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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
25-5.得も言われぬ不快感
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「――大丈夫か?」
優しく肩を叩かれる。ハンカチを手に取ったまま暫く呆けていたせいでレミが心配したようだ。
彼は善意からクリスティーナの肩を叩き、顔を覗き込む。
しかし彼の手が自身の肩に触れていると認識するよりも先、クリスティーナは咄嗟にそれを振り払った。
自分の肩の上を大きな蛞蝓が這いずったかのような、得体の知れない不快感。彼女の本能が何かを拒絶した。
乾いた音が響き、手を振り払われたレミが目を丸くする。
近くにいたノアや馬車から顔を覗かせていたリオもまた、驚いた顔をしている。
一方でクリスティーナの息は乱れ、本人は自覚できていなかったがその顔は蒼白としていた。日頃あまり感情を表に出さない彼女にとっては珍しい程の取り乱しようだったと言えるだろう。
訪れる静寂の中、今この場で様子がおかしいのは明らかに自分なのだと、呼吸を繰り返して酸素を取り込むことによって徐々に理解していく。
少しでも気まずさや疑念を晴らす為にはこの沈黙を破らなければ。
「ご、ごめんなさ……」
「申し訳ございません、お嬢様は長旅で疲れていらっしゃるようです。どうかお気を悪くしないでください」
取り繕うべく咄嗟に口を開いたクリスティーナの言葉を遮ったのはリオだった。
「あ、ああ……。こちらこそ気分を損ねさせたのなら悪かった」
「いいえ。失礼します」
馬車から出て来たらしい彼はクリスティーナの体を抱き寄せ、代わりにレミへ謝罪を述べると有無を言わさず彼女を抱きかかえて荷台へ向かった。
「おっと、大丈夫かな……。明日も厳しかったらきちんと教えてよー」
リオの背中越しに聞こえる、相変わらず暢気な声が少しだけクリスティーナに落ち着きを齎してくれるようだった。
荷台へ運び込まれて馬車が動き始めるとそれだけで随分と気が楽になる。
(さっきのは一体……)
エリアスの時のことを思い返せば聖女の能力であることは間違いないはずだ。しかし具体的にどんな能力であるのか、未だ見当がつかない。
更に以前は感じなかった不快感や嫌悪感……。思い出す度に嫌な汗が滲みそうな女性の声。
移動先まで休んでいてくれと主人を気遣うリオの言葉に甘えて瞼を閉じるも、先程まであった眠気は消し去っていてとても眠れそうにはなかった。
優しく肩を叩かれる。ハンカチを手に取ったまま暫く呆けていたせいでレミが心配したようだ。
彼は善意からクリスティーナの肩を叩き、顔を覗き込む。
しかし彼の手が自身の肩に触れていると認識するよりも先、クリスティーナは咄嗟にそれを振り払った。
自分の肩の上を大きな蛞蝓が這いずったかのような、得体の知れない不快感。彼女の本能が何かを拒絶した。
乾いた音が響き、手を振り払われたレミが目を丸くする。
近くにいたノアや馬車から顔を覗かせていたリオもまた、驚いた顔をしている。
一方でクリスティーナの息は乱れ、本人は自覚できていなかったがその顔は蒼白としていた。日頃あまり感情を表に出さない彼女にとっては珍しい程の取り乱しようだったと言えるだろう。
訪れる静寂の中、今この場で様子がおかしいのは明らかに自分なのだと、呼吸を繰り返して酸素を取り込むことによって徐々に理解していく。
少しでも気まずさや疑念を晴らす為にはこの沈黙を破らなければ。
「ご、ごめんなさ……」
「申し訳ございません、お嬢様は長旅で疲れていらっしゃるようです。どうかお気を悪くしないでください」
取り繕うべく咄嗟に口を開いたクリスティーナの言葉を遮ったのはリオだった。
「あ、ああ……。こちらこそ気分を損ねさせたのなら悪かった」
「いいえ。失礼します」
馬車から出て来たらしい彼はクリスティーナの体を抱き寄せ、代わりにレミへ謝罪を述べると有無を言わさず彼女を抱きかかえて荷台へ向かった。
「おっと、大丈夫かな……。明日も厳しかったらきちんと教えてよー」
リオの背中越しに聞こえる、相変わらず暢気な声が少しだけクリスティーナに落ち着きを齎してくれるようだった。
荷台へ運び込まれて馬車が動き始めるとそれだけで随分と気が楽になる。
(さっきのは一体……)
エリアスの時のことを思い返せば聖女の能力であることは間違いないはずだ。しかし具体的にどんな能力であるのか、未だ見当がつかない。
更に以前は感じなかった不快感や嫌悪感……。思い出す度に嫌な汗が滲みそうな女性の声。
移動先まで休んでいてくれと主人を気遣うリオの言葉に甘えて瞼を閉じるも、先程まであった眠気は消し去っていてとても眠れそうにはなかった。
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