悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

65-6.本性

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「……くっ」

 オリヴィエは顔を顰める。
 彼女が抵抗すればする程、反発する力を押さえ込む為に更なる力を要す。その反動は彼の体に掛かっていた。

 何とか力づくで押さえ込もうとするオリヴィエの腕は力むあまりに震えている。
 魔法の精度を維持するべく、彼は翳した腕をもう片方の手で掴んで震えを止めようとする。だがそれすらままならない程の負荷がその腕には襲い掛かっていた。

 その時ベルフェゴールの赤い瞳がオリヴィエを射止める。その瞳は怒りと敵意が満ちていた。
 次の瞬間、彼女は更なる力を以て重圧に抗い、立ち上がった。

 彼女の反発する力はオリヴィエが対抗できる範疇を完全に超えたのだった。

 圧倒的な力を振り切ったベルフェゴール。
 彼女が自身に伸し掛かる重圧を完全に振り切ったと同時に、オリヴィエの翳していた腕が悲鳴を上げた。
 無理をした結果だとでも言うように、負荷に耐えかねた血管が指先から肩へと千切れては血を噴き出す。

 それが肩へ到達した時。オリヴィエは腰を折り曲げて多量の血を吐き出した。
 二度、三度と咽ては地面を濡らす彼は膝をつき、酸素を求めて喘ぐ。

「リヴィ……ッ!」

 前衛と後衛とは距離がある。だが遠目からも見て取れたオリヴィエの変化にノアが声を漏らした。
 それが届いたのだろう。視線は敵へ向けたまま、オリヴィエは片手を挙げた。
 未だ会話できる状況ではなかったが、強敵を前に味方に構っている余裕はない。血で口を濡らしながらも彼はそれを訴えた。

「……っ」

 彼の言わんとしていることを悟ったノアは唇を噛み、敵へと注意を戻す。
 未だ倒れる様子のないベルフェゴール。オリヴィエの魔法を切り抜けた彼女は体勢を立て直しながら深々とため息を吐いた。

「……力を使うの、疲れるし面倒。……多分あっちも影響が出るし…………でも」

 重みから解放され、自由を取り戻した体。その身から黒い靄が滲み出るのを五人は見た。
 それはじわりじわりと彼女の顔や体を部分的に覆い隠していく。

「……わかった。あなたたちには本気を出さないと。もっと面倒になる」

 天井を仰ぎながら独り言を続けるベルフェゴール。
 黒い靄は触れた箇所から彼女の姿を変えていく。

 左頭部には捻じれた大きな角、口から覗くは鋭くとがった八重歯。臀部からは牛を連想させるような長い尾が姿を見せ、右目の強膜は白から黒へと移り変わる。
 人としての姿を基盤としながらも部分的に人ならざる姿を顕わにした少女。

 その歪な容姿を晒し、ベルフェゴールは自身の敵である五人を見回した。

「だから、あの子以外も皆……殺すね」

 彼女から滲む気迫は、今までとは段違いのものであった。
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