悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

24-1.魔導師の襲撃

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 白ローブの男はクリスティーナとリオへ距離を詰め、長い棒状の武器を振り翳す。
 細い帯状の布を全体に巻き付けたそれは見た目がやや特殊ではあるものの、杖で間違いないだろう。魔導師が魔法の精密度を上げる為に使用する道具だ。

「――アクア・スフィア」
「アイス・フリーズ」
「っ、氷使いか……! レミ!」
「わかっている。ライトニング・ショット」

 杖の先で生成された水の球がリオの眼前へ放たれる。しかしそれは即座にクリスティーナの魔法によって凍り付き、地面へ落ちて砕け散った。
 すかさず詠唱するのは白ローブの逆に立つ魔導師。彼から放たれた紫の火花は二人へ向かって真っすぐ放たれるがリオはそれをすんでのところで回避した。

 しかし更に追撃を目論む白ローブが回避に徹したリオの僅かな隙を見出だして距離を詰める。
 魔法が来るものだと身構えたリオは一拍遅れてから異変に気付き、咄嗟に片手でクリスティーナを持ち直し、もう片方の腕で自身の横顔を庇った。

 響く音は鈍い打撃音。白ローブの魔導師が杖でリオを殴りつけた音だ。

「っ、魔導師は滅多に近づいてこないものだと思っていたのですが……」
「ははっ、そりゃ一つ勉強になったね。魔導師の杖ってのは実は打撃武器なんだ、よ……おっ!?」
「ノア!」

 白ローブの言葉が途中で遮られたのはリオが殴られた杖を握り返し、引き寄せたかと思えば相手の足を引っ掛けて転倒した為だ。
 ふわりと浮き上がるローブの下、金髪と深い藍に染まる双眸が一瞬顕わになったかと思えば彼はうつ伏せになる様に地面へ転がった。

「お嬢様、失礼します」
「ぐぁっ!」

 抱き上げられたまま感じた浮遊感。予測していなかった落下の感覚に驚いたクリスティーナはリオの首へしがみつくが数秒後に訪れた衝撃と共に自身の体がしっかりと支えられている感覚も戻ってくる。

 一体何が起こったのかと改めて状況を確認すれば、どうやらリオがクリスティーナを抱きかかえたまま転倒した白ローブの青年の上に座り込んでいるらしいことが分かった。
 更にリオは自身の袖口から滑り出したナイフを踏みつぶした相手の首筋に当てがって息を吐く。

「うわぁ、何……? 暗殺業の人か何かなの……?」
「騒がしい人ですね、少しお静かに願います。……そちらの人も。余計な動きを見せたらこの方は殺します」
「……わかった」

 白ローブと連携を取っていたレミと呼ばれた魔導師は大人しく両手をあげてこれ以上敵意がないことを示す。
 更にエリアスの方も一人の少女を連れて近づいてくる。

「やー、助かった。リオがその人捕まえたの見たら中断してくれてさ」
「アレット先生ー、ごめんね捕まっちゃった」
「お前という奴は本当に問題ばかり作るな……」

 他の魔導師達はエリアスによって気絶させられている様だ。
 クリスティーナは一連の流れを実際に見ていたわけではないが、複数の魔導師を同時に相手にしても後れを取らない騎士の手腕はやはり相当なものなのだろう。

 アレットと呼ばれた少女は小言を言いつつもエリアスの背中からリオとクリスティーナの様子を窺う。

 先生と呼ばれていることからアレットは教師、それぞれをノアとレミと呼び合っていた青年達は生徒だろうか。青年二人はさておき、アレットの方は落ち着いた声音から想像していた幾倍も若く見える……というか、若すぎる容姿だ。

 場不相応でありながらもアレットの見た目に驚いていると、彼女と視線が合った。
 無礼である考えを抱いていた自覚があるからか少々後ろめたさを感じるクリスティーナであったのに対し、一方でアレットは浮かべていた仏頂面から一転、両目を見開いて驚愕の表情を見せる。

「赤目ではない……?」
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