悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

136-1.願いと悲観

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 ジルベールの話に区切りがついたところでリオはやや言い淀みながらシャルロットの容態について触れる。

「……しかし、難病の類でしょうか。医学の専門家ですら手を焼くとなると……」
「ええ、ですから現時点での回復の見込みは……殆どないと言えるでしょう」

 濁された言葉はジルベールが代わりに答える形ではっきりと肯定する。
 感情的になっていた先程より落ち着いてはいるものの、彼の顔はやはり暗いものであった。

「ご家族も気が気ではないのではないでしょうし……一刻も早く快方に向かうことを願っています」

 何気ない患者とその身内を労わる言葉。
 だがそれを聞いたジルベールは困った様に視線を泳がせた。

「家族……そう、ですね。そうだといいのですが……」
「……シャルロット様はご家族と上手くいっていないのですか?」

 妙に含みのある返答。それを不思議に思ったリオが首を傾げるとジルベールは焦りを見せた。

「いいえ、そうではない……はずです」

 リオの言葉を否定するも、やはり煮え切らない言葉がついて回る。

「旦那様と奥様は数年前に離婚なさっていまして……それ以降は旦那様とシャルロット様がお二人で過ごされています」

 何でもないと白を切るには無理がある反応をしてしまっている自覚はあるのだろう。詳細を問う様に向けられる二つの視線を受けるとジルベールは声を潜めてそれに応えた。

「離婚が成立してからは特に、旦那様はお忙しい身であっても家族との時間を大切になさっており、シャルロット様もそんな旦那様をお慕いしていました。使用人達から見てもお二人はとても仲の良い家族として映っていたことでしょう」
「その言い方では、まるで今は違うと言いたげに聞こえますが……」

 過去形を用いて話すジルベールの言葉をリオは指摘する。
 すると彼は何と言えば良いのかを悩むように視線を彷徨わせてから俯いた。

「……正直な話、私にもわからないのです。旦那様がシャルロット様へ向ける愛情が現在も同じだけ残されていると信じたい気持ちはありますが、その反面、旦那様のお考えがわからない時があるのも事実です」

 ジルベールは現在地とは反対方面――玄関方面へと視線を移す。
 シャルロットの部屋は館の端に位置する。一方でジルベールの視線の動きから鑑みるに、館の主人の部屋はもしかしたら反対側に位置しているのかもしれない。
 そんなことを頭の片隅で考えながらリオはジルベールに話しの続きを促した。

「……旦那様は変わられました。以前であればシャルロット様の身を案じて頻繁に見舞いにいらっしゃってもおかしくなかったのですが、現在は同じ家に住みながらもシャルロット様の顔を見に来ることは滅多にありません」

 ジルベールの言葉尻に感じられるのは明らかな疑念。だが、彼は自身が抱いているそれをはっきりと明言することは避けていた。

「しかし医師の手配はしてくださりますし、シャルロット様が必要とする物はご用意していただけています。……ですから、もしかしたら旦那様には旦那様のご事情があり、以前の様に振る舞えなくなっただけなのでは……シャルロット様へのお気持ちはご健全であるのではと……そうあって欲しいと、思ってしまうのです」

 彼は不格好に顔を歪めながら何とか笑みを浮かべる。
 切実な願いと悲観。それが彼の胸中に渦巻いていた。
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