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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
66-4.戦況悪化
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「リオ! ……っくそ」
「ああ……間違えちゃった」
吹き飛ばされた仲間へ意識を傾けながらも剣を構え直すエリアス。彼は相手の意識をオリヴィエから自分へ移すべく、ベルフェゴールが大槌を振るうより先に動き出した。
更に、オリヴィエと彼女の間に氷の針が降り注ぐ。それはオリヴィエへの接近を牽制する意図が含まれていることは明らかだった。
「わかった。ならあなたからでいい」
ベルフェゴールは小さく呟くと振り返ることすらせずに大槌を後ろへ振り回した。
それは後方から迫るエリアスへ向けた明確な殺意。だが彼は体を仰け反らせてそれを避けた。
髪を掠める大槌。それが通過した瞬間にエリアスは懐へ潜り込む。
(……速い。それにわたしの動きに追いついてきている)
彼の剣捌きはもう何度も見た。だがその度に彼はベルフェゴールの記憶の上を行く能力を発揮して見せるのだ。
森の中で戦った彼ならば今のベルフェゴールに攻撃を仕掛ける余裕すらなかっただろう。そもそも彼女の動きを目で追えたかさえ怪しい。
それがこの短時間の中で目まぐるしい成長を見せ、今や彼女に一撃を与えようとしている。
敵の動きと速度を数度見ただけで対応してくる順応性と柔軟さ。
戦闘を長引かせれば長引かせる程、回数を重ねれば重ねる程、彼という存在は脅威になり得るだろう。
ベルフェゴールは目の前の存在に対し、結論付けた。
エリアスは相手の胴へ向かって剣を振るう。
だが次の瞬間、彼の手に掛かった重さが全て失われる。
「は……っ!?」
エリアスは顔色を変えた。緊張のあまり鋭く吸われた息に動揺を隠せない声が乗る。
土を抉る音、重い音を立てて彼の剣が地面へと落下した。
攻撃を食らわせる瞬間、彼は己の武器を取り落としたのだ。
騎士に有るまじき失態。精錬された者であればある程あり得ないミス。
事実、エリアスが騎士となってから剣を取り落とすなどということは一度もなかった。
己の武器を失うという事は相手へ明確な隙を与える。更に剣を持つことで誇りを得る騎士がそれを容易に手放すという事は恥に値するという考えがあったからだ。
故に戦場で剣を落とすことが無いよう、自ら鍛錬を積んできたのだ。
そんな彼がこの重大な場面で、しかも外からの力の影響を一切受けていないこの状況で何故剣を落としてしまったのか。
その理由は至って単純であった。
――疲労。
先の戦闘で既に限界だった体に鞭を打ち、迷宮を突き進み、その果てに強敵との再戦。
常人であれば戦闘がまともに成立するはずすらないのだ。
そんな状況下で剣を振るい続け、残された体力を絞り尽くした彼には最早、剣を握るだけの力すら残されていなかった。
訪れた本当の限界。それが訪れたのは無情にも、間近に敵を控えたこの瞬間であった。
「ああ……間違えちゃった」
吹き飛ばされた仲間へ意識を傾けながらも剣を構え直すエリアス。彼は相手の意識をオリヴィエから自分へ移すべく、ベルフェゴールが大槌を振るうより先に動き出した。
更に、オリヴィエと彼女の間に氷の針が降り注ぐ。それはオリヴィエへの接近を牽制する意図が含まれていることは明らかだった。
「わかった。ならあなたからでいい」
ベルフェゴールは小さく呟くと振り返ることすらせずに大槌を後ろへ振り回した。
それは後方から迫るエリアスへ向けた明確な殺意。だが彼は体を仰け反らせてそれを避けた。
髪を掠める大槌。それが通過した瞬間にエリアスは懐へ潜り込む。
(……速い。それにわたしの動きに追いついてきている)
彼の剣捌きはもう何度も見た。だがその度に彼はベルフェゴールの記憶の上を行く能力を発揮して見せるのだ。
森の中で戦った彼ならば今のベルフェゴールに攻撃を仕掛ける余裕すらなかっただろう。そもそも彼女の動きを目で追えたかさえ怪しい。
それがこの短時間の中で目まぐるしい成長を見せ、今や彼女に一撃を与えようとしている。
敵の動きと速度を数度見ただけで対応してくる順応性と柔軟さ。
戦闘を長引かせれば長引かせる程、回数を重ねれば重ねる程、彼という存在は脅威になり得るだろう。
ベルフェゴールは目の前の存在に対し、結論付けた。
エリアスは相手の胴へ向かって剣を振るう。
だが次の瞬間、彼の手に掛かった重さが全て失われる。
「は……っ!?」
エリアスは顔色を変えた。緊張のあまり鋭く吸われた息に動揺を隠せない声が乗る。
土を抉る音、重い音を立てて彼の剣が地面へと落下した。
攻撃を食らわせる瞬間、彼は己の武器を取り落としたのだ。
騎士に有るまじき失態。精錬された者であればある程あり得ないミス。
事実、エリアスが騎士となってから剣を取り落とすなどということは一度もなかった。
己の武器を失うという事は相手へ明確な隙を与える。更に剣を持つことで誇りを得る騎士がそれを容易に手放すという事は恥に値するという考えがあったからだ。
故に戦場で剣を落とすことが無いよう、自ら鍛錬を積んできたのだ。
そんな彼がこの重大な場面で、しかも外からの力の影響を一切受けていないこの状況で何故剣を落としてしまったのか。
その理由は至って単純であった。
――疲労。
先の戦闘で既に限界だった体に鞭を打ち、迷宮を突き進み、その果てに強敵との再戦。
常人であれば戦闘がまともに成立するはずすらないのだ。
そんな状況下で剣を振るい続け、残された体力を絞り尽くした彼には最早、剣を握るだけの力すら残されていなかった。
訪れた本当の限界。それが訪れたのは無情にも、間近に敵を控えたこの瞬間であった。
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