞こえないのかと思い直し、そっとドアを開けて声を掛けてみると二十歳くらいに見える見習い職人らしき人がでてきて対応してくれた。
「わたしはカレナリエル、でこっちがリンランディア。ニテアスのフィンゴネルからの紹介で来ました。アラルフィン伯父さんに取り次いでもらえますか?」
カレンはそう言いながら父親から託された手紙を渡す。
「えっと……あ、はい」
彼はなにか言いたげだったが、そのまま手紙を受け取ると奥へと引っ込んで行った。
「なにー!」
大声がするとすぐにドタドタと足音が近づいてきて赤毛に無精ひげの男性が顔を出した。
袖まくりしたシャツから太い腕の覗かせ前掛けをした彼がアラルフィンなのだろう。
雰囲気かかなり違っているがどことなくフィンゴネルの面影があるように思われる。
「ニテアスのカレンなのか?フィンゴネルの娘の?」
彼はすごい勢いこんで聞いてくるのでカレンは圧倒されて目を瞠ってただ頷くのみだ。
「そうか!よく来たな!で、そっちの坊主は?」
「義弟のリンランディアです。伯父さん、まずは手紙を読んで!」
「はっはっは。すまんすまん。なになに……」
フィンゴネルは今更のように手紙を読み始める。
アラルフィンは感情豊かで表情がころころと変わる人物らしく、手紙を読みながらも忙しく表情を変えている。
「……弟の妻の姉の孫だと?よくわからんが、つまり親戚なんだな?」
「お母さんのお姉さんの娘は私から見て従姉妹。その子供だから私の甥っ子になるのよ。うちでは義弟ってことになってるけどね」
「それならそうと書けばいいのに。ややこしい表現しやがって」
と、アラルフィンは苦笑いをする。
「立ち話もなんだ。中へ入ってくれ」
中へ入ると目につくのはL字型のカウンターとテーブル席が一つ。その左側に扉があり工房になっているようだ。カウンターの奥には棚がありたくさんの商品がならんでいた。ここで商談や販売が行われているのだろう。店番がいないのはなんだか不用心にも思えるが。
「まぁ、座ってくれ」
そういってテーブル席を勧められたのでリン達は席についた。
アラルフィンがカウンターで木製のカップにお茶を淹れて持ってきてくれる。
「まぁ、あれだ。ややこしいことは抜きにしてリンはうちの坊主の従兄弟ってことでいいよな?」
「義弟なので、それで構わないと思いますよ」
「それで、フィンゴネルのやつのところでも修行してたから、うちで引き続き修行をつけてやればいいんだな?」
カレンがお茶を口に含む。
「あら、おいしいわね」
「そうだろう?これは近くで取れるミンツというハーブなんだ」
「へー、爽やかな清涼感があっていいわね」
「俺もきにいっててな。いつも市場で買ってるんだ」
「自分で採りにいけばいいのに」
「そうは言っても時間がないんだよ」
「そっかー。それじゃこれからは私が採ってきてあげられるね」
「そりゃ助かる」
カレンはもう一口お茶をすすると話を元にもどした。
「話がそれちゃったけど、それと人族の言葉がわからないのでその勉強も」
「あぁ、そうだな。スカニアでやっていくならそれは必要だ。若いんだから直ぐに覚えられるだろ」
アラルフィンが大きな手でリンの頭を撫でながら簡単に言う。どうやら、アラルフィンはかなり大雑把な性格のようで楽観的だ。
リンは一瞬ビクッとしたあと、本当に?とでも言うように不安そうな顔をしてアラルフィンを見つめている。まだ、最初の怖い人という印象が抜けないようだ。
「ミランウェ、ちょっとこっちへこい」
一瞬、残念そうな表情を見せたアラルフィンはお茶を一口飲むと表情を切り替え、奥へ向かって大声で声をかける。
奥から扉を開けてでてきたのは長く伸ばした赤毛を後ろで一本に束ねた線の細い男性で
さきほど対応してくれた青年だ。
「この二人はお前の従姉弟にあたるカレナリエルとリンランディアだ。今日からうちで面倒みることになった。お前が世話をしろ。わかったな?」
アラルフィンの口ぶりからミランウェは彼の息子なのだろう。
「わかりました。父さん」
「父さんじゃない。ここでは親方と呼べと言ってるだろう」
「わかりました。親方」
ミランウェは素直に応じる。
「そうだ。それでいい。ミランウェは職人としてはまだまだだが、接客対応もしてるから人族の言葉も一通りは使える。リンはこいつにしっかり教えてもらえ」
「はい。わかりました。ミランウェさんよろしくお願いします」
「リン君だったね。これからよろしく」
挨拶をしたリンにミランウェが優しく微笑みながら右手を差し出す。
「リン、手を握り合うんだ。これは人族の挨拶だな」
アラルフィンが助け舟を出すと、にっこりと笑ってリンはミランウェと握手した。
ーーー
リン達は無事にスカニアに到着しました。
アラルフィンさん、フィンゴネルとはタイプがかなり違う人ですね。
でもきっと仕事はできる人、、、のはず。
今回はリアルで薬が追加になり眠気との戦いでした。
まじしんどかった~
今回の登場人物のまとめ
・リンランディア リン フィンゴネルの養子、本作の主人公
・カレナリエル カレン フィンゴネルの長女、猟師
・エフイル 妖精王の娘、白い子猫
・ガラシング伍長 ニテアス警備隊の伍長(5人長)
ーーー
・アラルフィン アラン フィンゴネルの兄(カレンの伯父)、魔道具職人、錬金術師
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