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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

94-1.ありのままの姿

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 相手の単純さを目の当たりにし、無駄に相手の心情を推し量ろうとしたのが馬鹿みたいだと過去の行いを悔やんでしまいそうなった時、リオがレミの方へ視線を泳がせて何かに気付く。

「お嬢様、レミ様のお料理を取って差し上げては?」
「え?」
「あ。お気遣いなく」

 一度は目を丸くしたクリスティーナだが、レミの手元を見てすぐに従者の言葉の意図を理解する。
 いつの間にか彼の皿の上は空になっており、彼はクリスティーナの近くに盛られている料理をよそおうとしているところであった。
 わざわざクリスティーナへ声を掛けたのは彼とのコミュニケーションの機会を設ける為のリオなりの気遣いだろう。

「私の方が近いもの。問題ないわ」
「……そっか。ならお願いしようかな」

 先程気を利かせて料理を盛って貰ったこともある。
 その礼も兼ねて今度は自分がと彼から取り皿を受け取るものの、そこでクリスティーナの手ははたと止まる。

(こういう場合、どのように乗せるのが正解なのかしら)

 クリスティーナへ差し迫った問題。それは料理の盛り付け方がわからないというものだ。
 彼女はその身分の高さ故に自らが料理を取り分けると言った経験がなかった。
 大抵は傍にいたリオが全て行ってくれていたし、普段の料理は複数人用に大皿に盛られたものではなく個々の為に用意されたフルコースだった。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、完璧な見栄えで用意された料理たちと自分達で取り分けるスタイルの料理では皿に盛られる量や見た目も随分と違う。

 どの程度の量を乗せるのが普通であるのか、複数の惣菜を同じ皿に取り分けるとなると全く異なる味付けの物が混ざってしまうのではないか等次々と浮かぶ疑問。
 それを解消すべく周囲の取り皿の様子を観察するものの、どれもこれも盛り付け方に共通点は見られず。量や盛り方の参考にはならない。

 つまりは個々の好きに盛ればいい。それが答えなのだろう。
 何の参考も得られなかったが、あまりにも常軌を逸した盛り方でなければ許されるはずだ。
 そう考えたクリスティーナはまず手始めにレミが取ろうとしていた肉料理をいくつか取り皿へと移動させる。

「他には?」
「えっと……あ、じゃあそっちのも」

 次にレミが指したのはサラダだ。
 クリスティーナは了承したと小さく頷いてからサラダを取り分けることを試みる。
 しかしそこで自分を待ち構える問題に気付いた。

(……取り辛いわ)

 纏めて装おうとしてみるものの、その途中で形が崩れてしまう野菜たち。
 何度か試してみたものの、結果は変わらず。
 結局クリスティーナは一度に纏めて取り分けることは諦め、少しずつサラダを移すことにした。

 しかし今度は皿に乗せられた野菜が上手く盛り付けられず、崩れ落ちてしまう。
 形を整えた傍から転がるように崩れるサラダに苦戦し、思わず眉根を寄せたところで隣から笑いを吹き出す気配があった。
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