悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

134-1.私だけの王子様

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 シャルロットは窓へ目を向けたままぽつぽつと言葉を紡ぐ。

「私ね、小さい頃から絵本が大好きだったんだ」

 窓の端から端を横切る小鳥を見送ってから、彼女は窓へ手を掛ける。
 昼時とはいえ寒さを覚える風が入り込むがシャルロットは気にした素振りもなく、自身の髪を靡かせた。

「困難に見舞われた女の子を王子様が助け出す。童話の殆どはそんなありきたりなハッピーエンドで終わる。でも、私はそんな在り来りな展開が好きだった」

 長く伸ばされた横髪が耳に掛けられる。
 彼女はゆっくりと瞬きをしてから懐かしむように目を細めた。

「……愛する人と必ず結ばれるようなお姫様に憧れてたんだろうね。いつか自分も好きな人を見つけて、お姫様みたいになるんだ……なんて夢を見てた」

 クリスティーナは知っている。シャルロットは無邪気だが物語と現実を履き違えるような愚かさは持ち合わせていないと。
 だからこれはあくまで過去の話に過ぎないのだろう。

「いつか自分が愛する人は私を誰よりも愛してくれて、何があっても助けてくれる信頼と安心に満ちたかっこいい人に違いない! それじゃないと嫌だ! ……ってね」

 幼少期の自分を真似ているつもりなのか、わざと幼稚な口調と声音を作って見せるシャルロットは遅れて照れくささを感じたのか、誤魔化すように苦笑した。

「……流石に今は違うよ。今でもそういうハッピーエンドは大好きだけど、お話みたいに人生が上手くいくわけではなければ、人生の最後に必ず幸福が約束されているとも限らない」

 優しく穏やかな声音。その落ち着いた声には子供のような幼さはなく、現実を客観的に理解している大人の姿が垣間見えるようであった。

「私は伯爵家の子女で、この身は家の……延いては領民のもの。オリオール家に携わる者の為になるような選択を求められる。私の一存で決められるようなことは限られてる」

 クリスティーナは彼女の言葉に顔を上げ、口を挟もうとするがすぐに思い留まった。
 自身の思いを語ってくれている途中に無粋な言葉を投げたくはないと思ったのだ。
 幸い、シャルロットはクリスティーナの反応を不思議に思うこともなく話を続けた。

「都合の良い『王子様』なんて現実にはいないし、いたとしても求めるべきではない。……でもね、考えちゃうんだ」

 開け放たれた窓、吹き抜ける風、青い空。そちらへ向かってシャルロットは手を伸ばす。
 何かを求めるように伸ばされた腕で空を切りながら、彼女は話し続ける。

「もし私の現状も、貴族としてのしがらみも、抱えている悩みも不安も……。その全てから連れ出してくれる人がいるなら。どこまでも一緒に逃げてくれるような『王子様』がいるなら……それはきっととても素敵なことなんだろうな、って」
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