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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

132-2.通用しない魔法

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 やがて双方の両手を温もりが包み込み、そこへ淡い光が灯る。

 クリスティーナとシャルロットの手から現れた光は徐々に広がりを見せ、シャルロットの体を包み込む。
 それは絡まり付く闇を呑み込んだかと思えば、闇は光の中に解けるように姿を消した。

 聖魔法の行使による副作用――自身の脳裏を過るシャルロットの記憶に呑まれていたクリスティーナは闇を祓った光が完全に収束したところで我に返ることが出来た。

 意識を現実へと引き戻したクリスティーナは即座に目を開ける。
 自身の瞳に映るシャルロットに不気味な闇は見られず、聖魔法が無事に作用したらしいことを悟る。
 だが、クリスティーナの表情は暗いものであった。

(やはり、魔力の消費があまりにも少ない……)

 昨日も感じた、手応えのなさ。
 それがクリスティーナを不安にさせる。

(昨日も魔法はきちんと使えていた。問題はその後)

 前回と全く同じ展開にクリスティーナはこの後の結果を悟りながら、目を閉じているシャルロットを静かに観察する。
 そしてそれは起こった。

 クリスティーナの視界の端を何かがゆっくりと過る。
 咄嗟にそちらへ目を向ける。
 水色の瞳が捉えたのは扉をすり抜けて入り込んだ闇だった。

 それはシャルロットへ向かって真っ直ぐに伸びていく。

「……っ!」

 闇の動きに気付くと同時にクリスティーナは反射的に手を伸ばす。
 黒い靄の進路を防ぐように伸ばされた手は、やがてそれと衝突する。

 だが、その妨害も意味をなすことはなかった。
 実体を持たない闇はクリスティーナの掌をすり抜けたのだ。

 そして何事もなかったかのように闇がシャルロットの体へ纏わりつく。
 その色は魔法を使う前に比べれば薄いものではあったが、それも徐々に濃さを取り戻しつつあるように見える。

(……やはり今までとは違う。魔法は作用しているけれど、これでは根本的な解決が出来ていない)

 何の成果も得られなかった掌をクリスティーナは強く握りしめ、唇を噛んだ。
 だがやるせなさに苛立ちを募らせていても何かが変わるわけではない。クリスティーナはすぐに気持ちを落ち着け、後ろへ振り返った。

(根本的な解決の為、他に試せることがあるとすれば……)

 彼女が睨みつけるのはシャルロットへ向かって漂い続けている闇。扉まで伸びるそれを視界に収めながらクリスティーナは冷たく光る目を細めるのであった。
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