悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

97-1.再会の約束

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「レミも来れればよかったんだけどねぇ。忙しいみたいで。昨日はありがとうって伝えてくれって言ってたよ。あと気を付けてとも」
「そう」

 外を歩く人々がぽつりぽつりと現れ始めた道を四人は進む。
 名前が出たことで、クリスティーナの脳裏を昨晩のレミの姿が過る。

 穏やかな口調と柔らかな微笑。時折見せる、普段の落ち着いた雰囲気とはまた違った無邪気な笑い。
 明るい表情の彼を思い出していると、どうしてもそれと対比させるように対極的な姿がちらつく。
 真夜中に涙を流し、苦しそうに喘ぎ、小さく身体を折る姿。

「……彼のことだけど」
「レミがどうかした?」

 口を開いたものの、どう話題を切り出したものかとクリスティーナは言い淀む。
 真夜中の彼の様子を思い出すと、どうしても不安な気持ちが掻き立てられる。そしてどうしてだか、その時のことを見ないふりしてはならないような気がしていた。

「……きちんと見ていてあげて。彼が気掛かりだというのなら」
「それはどういう……」

 ノアが目を丸くしながら詳細を問おうとする。しかしクリスティーナはそれ以上語ることが出来ない。
 彼についてクリスティーナが時折感じた『何か』には不確定な要素が大きすぎる。憶測だけでものを語るのは余計な不安を煽るだけにしかならないし、何よりこれ以上を語ればクリスティーナの正体まで仄めかすことになりかねない。

 複雑な感情を抱きながら口を閉ざすクリスティーナの様子を見たノアは投げかけた問いを途中で途切れさせた。

「……わかったよ」

 クリスティーナ達が気まずさを覚えない様にという計らいだろう。
 静かに頷いたノアはすぐに真面目な雰囲気を誤魔化すように明るい声音で他愛もない話を始めた。

「そうだ、クリス」

 そうして話を弾ませながらグロワール西部へ向かう道中、ノアはふと思い出したように懐から小包を取り出した。

 彼が見せたのは迷宮『エシェル』でクリスティーナが預けていた大量の魔晶石だ。
 袋の隙間から顔を覗かせるそれらはいくつかが黒ずんでいるものの、半数以上は未だ美しい輝きを保っていた。

「これ、ありがとう。お陰で随分と楽をさせて貰えたよ」

 クリスティーナの作った魔晶石は一つ一つがとても価値のあるものだ。そして危険の付き纏う旅路で役立つ代物でもある。
 故に忘れないうちに返しておこうと考えたノアはそれをクリスティーナへと差し出した。

 しかし彼女は目を丸くし、ゆっくりと瞬きをするだけで受け取ろうとはしない。
 どうかしたのかと首を傾げれば、クリスティーナは興味なさげに顔を逸らしてしまった。
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