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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
48-4.達観と盲目
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クリスティーナはノアの正面へ回り込み、彼の顔を正面から見つめる。
「私達の気持ちまで勝手に決めないで。気が付く前から拒絶しないで」
彼女はノアへ詰め寄り、胸倉を引き寄せる。
突然のことに不意を衝かれた彼は引き寄せられる力に従うように前屈みになる。
視線の高さが同程度になった辺りでクリスティーナは胸倉を解放し、代わりに彼の頬を両手で挟み込んでその顔を覗き込んだ。
藍色の瞳と空色の瞳が至近距離で見つめ合う。
「目を開けなさい。心に刻みなさい。私達をここまで動かしたのは貴方の行いだと」
何かを言おうと形の整った唇が小さく震え、しかし込み上げる感情を押し留めるようにに噛みしめられる。
言葉を紡ぐことが出来ないノアの顔をクリスティーナは解放してやる。
彼女の手はゆっくりと降ろされていくかと思われたが、それはノアが握りしめていた片手へ伸ばされる。
「安心して頂戴。貴方のくれた、生きる為の術は私の中に残り続けるから。貴方の行いを忘れたり軽んじたりすることはない……貴方のくれたものを抱えて生きていくの。それだけのことをしてくれたのよ」
握られた指先を丁寧に解き、自分のものより一回りは大きい掌をクリスティーナは両手で包み込んだ。
見開かれた瞳が揺らぎ、滲む。
「……そう、だね。ごめん」
握られた掌を見下ろして、されるがまま。ノアが小さく呟いた。
その声は珍しくつっかえて、情けなく震えている。
潤んだ瞳はそれ以上情けない姿を見せない様にと固く閉ざされ、眉根は何かを堪えるように寄せられる。
やがて彼は弱々しく言葉を紡いだ。
「俺は、助けに来てくれた君達の気持ちまで軽んじた発言をした。君が気を悪くするのも仕方がない」
「次からしないと言うのなら大目に見てあげてもいいわ」
「……ああ、勿論だ」
ノアが小さく頷きを返したことを確認して満足したクリスティーナはゆっくりと手を離す。
何かに耐えるようにきつく目を閉じて眉根を寄せる相手の様子を静かに見守っていると、今まで大人しくしていたシモンがノアの脛を蹴った。
「え、いっっっだ、何っ!?」
感傷に浸る様に普段の数倍は儚い空気を纏っていたノアの様子は一変。突然訪れた激痛に耐え切れずその場に崩れ落ちた彼は脛を片手で擦りながら悶え苦しんでいる。
「やーい、バカノア!」
「こーらこらこら! 今いいとこだったでしょうが!」
「い、痛い……魔物にも蹴られたことないのに……」
突然の悪戯にエリアスが間へ入ってシモンを宥める。
シモンは不貞腐れたように口を尖らせたかと思えば声を荒げる。
「オレだって感謝してるし! お前が来てくれた時、すげーほっとしたし、守ってくれた時もヒーローみたいですげーか、かっこよかったし……! オレもお前みたいになりたいって思ったんだ! だから……だから、そーゆー風に言われるのすげーむかつく!」
「シモン……」
「ばーかばーか! ノアのバカ!」
「し……っ、シモンーー!」
痛みからか感極まってか、はたまたその両方か。
ノアは目を潤ませたまま勢いよくシモンに抱き着いた。
「もー、ほんとに可愛い奴だなぁ! ごめんよ、もう言わないからー!」
「ぎゃー! 引っ付くなバカァ!」
「素直じゃないのね」
「お嬢様が言うんですか?」
騒々しく取っ組み合いを始めたノアとシモンを横目に呟いたクリスティーナにすかさず口を挟む不敬な従者。
その一秒後、クリスティーナに脛を蹴りつけられた彼はノアの二の舞となってその場にしゃがみ込むこととなる。
「私達の気持ちまで勝手に決めないで。気が付く前から拒絶しないで」
彼女はノアへ詰め寄り、胸倉を引き寄せる。
突然のことに不意を衝かれた彼は引き寄せられる力に従うように前屈みになる。
視線の高さが同程度になった辺りでクリスティーナは胸倉を解放し、代わりに彼の頬を両手で挟み込んでその顔を覗き込んだ。
藍色の瞳と空色の瞳が至近距離で見つめ合う。
「目を開けなさい。心に刻みなさい。私達をここまで動かしたのは貴方の行いだと」
何かを言おうと形の整った唇が小さく震え、しかし込み上げる感情を押し留めるようにに噛みしめられる。
言葉を紡ぐことが出来ないノアの顔をクリスティーナは解放してやる。
彼女の手はゆっくりと降ろされていくかと思われたが、それはノアが握りしめていた片手へ伸ばされる。
「安心して頂戴。貴方のくれた、生きる為の術は私の中に残り続けるから。貴方の行いを忘れたり軽んじたりすることはない……貴方のくれたものを抱えて生きていくの。それだけのことをしてくれたのよ」
握られた指先を丁寧に解き、自分のものより一回りは大きい掌をクリスティーナは両手で包み込んだ。
見開かれた瞳が揺らぎ、滲む。
「……そう、だね。ごめん」
握られた掌を見下ろして、されるがまま。ノアが小さく呟いた。
その声は珍しくつっかえて、情けなく震えている。
潤んだ瞳はそれ以上情けない姿を見せない様にと固く閉ざされ、眉根は何かを堪えるように寄せられる。
やがて彼は弱々しく言葉を紡いだ。
「俺は、助けに来てくれた君達の気持ちまで軽んじた発言をした。君が気を悪くするのも仕方がない」
「次からしないと言うのなら大目に見てあげてもいいわ」
「……ああ、勿論だ」
ノアが小さく頷きを返したことを確認して満足したクリスティーナはゆっくりと手を離す。
何かに耐えるようにきつく目を閉じて眉根を寄せる相手の様子を静かに見守っていると、今まで大人しくしていたシモンがノアの脛を蹴った。
「え、いっっっだ、何っ!?」
感傷に浸る様に普段の数倍は儚い空気を纏っていたノアの様子は一変。突然訪れた激痛に耐え切れずその場に崩れ落ちた彼は脛を片手で擦りながら悶え苦しんでいる。
「やーい、バカノア!」
「こーらこらこら! 今いいとこだったでしょうが!」
「い、痛い……魔物にも蹴られたことないのに……」
突然の悪戯にエリアスが間へ入ってシモンを宥める。
シモンは不貞腐れたように口を尖らせたかと思えば声を荒げる。
「オレだって感謝してるし! お前が来てくれた時、すげーほっとしたし、守ってくれた時もヒーローみたいですげーか、かっこよかったし……! オレもお前みたいになりたいって思ったんだ! だから……だから、そーゆー風に言われるのすげーむかつく!」
「シモン……」
「ばーかばーか! ノアのバカ!」
「し……っ、シモンーー!」
痛みからか感極まってか、はたまたその両方か。
ノアは目を潤ませたまま勢いよくシモンに抱き着いた。
「もー、ほんとに可愛い奴だなぁ! ごめんよ、もう言わないからー!」
「ぎゃー! 引っ付くなバカァ!」
「素直じゃないのね」
「お嬢様が言うんですか?」
騒々しく取っ組み合いを始めたノアとシモンを横目に呟いたクリスティーナにすかさず口を挟む不敬な従者。
その一秒後、クリスティーナに脛を蹴りつけられた彼はノアの二の舞となってその場にしゃがみ込むこととなる。
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