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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
85-2.ブレスレット
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***
アレットの研究室内。小さく母を呼んだ声はクリスティーナ以外にも聞こえていたようだ。
リオが目を丸くして主人を見やる。
「奥様がどうかなさいましたか?」
昔のことを思い起こしていたクリスティーナは、リオの声で我に返る。
そして何度か瞬きを繰り返した後にクリスティーナは彼へ伝わるように言い直す。
「お母様から頂いたブレスレットよ、リオ」
「……なるほど」
「その口振りだと何か思い至ったようだね」
二人のやり取りにノアが口を挟む。
クリスティーナとリオへ、ノアとアレットの視線が集中した。
母のブレスレットを肌身離さず着けていたことを知っているリオは粗方の察しが付くだろうが、クリスティーナの事情をあまり知らないノアやアレットが話しの流れを掴めないのも無理はない。
「以前身に着けていたブレスレットがあったの。物心ついた頃から着けていたものだけれど、壊れてしまって」
「なるほど。魔力量が急激に伸びたわけではなく、元の魔力量が誤魔化されてきたが故に元通り把握できるようになった魔力量を急激に増えたものと錯覚してしまった可能性か」
「君達の魔力を長期に渡って抑え込める魔導具か。それを作ることができる奴などそういないとは思うが、否定はできないな。物はないのか」
実物を見れば何かわかるかもとアレットが手を差し出す。
しかしそれに対しクリスティーナは目を伏せ、首を横に振る。
「壊れてしまった時、拾う余裕まではなかったの。その後少ししてから探しに向かったけれど、既になくなっていて」
クリスティーナは当時のことを思い出す。
我を忘れ、エリアスへ回復魔法を施した自分。
その最中の出来事は全て上の空で行われていたことに加えてその後の怒涛の流れに対する動揺。クリスティーナが冷静さを取り戻せたのは自室に戻ってから暫く経った後のことであった。
左手首の違和感とブレスレットの紛失に気付いたクリスティーナは夜更けの庭へと足を運んだが、どれだけ探しても落し物は見つからなかった。
結局誰かが気付いて片付けてしまったのだろうと、クリスティーナは闇雲に探し続けることを諦めたのだ。
その後も使用人らへブレスレットのことを聞く機会すら訪れず、あれよあれよという間に国を出ることになってしまい、ブレスレットの行方は分からず終い。故に持ち主であるクリスティーナはそのブレスレットを持ち合わせていなかった。
手掛かりになったかもしれないものであってもその場になければ調べる事さえできない。
クリスティーナはため息を吐き、ノアやアレットも顔を曇らせる。
結局のところ魔力量急増の原因特定は難しいようであると三人が肩を落とした時、リオが遠慮気味に手を挙げた。
「あの……」
三人が同時にリオを見やる。
集まる視線に対しバツが悪そうに苦笑しながらリオは言った。
「俺、持ってますよ。お嬢様のブレスレット」
「「「……え?」」」
彼の告白に対し、三つの声が重なった。
アレットの研究室内。小さく母を呼んだ声はクリスティーナ以外にも聞こえていたようだ。
リオが目を丸くして主人を見やる。
「奥様がどうかなさいましたか?」
昔のことを思い起こしていたクリスティーナは、リオの声で我に返る。
そして何度か瞬きを繰り返した後にクリスティーナは彼へ伝わるように言い直す。
「お母様から頂いたブレスレットよ、リオ」
「……なるほど」
「その口振りだと何か思い至ったようだね」
二人のやり取りにノアが口を挟む。
クリスティーナとリオへ、ノアとアレットの視線が集中した。
母のブレスレットを肌身離さず着けていたことを知っているリオは粗方の察しが付くだろうが、クリスティーナの事情をあまり知らないノアやアレットが話しの流れを掴めないのも無理はない。
「以前身に着けていたブレスレットがあったの。物心ついた頃から着けていたものだけれど、壊れてしまって」
「なるほど。魔力量が急激に伸びたわけではなく、元の魔力量が誤魔化されてきたが故に元通り把握できるようになった魔力量を急激に増えたものと錯覚してしまった可能性か」
「君達の魔力を長期に渡って抑え込める魔導具か。それを作ることができる奴などそういないとは思うが、否定はできないな。物はないのか」
実物を見れば何かわかるかもとアレットが手を差し出す。
しかしそれに対しクリスティーナは目を伏せ、首を横に振る。
「壊れてしまった時、拾う余裕まではなかったの。その後少ししてから探しに向かったけれど、既になくなっていて」
クリスティーナは当時のことを思い出す。
我を忘れ、エリアスへ回復魔法を施した自分。
その最中の出来事は全て上の空で行われていたことに加えてその後の怒涛の流れに対する動揺。クリスティーナが冷静さを取り戻せたのは自室に戻ってから暫く経った後のことであった。
左手首の違和感とブレスレットの紛失に気付いたクリスティーナは夜更けの庭へと足を運んだが、どれだけ探しても落し物は見つからなかった。
結局誰かが気付いて片付けてしまったのだろうと、クリスティーナは闇雲に探し続けることを諦めたのだ。
その後も使用人らへブレスレットのことを聞く機会すら訪れず、あれよあれよという間に国を出ることになってしまい、ブレスレットの行方は分からず終い。故に持ち主であるクリスティーナはそのブレスレットを持ち合わせていなかった。
手掛かりになったかもしれないものであってもその場になければ調べる事さえできない。
クリスティーナはため息を吐き、ノアやアレットも顔を曇らせる。
結局のところ魔力量急増の原因特定は難しいようであると三人が肩を落とした時、リオが遠慮気味に手を挙げた。
「あの……」
三人が同時にリオを見やる。
集まる視線に対しバツが悪そうに苦笑しながらリオは言った。
「俺、持ってますよ。お嬢様のブレスレット」
「「「……え?」」」
彼の告白に対し、三つの声が重なった。
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