悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

147-1.繁栄の裏

　ジルベールとの約束の時刻が近づき、ローブを身に纏ったクリスティーナ達は事前に決めていた合流場所へと向かった。
　大通りを進んだ先、とある宝石店の脇から通じる路地裏。足を進めていたクリスティーナ達はそこへ向かう為の曲がり角に立つ人影を見つける。

　フードを深く被り、顔を隠した男。彼は片手に持っていたランプをクリスティーナ達の方向へ傾けると顔がわかるようにとフードを取っ払い、会釈をした。
　艶やかな藍色の髪と、それによく似た色の瞳。切れ長な目を細めたジルベールは隠していた自身の顔を晒しながらクリスティーナ達へと微笑を浮かべた。

「お待ちしておりました」

　約束の時間にはまだ早い。遅れることがない様にと気を利かせて早く出たクリスティーナ達であったが、彼はそれよりも早くに到着し、三人を待っていたようだ。

　軽く挨拶を交わした後、一行は路地裏へと入っていく。

「この街は表向きは繁栄した様が目立ちますが、その実、民の貧困の差は広がりつつあります。狭い道を入れば追い剥ぎ狙いの貧困者が身を潜めていることもありますので、周囲への警戒は怠らない様にしてください。……尤も」

　ランプを片手に先導していたジルベールは三人へ振り向くと安心させるように微笑んだ。

「啖呵を切った手前、万一の際もお守りさせていただく所存でありますが」
「あー、初めて会った時から思ってたことなんだけどさ」

　己の言葉に自信を持った瞳。追い剥ぎ程度であれば守ることが出来るという余裕を見せるジルベールの姿に、エリアスがふと思い至った様に口を開いた。

「ジルベールさん、武術の心得あるよな？　武器は持ってなさそうだけど」
「隙の少ない振る舞いは多少なりとも経験を積んでいる方のそれですからね」

　自身にも思い当たる節があったのだろう。リオもまた、エリアスの言葉を肯定するように頷いてジルベールを見やった。
　一方で護衛二人の言葉を聞いて漸くそうなのかと疑問を抱いたクリスティーナが遅れて案内役へ視線を送れば、彼は困った様に笑いながら肩を竦めた。

「剣術を少々。ですが生憎、お二人には劣る程度の腕前……誇れる様なものではありませんが」

　大したことではないと謙遜を述べつつも一度も武力を見せていないリオとエリアスが手練れであることを見抜いた発言は、彼が相手の実力を推し量る程度に武術の見識があることを明らかとする。
　意図せぬ形で視線を集めてしまったことに気恥ずかしさを覚えたのか、ジルベールは小さく咳払いをすると剣術に関する話を避けるように話題を戻した。

「度重なる増税は民の生活を重く苦しいものとし、以前は娯楽を楽しみ余裕があった層であっても貧困へ陥る家庭が増えつつあります。とにかく、現在のニュイは特に治安が良いとは言い難いのです」
「……領主に仕える方がここまで仰るのですから、この街の抱える問題は随分大きなものなのでしょうね」