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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
47-2.楽々戦勝
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力仕事を終えたかのように肩を回す彼の素振りに対し、エリアスが怪訝そうな顔をした。
「すみませんってお前、もしかしてそいつぶん投げたか?」
「はい」
「はいって、お前なぁ……どうなってんだよ」
襲い掛かってきた魔物は狼と通ずる特徴を持っている種だ。
いくら少なく見積もっても三十キロはあるだろう体を絶命させる程の威力で投げ捨てる腕力は異常である。
更にリオの体格は男性の中でも極めて細身と分類される程頼りない。体格と身体能力の乖離にエリアスが目頭を押さえた。
「いや、君も人のこと言えないからね」
周囲から敵が消えたことを確認してからノアがすかさず口を挟む。
辺りに散らかった肉塊へ視線を落としていた彼は人の成せる業とは到底思えない戦闘能力に苦笑した。
「とにかく、助かったよ。君達がいなかったら間違いなく魔物の餌になってたところさ」
「俺達は主人に従っただけなので」
お礼ならクリスティーナへと言うリオの言葉にクリスティーナは眉根を寄せる。
結局自分は何もしていない上に、ここへやってきたそもそもの理由もノアの為というよりも自分の我儘の為なのだ。
礼を言おうと自分の方を見たノアより先にクリスティーナは口を開く。
「貴方に腹が立っただけよ」
「……そっか」
クリスティーナが機嫌を損ねた原因に心当たりはあったのだろう。
ノアは眉を下げて小さく頷いた。
互いに口を閉ざしてしまい、気まずさが増すかと思われた空気はエリアスが話題を変えたことによって誤魔化される。
「ってか、いくら霧が濃いからって魔物がこんなに集まってるのは流石におかしくないか」
彼は一掃した魔物の死骸を改めて見下ろしながらぼやく。
「うん。奥ならまだしもこんな手前でとなると――」
エリアスに同意して頷いたノアの声が別の声に遮られる。
その場の全員が遮った声へ視線を向ける。そこにあったのは金髪の親子の幻影だ。
「戻りながら話そうか」
白熱する親子喧嘩に負けない様に声を張りながらノアが苦笑した。
一行は街へ向かって足を進める。
移動を開始してすぐに二つ目のノアの幻影の横を通り過ぎることになる。これはクリスティーナが走っていた時に見たものだったが、ノア曰くシモンを見つける前に現れたものが残っていたのだろうという話だった。
「それにしてもまさか、君達が助けに来てくれるとはなぁ」
「悪かったかしら」
「いやいや、まさか。……ただ、誰も来ないだろうと思っていたものだったから」
クリスティーナは辺りを見回す。
ノアと合流する前も後も、結局自分たち以外の増援はなかった。
「そういえば、結局彼らは来なかったのね」
「彼ら……?」
「お嬢様がオーバン様に喧嘩を売ってしまって」
「あっ、だからか!? 帰りにすれ違ってすげー形相で睨まれたんですけど!?」
「喧嘩を売った? 君が?」
面食らってクリスティーナの顔をノアはまじまじと見る。
その視線から逃れるようにクリスティーナは目を逸らした。
それでも彼女を見つめる視線はいつまで経っても開放してくれず。十秒程呆けた後にノアは大きく笑った。
「ふ、はははっ、あはははっ!」
「不快だわ」
「ごめん、想像したら面白くて」
謝られているのに馬鹿にされている気分である。
機嫌を損ねたクリスティーナの傍で暫く笑い続けるノア。彼は気が済むまで笑ってから目尻に溜まった涙を指先で掬った。
「ふ……っ、まあでも、元はと言えば俺が君の機嫌を損ねてしまったのが原因なのかな」
未だ笑いを堪えるのに必死だと言わんばかりに声を震わせているが、何とか言葉を紡ぐ。
そして一つ咳払いをしてからノアは言った。
「少し、話をしようか」
「すみませんってお前、もしかしてそいつぶん投げたか?」
「はい」
「はいって、お前なぁ……どうなってんだよ」
襲い掛かってきた魔物は狼と通ずる特徴を持っている種だ。
いくら少なく見積もっても三十キロはあるだろう体を絶命させる程の威力で投げ捨てる腕力は異常である。
更にリオの体格は男性の中でも極めて細身と分類される程頼りない。体格と身体能力の乖離にエリアスが目頭を押さえた。
「いや、君も人のこと言えないからね」
周囲から敵が消えたことを確認してからノアがすかさず口を挟む。
辺りに散らかった肉塊へ視線を落としていた彼は人の成せる業とは到底思えない戦闘能力に苦笑した。
「とにかく、助かったよ。君達がいなかったら間違いなく魔物の餌になってたところさ」
「俺達は主人に従っただけなので」
お礼ならクリスティーナへと言うリオの言葉にクリスティーナは眉根を寄せる。
結局自分は何もしていない上に、ここへやってきたそもそもの理由もノアの為というよりも自分の我儘の為なのだ。
礼を言おうと自分の方を見たノアより先にクリスティーナは口を開く。
「貴方に腹が立っただけよ」
「……そっか」
クリスティーナが機嫌を損ねた原因に心当たりはあったのだろう。
ノアは眉を下げて小さく頷いた。
互いに口を閉ざしてしまい、気まずさが増すかと思われた空気はエリアスが話題を変えたことによって誤魔化される。
「ってか、いくら霧が濃いからって魔物がこんなに集まってるのは流石におかしくないか」
彼は一掃した魔物の死骸を改めて見下ろしながらぼやく。
「うん。奥ならまだしもこんな手前でとなると――」
エリアスに同意して頷いたノアの声が別の声に遮られる。
その場の全員が遮った声へ視線を向ける。そこにあったのは金髪の親子の幻影だ。
「戻りながら話そうか」
白熱する親子喧嘩に負けない様に声を張りながらノアが苦笑した。
一行は街へ向かって足を進める。
移動を開始してすぐに二つ目のノアの幻影の横を通り過ぎることになる。これはクリスティーナが走っていた時に見たものだったが、ノア曰くシモンを見つける前に現れたものが残っていたのだろうという話だった。
「それにしてもまさか、君達が助けに来てくれるとはなぁ」
「悪かったかしら」
「いやいや、まさか。……ただ、誰も来ないだろうと思っていたものだったから」
クリスティーナは辺りを見回す。
ノアと合流する前も後も、結局自分たち以外の増援はなかった。
「そういえば、結局彼らは来なかったのね」
「彼ら……?」
「お嬢様がオーバン様に喧嘩を売ってしまって」
「あっ、だからか!? 帰りにすれ違ってすげー形相で睨まれたんですけど!?」
「喧嘩を売った? 君が?」
面食らってクリスティーナの顔をノアはまじまじと見る。
その視線から逃れるようにクリスティーナは目を逸らした。
それでも彼女を見つめる視線はいつまで経っても開放してくれず。十秒程呆けた後にノアは大きく笑った。
「ふ、はははっ、あはははっ!」
「不快だわ」
「ごめん、想像したら面白くて」
謝られているのに馬鹿にされている気分である。
機嫌を損ねたクリスティーナの傍で暫く笑い続けるノア。彼は気が済むまで笑ってから目尻に溜まった涙を指先で掬った。
「ふ……っ、まあでも、元はと言えば俺が君の機嫌を損ねてしまったのが原因なのかな」
未だ笑いを堪えるのに必死だと言わんばかりに声を震わせているが、何とか言葉を紡ぐ。
そして一つ咳払いをしてからノアは言った。
「少し、話をしようか」
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