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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

46-2.記憶の幻影

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 何事かと顔を上げるが周囲の霧が濃く、先がどうなっているのかまでは把握できない。
 クリスティーナはリオとエリアスへ視線を与えてから先を急いだ。

「気配が複数在ります。人か魔物かまではまだわかりませんが」

 クリスティーナと並走しながらリオが言う。
 反対側ではエリアスが柄に手を握って臨戦態勢に入っている。

「先に行きましょうか」

 提案するリオの前方で霧が凝縮される。
 そこに映された幻影を視界に捉えながらも、クリスティーナは彼に指示を出す。

「行って」
「畏まりました」

 短い返事を最後にリオの姿が消える。
 霧のせいではない。彼の人並外れた身体能力のせいだ。

 クリスティーナは現れた幻影の横を通り抜ける。
 金髪の親子の姿。その二人の特徴にノアと通ずるものがあったことから、彼が近くにいるのだと判断したのだ。

「ノア!」

 少年の父親らしき人物が声を荒げる。

「魔導師になるなんて馬鹿なことを言うな!」
「俺は本気だ。剣士にはならない」
「お前……お前っ! ヴィルパンの名に泥を塗るつもりか! 何の為にここまで育てたと……!!」

 父親は怒鳴り散らし、少年もまた静かに怒りを含んでいる。
 幻影との距離が開くことによって彼らのやり取りを鮮明に聞き取ることは出来なくなっていく。

「俺の人生はあんたの物じゃない! あんたの言いなりになることが嫡男の役目だっていうなら……こんなとこ、今すぐ出てってやる」
「ノア!!」

 一際大きな声を最後に幻影が発する音は聞こえなくなる。聞き取れる距離ではなくなってしまったからだろう。
 そちらに気を削がれながらもクリスティーナは先を急ぐ。

 暫し足を動かした先、霧の中で揺らぐ人影があった。


***


 目の前で繰り広げられた一瞬の出来事にノアは呆気にとられていた。

「お怪我は?」
「あ……ああ。お陰様で。無傷さ」

 声を掛けられたことによって漸く我に返ったノアは礼を述べる。
 背負っていたシモンを下ろしてやり、念の為怪我の有無も確認をする。彼が首を横に振ったのを見てから、ノアは漸く胸を撫で下ろした。

「はあぁぁぁ……助かった……」

 緊張と恐怖から来ていた手の震えも落ち着き始めている。
 安堵と、それとは別の複雑な感情に気付いたノアは静かに手を握りしめた。

 その時、二つの足音が霧の先からやってきた。
 すぐにその持ち主――クリスティーナとエリアスが姿を現す。

「死体を見ることにならなくてよかったわ」

 合流後、開口一番に吐かれた言葉があまりにも通常運転であったのでノアは笑わずにいられなかった。

 しかし、そのささやかな休息と交流もままならず。
 リオとエリアスが同時に同じ方角へ視線を移し、無言で臨戦態勢を取る。

「追加来ます」
「十数……いやもうちょいいるな。大体二十か」
「にじゅ……」
「大丈夫よ」

 遅れてクリスティーナやノアもこちらへ近づく無数の足音を耳にする。
 ノアが顔を強張らせる隣でクリスティーナは顔色一つ変えずに二人の護衛の背中を見つめた。

「勿論、叩いた大口に見合うだけの働きはしてくれるのよね」

 半ば挑発めいた主人の問いかけに対して笑う気配が二つ零れる。

「勿論」
「お任せください」
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