悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

18-2.出立準備

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 結果はあっさりと承諾されたとのこと。
 クリスティーナとしては自己の評判の悪さは身から出た錆であるし、後ろ指をさされようが田舎へ追いやられようが自分のことだと割り切れているが、それに振り回されることになるリオに対しては多少の罪悪感がある。

 故に旅路への同行を強要するつもりはない旨をリオには伝えたのだが、彼の返答は先と同じようなものだった。

 それが自身の望むことだと彼が言うのであればクリスティーナもそれ以上無理に突き放したりはしまい。結局のところ自身の言葉に責任を持って貰い、今までと同じ様にこき使ってやろうという考えに至ったのだった。
 この従者は仕事の出来る男である。傍に居てくれるというのであれば居てくれた方がクリスティーナにとって色々と都合が良い。

「それに……俺、ここに居ても仕事貰えなくなってしまったので」
「それはどういう……」
「さあさあ! 行きましょう、お嬢様」

 バツが悪そうに視線を落とすリオの呟きにすかさず言及をしてやろうと思ったが、それを誤魔化すようにリオが速足で部屋を出た。
 仕方がないので彼に急かされるがまま廊下に出るが、出立にはまだ早い。

「リオ、流石に早すぎるでしょう」
「セシル様からクリスティーナ様を呼んでくるよう仰せつかっておりますので」
「お兄様が?」
「はい」

 別れの挨拶にでも呼ばれるのだろうかと思ったクリスティーナは何だかそれが意外だと感じた。
 セシルは自分の兄であるが、年の近いアリシアやイアンよりも顔を合わせる機会は少ない。自分が物心ついた頃には嫡男として忙しくしていた為そこまで思い入れのある記憶もない。

 出会う度になれなれしく軽薄な態度を見せるが、そこに至るまでの何かを築いた記憶もない為自身との距離感の乖離に付き合い方を悩まされるという、アリシアとは違った部類の苦手なタイプである。

 そもそも彼は出会う度に口先では『愛しい妹』と何度も言うが、その実彼女の為に時間を割いてくれたことなど一度もなかった。幼い頃に一度だけ彼の気を引こうとした時があったがその時もやんわりと躱されてしまったという少々苦い思い出もある。

「お兄様は仕事にしか興味がないのかと思っていたわ」
「それはまた手厳しい評価ですね」

 静かに苦笑するリオに続きながらクリスティーナはため息を吐いた。

(こんなことになって初めて自ら動くだなんて)

 家を出るにあたって伝えておきたいことでもあったのか、形だけの別れでもというただの気まぐれか。
 彼と会うこともこの先暫くないだろうと考えたクリスティーナは大人しく兄の呼び出しに応じてやることにした。
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