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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
136-2.願いと悲観
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「でなければ、シャルロット様があまりにも……あまりにも気の毒ではありませんか」
怒りからか哀れみからか、押さえ込もうとしても震える声のまま、彼は眉根を寄せる。
「シャルロット様が進学を決意したのは家の為……旦那様を支える為でした。旦那様にばかりに負担を掛けないようにと尽くしていらっしゃった先、危機に瀕しても返って来るのは無関心だけなど……そんなこと――」
早口に述べられる悲観の言葉。
しかしそれは部屋の扉が開かれたことによって遮られた。
ゆっくりと開く扉の先からクリスティーナが廊下へ顔を覗かせる。
三人の間に流れる重苦しい空気を感じ取ったのか、彼女は瞬きを繰り返すとやや声を抑えて三人を順に見やった。
「一段落したから呼びに来たのだけれど……。話の途中だったかしら」
「……いいえ。大した話ではありません」
問いかけにジルベールは首を横に振る。
そしてリオとエリアスを見やると頭を下げた。
「客人にこのような話ばかりしてしまい、申し訳ありません。聞いてくださってありがとうございました」
「いいえ」
「お、おう。それは全然いいんだけど……」
「戻りましょう。どうぞ」
ジルベールは謝罪と礼を述べるとクリスティーナに変わって扉を支える。
大きく扉を開いた彼が客人らに中へ戻るよう促し、エリアスはそれに素直に答える。
だがそれに続こうとしたリオは足を一歩進めるより先に、自身へ向けられる視線へ気付く。
主人であるクリスティーナの空色の瞳が真っ直ぐにリオを捉えていたのだ。
彼女の視線は何かを伝えるように強い意志を感じる。そして彼女が何を言わんとしているのかをリオは即座に理解した。
クリスティーナもまた、自身の意図が通じたと判断したのだろう。彼女はリオが動くよりも先にジルベールへと話し掛ける。
「彼女にはもう許可を頂いているのだけれど。お手洗いを借りてもいいかしら」
「畏まりました。ではご案内を――」
「必要ないわ。道順は聞いているし……見たところ、ここは使用人が足りていないのでしょう? わざわざ手を煩わせることでもないわ」
案内を名乗り出る声にクリスティーナは首を横に振る。
そしてシャルロットに聞こえない様に声を潜めた。
「しかし……」
「俺が代わりに行きますよ。ジルベール様はシャルロット様のお傍にいて差し上げてください」
主人の身を案じているものの、館に使える者として仕事を疎かにすることは出来ない。そんな迷いを抱えて食い下がるジルベールをリオが後押しした。
リオは更に肩目を瞑って唇に人差し指を押し当てる。
「……畏まりました。ありがとうございます」
彼のその意味深な言動を、ジルベールは己の心情を知っている故の気遣いであると判断したのだろう。
力なく笑うと彼はリオへ向かって頭を下げた。
そして手洗いの場所を口頭で説明すると、部屋を後にするクリスティーナとリオを静かに見送ってから部屋の中へと消えたのだった。
怒りからか哀れみからか、押さえ込もうとしても震える声のまま、彼は眉根を寄せる。
「シャルロット様が進学を決意したのは家の為……旦那様を支える為でした。旦那様にばかりに負担を掛けないようにと尽くしていらっしゃった先、危機に瀕しても返って来るのは無関心だけなど……そんなこと――」
早口に述べられる悲観の言葉。
しかしそれは部屋の扉が開かれたことによって遮られた。
ゆっくりと開く扉の先からクリスティーナが廊下へ顔を覗かせる。
三人の間に流れる重苦しい空気を感じ取ったのか、彼女は瞬きを繰り返すとやや声を抑えて三人を順に見やった。
「一段落したから呼びに来たのだけれど……。話の途中だったかしら」
「……いいえ。大した話ではありません」
問いかけにジルベールは首を横に振る。
そしてリオとエリアスを見やると頭を下げた。
「客人にこのような話ばかりしてしまい、申し訳ありません。聞いてくださってありがとうございました」
「いいえ」
「お、おう。それは全然いいんだけど……」
「戻りましょう。どうぞ」
ジルベールは謝罪と礼を述べるとクリスティーナに変わって扉を支える。
大きく扉を開いた彼が客人らに中へ戻るよう促し、エリアスはそれに素直に答える。
だがそれに続こうとしたリオは足を一歩進めるより先に、自身へ向けられる視線へ気付く。
主人であるクリスティーナの空色の瞳が真っ直ぐにリオを捉えていたのだ。
彼女の視線は何かを伝えるように強い意志を感じる。そして彼女が何を言わんとしているのかをリオは即座に理解した。
クリスティーナもまた、自身の意図が通じたと判断したのだろう。彼女はリオが動くよりも先にジルベールへと話し掛ける。
「彼女にはもう許可を頂いているのだけれど。お手洗いを借りてもいいかしら」
「畏まりました。ではご案内を――」
「必要ないわ。道順は聞いているし……見たところ、ここは使用人が足りていないのでしょう? わざわざ手を煩わせることでもないわ」
案内を名乗り出る声にクリスティーナは首を横に振る。
そしてシャルロットに聞こえない様に声を潜めた。
「しかし……」
「俺が代わりに行きますよ。ジルベール様はシャルロット様のお傍にいて差し上げてください」
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リオは更に肩目を瞑って唇に人差し指を押し当てる。
「……畏まりました。ありがとうございます」
彼のその意味深な言動を、ジルベールは己の心情を知っている故の気遣いであると判断したのだろう。
力なく笑うと彼はリオへ向かって頭を下げた。
そして手洗いの場所を口頭で説明すると、部屋を後にするクリスティーナとリオを静かに見送ってから部屋の中へと消えたのだった。
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