悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

16-1.思案

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 建国祭七日目の早朝、皇宮の一室で目を覚ましたクリスティーナは深く息を吐いた。
 謹慎中の為外出も許されなかったクリスティーナは、この三日間の殆どを最悪の場合の状況を打破する手段を考えるために費やしていた。

 これからどうしたものか。真相は明かされるのか、それとも自分が冤罪を被せられることになるのか、万が一そうなった場合どう動くのが最善であるのか……そのようなことを考えていれば眠りの質も当然衰え、疲労も蓄積される。
 本当に皇族暗殺を目論んでいたのであれば当然死刑だろうが、今まで自身の悪名に目を瞑ってきたクリスティーナでも流石に冤罪で殺されるのはごめんである。

 貴族間での問題であれば裁判が執り行われたのだろうが、皇族と貴族間のいざこざとなると裁判を経ることなく皇族の決定に従って貴族が処罰されることが殆どである。
 謁見の間で罪状が言い渡された際に弁明する機会は設けられるはずだがそれは形だけのもの。例え冤罪がその場で露呈したとしても公衆の面前で自身の過ちを認めることになる為、皇族が罪状を覆すことは考えにくい。

 皇族のミスは貴族たちの支持率を落とすことに繋がり、皇族へ反発する勢力が強まる恐れがある。皇族は何よりも安定した王政の持続、即ち自分たちの権威を最優先させるはずだ。

 更に一度冤罪に掛けられた貴族が仮に無罪放免されたとして、皇族はその負い目から該当の貴族に対し強気な姿勢を貫くことが難しくなることだろう。
 以上のことから皇族によって一度言い渡された罪状を覆すことは難しいことが考えられる。

 現時点はあくまで謹慎という体だが、それは判決を先延ばしにしているだけに過ぎない。一度謁見の間に呼び出されてこいつは皇太子暗殺を目論んだ犯人だと断言されてしまえば基本的に逃れようはないのだ。

 勿論冤罪などということが起こらないよう、皇族も可能な限り慎重に真相を突き止めてから動くのが常であるという前提はある。

 皇族が動くということは皇宮に用意された国中の敏腕な技術や豊富な知識を持った人員が動くということであり、事前に慎重な捜査が行われるはず。それを考えれば冤罪が発生すること自体考え難いことではあり、イニティウム皇国の歴史上で皇宮側の判決によって冤罪が出たという事例は一つも存在しないはずだ。

 だが、歴史上存在しないという現在の事実が常に当時の事実と同一である保証はない。クリスティーナは皇族に悪い感情を抱いているわけではないが、皇族が常に正しく在る存在であるとは微塵も考えていない。
 故にクリスティーナは自身が冤罪を被せられるという皇族が過ちを犯す可能性についても視野に入れるべきだと考えていた。
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