406 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
136-1.願いと悲観
しおりを挟む
ジルベールの話に区切りがついたところでリオはやや言い淀みながらシャルロットの容態について触れる。
「……しかし、難病の類でしょうか。医学の専門家ですら手を焼くとなると……」
「ええ、ですから現時点での回復の見込みは……殆どないと言えるでしょう」
濁された言葉はジルベールが代わりに答える形ではっきりと肯定する。
感情的になっていた先程より落ち着いてはいるものの、彼の顔はやはり暗いものであった。
「ご家族も気が気ではないのではないでしょうし……一刻も早く快方に向かうことを願っています」
何気ない患者とその身内を労わる言葉。
だがそれを聞いたジルベールは困った様に視線を泳がせた。
「家族……そう、ですね。そうだといいのですが……」
「……シャルロット様はご家族と上手くいっていないのですか?」
妙に含みのある返答。それを不思議に思ったリオが首を傾げるとジルベールは焦りを見せた。
「いいえ、そうではない……はずです」
リオの言葉を否定するも、やはり煮え切らない言葉がついて回る。
「旦那様と奥様は数年前に離婚なさっていまして……それ以降は旦那様とシャルロット様がお二人で過ごされています」
何でもないと白を切るには無理がある反応をしてしまっている自覚はあるのだろう。詳細を問う様に向けられる二つの視線を受けるとジルベールは声を潜めてそれに応えた。
「離婚が成立してからは特に、旦那様はお忙しい身であっても家族との時間を大切になさっており、シャルロット様もそんな旦那様をお慕いしていました。使用人達から見てもお二人はとても仲の良い家族として映っていたことでしょう」
「その言い方では、まるで今は違うと言いたげに聞こえますが……」
過去形を用いて話すジルベールの言葉をリオは指摘する。
すると彼は何と言えば良いのかを悩むように視線を彷徨わせてから俯いた。
「……正直な話、私にもわからないのです。旦那様がシャルロット様へ向ける愛情が現在も同じだけ残されていると信じたい気持ちはありますが、その反面、旦那様のお考えがわからない時があるのも事実です」
ジルベールは現在地とは反対方面――玄関方面へと視線を移す。
シャルロットの部屋は館の端に位置する。一方でジルベールの視線の動きから鑑みるに、館の主人の部屋はもしかしたら反対側に位置しているのかもしれない。
そんなことを頭の片隅で考えながらリオはジルベールに話しの続きを促した。
「……旦那様は変わられました。以前であればシャルロット様の身を案じて頻繁に見舞いにいらっしゃってもおかしくなかったのですが、現在は同じ家に住みながらもシャルロット様の顔を見に来ることは滅多にありません」
ジルベールの言葉尻に感じられるのは明らかな疑念。だが、彼は自身が抱いているそれをはっきりと明言することは避けていた。
「しかし医師の手配はしてくださりますし、シャルロット様が必要とする物はご用意していただけています。……ですから、もしかしたら旦那様には旦那様のご事情があり、以前の様に振る舞えなくなっただけなのでは……シャルロット様へのお気持ちはご健全であるのではと……そうあって欲しいと、思ってしまうのです」
彼は不格好に顔を歪めながら何とか笑みを浮かべる。
切実な願いと悲観。それが彼の胸中に渦巻いていた。
「……しかし、難病の類でしょうか。医学の専門家ですら手を焼くとなると……」
「ええ、ですから現時点での回復の見込みは……殆どないと言えるでしょう」
濁された言葉はジルベールが代わりに答える形ではっきりと肯定する。
感情的になっていた先程より落ち着いてはいるものの、彼の顔はやはり暗いものであった。
「ご家族も気が気ではないのではないでしょうし……一刻も早く快方に向かうことを願っています」
何気ない患者とその身内を労わる言葉。
だがそれを聞いたジルベールは困った様に視線を泳がせた。
「家族……そう、ですね。そうだといいのですが……」
「……シャルロット様はご家族と上手くいっていないのですか?」
妙に含みのある返答。それを不思議に思ったリオが首を傾げるとジルベールは焦りを見せた。
「いいえ、そうではない……はずです」
リオの言葉を否定するも、やはり煮え切らない言葉がついて回る。
「旦那様と奥様は数年前に離婚なさっていまして……それ以降は旦那様とシャルロット様がお二人で過ごされています」
何でもないと白を切るには無理がある反応をしてしまっている自覚はあるのだろう。詳細を問う様に向けられる二つの視線を受けるとジルベールは声を潜めてそれに応えた。
「離婚が成立してからは特に、旦那様はお忙しい身であっても家族との時間を大切になさっており、シャルロット様もそんな旦那様をお慕いしていました。使用人達から見てもお二人はとても仲の良い家族として映っていたことでしょう」
「その言い方では、まるで今は違うと言いたげに聞こえますが……」
過去形を用いて話すジルベールの言葉をリオは指摘する。
すると彼は何と言えば良いのかを悩むように視線を彷徨わせてから俯いた。
「……正直な話、私にもわからないのです。旦那様がシャルロット様へ向ける愛情が現在も同じだけ残されていると信じたい気持ちはありますが、その反面、旦那様のお考えがわからない時があるのも事実です」
ジルベールは現在地とは反対方面――玄関方面へと視線を移す。
シャルロットの部屋は館の端に位置する。一方でジルベールの視線の動きから鑑みるに、館の主人の部屋はもしかしたら反対側に位置しているのかもしれない。
そんなことを頭の片隅で考えながらリオはジルベールに話しの続きを促した。
「……旦那様は変わられました。以前であればシャルロット様の身を案じて頻繁に見舞いにいらっしゃってもおかしくなかったのですが、現在は同じ家に住みながらもシャルロット様の顔を見に来ることは滅多にありません」
ジルベールの言葉尻に感じられるのは明らかな疑念。だが、彼は自身が抱いているそれをはっきりと明言することは避けていた。
「しかし医師の手配はしてくださりますし、シャルロット様が必要とする物はご用意していただけています。……ですから、もしかしたら旦那様には旦那様のご事情があり、以前の様に振る舞えなくなっただけなのでは……シャルロット様へのお気持ちはご健全であるのではと……そうあって欲しいと、思ってしまうのです」
彼は不格好に顔を歪めながら何とか笑みを浮かべる。
切実な願いと悲観。それが彼の胸中に渦巻いていた。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる