悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

56-3.空を飛ぶ魔法

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「くそ……っ、いくら何でも人使いが荒すぎるだろう!!」

 滑空しながらオリヴィエは大きな声を上げた。
 彼の首にノア、右腕にエリアスがそれぞれしがみ付いており、更に彼の左腕はクリスティーナを抱きかかえたリオに触れている。

 四人を同時に運搬しているオリヴィエは肩を震わせて不満を爆発させた。

「魔力枯渇で僕を殺す気か!?」
「だからクリスの魔晶石を渡しているんだろう?」

 首に腕を回したまま、ノアがオリヴィエの右手を指し示す。
 そこには魔力制御の訓練で生成された魔晶石がいくつも握られていた。彼の手のひらからは極稀に破裂音を伴って霧散する魔晶石の姿も目視できる。

 移動前、クリスティーナはノアの指示を受け、自身の所持していた魔晶石をいくつかオリヴィエへ預けた。
 ノア曰く、彼は『特殊な魔法』の使い手らしく、自身や触れた者を空中移動させることが出来るらしい。
 彼と初めて出会った時にエリアスは風魔法の一種かと疑問を漏らしていたが、僅かな機関とは言え魔法学院へ通っていたクリスティーナは彼の使う魔法が風魔法ではないことを察していた。

 風魔法の中にも物や生物を浮かせる類のものは確かにある。しかしそれはどちらかと言えばものを吹き飛ばすというニュアンスが強い。
 風魔法で空中移動をしようとすれば下方向からの風と追い風という二方向の風を相当な威力で発生させなければならないはずだ。しかし現在のクリスティーナ達は移動による向かい風こそ感じられるものの下方向からの風や追い風は感じることが出来ない。

 それは即ち、オリヴィエが行使しているのは風以外のものを用いた魔法であるという事に他ならない。
 六属性のどれにも当てはまらない魔法。故にノアは『特殊』と告げたのだろう。

 そしてクリスティーナは『特殊な魔法』に当たるものに心当たりがあった。
 あくまで創作や言い伝えとして半信半疑でしか認識してこなかった存在ではあるが、もし仮にそれが実在するのであれば彼が扱う魔法を説明することもできるだろう。

(……まあ、彼が使う魔法が何であるかは大した問題ではないわね)

 個人的に興味があることは否定しないが、今はそれについて掘り下げるよりも重大な問題が待ち構えている。
 現時点ではオリヴィエが味方であり、彼が自分達の為に手助けをしてくれる存在であることだけわかっていればよいだろう。

「とはいえここまでの人数を一度に運ぶのは初めてだろう? 体に負担がかかるのであればすぐ教えて欲しい」
「それについては今のところ問題なさそうだ。それよりも今のうちにお前達の話を聞いておきたい」
「事の経緯だね、わかったよ。と言っても俺から話せることってあんまりないんだけど」

 少しの時間も惜しい現状、可能な限り時間を有効に使いたいものだ。
 目的地の方角を指示しながらノアはオリヴィエに一連の流れを話し始めた。
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