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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

86-3.魔導師の性

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「廃れゆく魔法技術をこうも巧妙に扱える者がまだ実在するとは。可能ならば一度お目に掛かりたいものだがな」

 最先端の魔法の技術と知識を誇る国で、更にトップクラスの実力を秘めているだろう魔術師ですら絶賛する程の代物。
 その貴重さ且つ絶大な効力を秘めた装飾品。それがどのように生まれ、発見されてクリスティーナの元までやってきたのかはわからないが、その偉大さ故に聖女の魔力量を隠し、守り続けてくれていたのだろう。

「あの鎖の一つ一つに複雑且つ難解な式が敷き詰められている。その上非常に精巧な魔晶石が嵌めこまれている。それに含まれた魔力は滅多なことでは尽きないはずだ」

 アレットの言葉から鎖の部品一つ一つに極細微な文字が描かれている様をクリスティーナは想像する。
 なるほど、とクリスティーナは一人納得をする。自分の想像通りなのであればノアが真っ先に気持ち悪いと評したことについて合点がいく。

「あの鎖が切れた前後で魔力消費の大きな魔法を使った覚えは?」

 クリスティーナは少しだけ考えを巡らせる。
 普段使用している氷魔法とは別物の聖魔法……。しかしそれがどれだけ魔力を費やす者であるのかは現時点で把握が難しい。
 だが、当時覚えた倦怠感などから少なくはない魔力を消費したことは間違いないはずだ。

「確かに魔法は使ったわ」
「ならば決まりだな。ほんの一時の間に魔力量が大きく変化し、その負荷に腕輪が耐え切れなかった。これが損傷の理由だろう」

 ノア程わかりやすいわけではない。しかし自身を上回る知識と技術を目の当たりにしたアレットもまた、活き活きとしているように見えた。

「私がこれを一から作ろうとすれば途方もない時間を費やすことになるだろう。しかし鎖の破損部程度であれば私の腕を以てしても修復は可能なはずだ」

 魔導師というのは皆同じような性質を持つのだろうか。それとも弟子が師に似ただけなのだろうか。
 そんな疑問は現時点のクリスティーナでは解明できない範疇にあったが、自身の魔法の腕に対する自信と熱意、そこから感じ取れる心強さは本物であると物語っていた。

「後一日、私にくれないか。そうすれば完全な姿を取り戻してみせよう」

 フードの下で、幼い顔が目を光らせていた。
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