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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
8-1.建国祭散策
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クリスティーナが出かける決意をしたのにはいくつか理由がある。
まず第一に、茶会での話題に困ることが容易に予想できたから。
アリシアの話した通りであるとするならば、皇太子はここ数年ろくに祭りに参加していないクリスティーナの心配をしているそうだ。皇太子も社交界で歩き回るクリスティーナの噂を知らないわけではないことを考えると彼のクリスティーナに対して抱く心配事とは、自身の悪名や周囲の視線を気にしてしまっていることで祭りを楽しむことができていないのではないか……といったところだろう。
そしてきっと茶会ではこのように問うはずだ。『建国祭はクリスティーナ嬢の気には召さなかったかな』と。
そこでまさかつまらないので家で本を読んでいましたと答えるわけにはいかないだろう。建国祭とはこの国の成り立ちを祝う行事なのだから、将来の皇帝に対してこの国の歴史に興味はありませんなどとは口を避けても言えまい。かと言って自分を嫌っている相手と会いたくないので、と他の貴族の陰口を言うのも好ましくはない。
故に今年は祭りへ行ったという既成事実を作り、祭りに興味がない訳ではないという主張が出来るようにしておこうという魂胆である。事実、クリスティーナは祭り自体が嫌いなわけではない為アリバイさえ作ってしまえばボロが出ることも少ないだろう。
もう一つは茶会への手土産である。皇太子自らが招待した茶会に手ぶらで行くことは出来まい。形だけのものだとしても茶会へ招待頂いた礼として何か持って行くべきだろう。
本来なら家の者に使いを頼んで用意させるところだが、折角であれば今年は祭りを楽しんだという主張に説得力を持たせるべく祭りを回りながら手土産にふさわしい物を吟味することをクリスティーナは選んだのだった。
(どの道祭りでやりたいこともないし)
意味もなく歩き回るより明確な目的を持って歩いている方が楽であるとクリスティーナは結論付けた結果である。
「この喧噪も懐かしいですね」
クリスティーナを行き交う人々からなるべく庇いつつリオが呟く。クリスティーナはその言葉に無言で同意しながら周囲を見渡した。
祭りの期間中は王都と隣接するレディング領にも多くの屋台が立ち並ぶ。その一角に二人は足を運んでいた。
色とりどりの装飾、そこかしこから漂う料理の香り、アクセサリーや怪しい占いの屋台、普段とは比べ物にならない程の通行人。どこを見渡してもお祭り一色である。
「本当に殿下への手土産を選ぶだけで良いのですか?」
「ええ。寄り道をしていないのにこんなに時間が経っているのよ。屋台を回っていたら日がくれそうだわ」
「そうですか」
さっさと良さげな洋菓子屋を見つけるだけの予定が、予想以上の人通りによって思うように先へ進むことが出来ずに立ち往生しているというのが今のクリスティーナたちの状況である。
まず第一に、茶会での話題に困ることが容易に予想できたから。
アリシアの話した通りであるとするならば、皇太子はここ数年ろくに祭りに参加していないクリスティーナの心配をしているそうだ。皇太子も社交界で歩き回るクリスティーナの噂を知らないわけではないことを考えると彼のクリスティーナに対して抱く心配事とは、自身の悪名や周囲の視線を気にしてしまっていることで祭りを楽しむことができていないのではないか……といったところだろう。
そしてきっと茶会ではこのように問うはずだ。『建国祭はクリスティーナ嬢の気には召さなかったかな』と。
そこでまさかつまらないので家で本を読んでいましたと答えるわけにはいかないだろう。建国祭とはこの国の成り立ちを祝う行事なのだから、将来の皇帝に対してこの国の歴史に興味はありませんなどとは口を避けても言えまい。かと言って自分を嫌っている相手と会いたくないので、と他の貴族の陰口を言うのも好ましくはない。
故に今年は祭りへ行ったという既成事実を作り、祭りに興味がない訳ではないという主張が出来るようにしておこうという魂胆である。事実、クリスティーナは祭り自体が嫌いなわけではない為アリバイさえ作ってしまえばボロが出ることも少ないだろう。
もう一つは茶会への手土産である。皇太子自らが招待した茶会に手ぶらで行くことは出来まい。形だけのものだとしても茶会へ招待頂いた礼として何か持って行くべきだろう。
本来なら家の者に使いを頼んで用意させるところだが、折角であれば今年は祭りを楽しんだという主張に説得力を持たせるべく祭りを回りながら手土産にふさわしい物を吟味することをクリスティーナは選んだのだった。
(どの道祭りでやりたいこともないし)
意味もなく歩き回るより明確な目的を持って歩いている方が楽であるとクリスティーナは結論付けた結果である。
「この喧噪も懐かしいですね」
クリスティーナを行き交う人々からなるべく庇いつつリオが呟く。クリスティーナはその言葉に無言で同意しながら周囲を見渡した。
祭りの期間中は王都と隣接するレディング領にも多くの屋台が立ち並ぶ。その一角に二人は足を運んでいた。
色とりどりの装飾、そこかしこから漂う料理の香り、アクセサリーや怪しい占いの屋台、普段とは比べ物にならない程の通行人。どこを見渡してもお祭り一色である。
「本当に殿下への手土産を選ぶだけで良いのですか?」
「ええ。寄り道をしていないのにこんなに時間が経っているのよ。屋台を回っていたら日がくれそうだわ」
「そうですか」
さっさと良さげな洋菓子屋を見つけるだけの予定が、予想以上の人通りによって思うように先へ進むことが出来ずに立ち往生しているというのが今のクリスティーナたちの状況である。
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