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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
150-2.焦りと苛立ち
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彼がディオンの率いる組織に属していることを考えれば彼がその場にいる事も何らおかしな話ではない。
この数日、宿で彼と遭遇することがなかったこともあり、ディオンの拠点でばったりと出くわす可能性についてもクリスティーナの頭から抜けていたという事実はある。だが彼女が目を丸くしたのはオリヴィエがその場にいたことにというよりも彼が声を荒げているという点についてだった。
彼が苛立ちを見せたことは何度かある。だがそんな時はいつだって、彼は自身の抱く感情に反した、冷たく落ち着いた声音をしていた。
彼が怒りのままに声を荒げる姿をクリスティーナが見るのはこれが初めてのことであったのだ。
ディオンの宥めるような声をオリヴィエは鼻で笑う。
「お気遣いどうも。ボスがそこまで僕を目に掛けていたとはね。……お陰ではっきりした」
上がる口角とは裏腹に、黄緑の瞳は募らせた苛立ちに燃える。
彼はテーブルについていた手を硬く握りしめた。
「僕がすべきことは一刻も早くあいつの動きを止めることだ。そしてあいつが持つ魔導具の奪取。それを成さない事には何もできない」
「ならば一層慎重になるべきだ。焦りという感情だけで突っ走る訳にはいかないだろう。お前が敵に回そうとしている相手は一筋縄じゃいかないんだから――」
「だから僕は引っ込んでいろと? 接触を避けるだけで得られるものがどれだけあるというんだ!」
オリヴィエは息を荒げ、髪を掻き毟る。
だが、言動が感情任せになりながらも自身が冷静ではないという事を自覚するだけの理性は残っているのだろう。
彼は深呼吸で荒げていた息を落ち着かせる。そして深く息を吐き出すとテーブルから離れた。
「……次も僕は参加する。罠だろうが何だろうが関係ない。向こうから接触を望んでいるのならそれこそ好都合だろう」
低い声でそう告げるや否や、彼はディオンから背を向けて速足でその場を立ち去る。
その際、出入り口付近に立つクリスティーナ達とすれ違う形になったが、未だ冷静ではないらしい彼が見知った顔に気付くことはなかった。
クリスティーナは両開きの扉の先へ消えるまで、その遠ざかる背中を見送る。
一方で勢いのままにその場を去っていったオリヴィエの様子に額に手を当て、深々とため息を吐いたディオンはすぐさまクリスティーナ達へと目を向けた。
参った様に顰めていた顔は次の瞬間、初めてクリスティーナ達と会った時の様な笑みへと変わる。
「よっ、騒がせて悪かったな。待ってたぜ、嬢ちゃん達」
この数日、宿で彼と遭遇することがなかったこともあり、ディオンの拠点でばったりと出くわす可能性についてもクリスティーナの頭から抜けていたという事実はある。だが彼女が目を丸くしたのはオリヴィエがその場にいたことにというよりも彼が声を荒げているという点についてだった。
彼が苛立ちを見せたことは何度かある。だがそんな時はいつだって、彼は自身の抱く感情に反した、冷たく落ち着いた声音をしていた。
彼が怒りのままに声を荒げる姿をクリスティーナが見るのはこれが初めてのことであったのだ。
ディオンの宥めるような声をオリヴィエは鼻で笑う。
「お気遣いどうも。ボスがそこまで僕を目に掛けていたとはね。……お陰ではっきりした」
上がる口角とは裏腹に、黄緑の瞳は募らせた苛立ちに燃える。
彼はテーブルについていた手を硬く握りしめた。
「僕がすべきことは一刻も早くあいつの動きを止めることだ。そしてあいつが持つ魔導具の奪取。それを成さない事には何もできない」
「ならば一層慎重になるべきだ。焦りという感情だけで突っ走る訳にはいかないだろう。お前が敵に回そうとしている相手は一筋縄じゃいかないんだから――」
「だから僕は引っ込んでいろと? 接触を避けるだけで得られるものがどれだけあるというんだ!」
オリヴィエは息を荒げ、髪を掻き毟る。
だが、言動が感情任せになりながらも自身が冷静ではないという事を自覚するだけの理性は残っているのだろう。
彼は深呼吸で荒げていた息を落ち着かせる。そして深く息を吐き出すとテーブルから離れた。
「……次も僕は参加する。罠だろうが何だろうが関係ない。向こうから接触を望んでいるのならそれこそ好都合だろう」
低い声でそう告げるや否や、彼はディオンから背を向けて速足でその場を立ち去る。
その際、出入り口付近に立つクリスティーナ達とすれ違う形になったが、未だ冷静ではないらしい彼が見知った顔に気付くことはなかった。
クリスティーナは両開きの扉の先へ消えるまで、その遠ざかる背中を見送る。
一方で勢いのままにその場を去っていったオリヴィエの様子に額に手を当て、深々とため息を吐いたディオンはすぐさまクリスティーナ達へと目を向けた。
参った様に顰めていた顔は次の瞬間、初めてクリスティーナ達と会った時の様な笑みへと変わる。
「よっ、騒がせて悪かったな。待ってたぜ、嬢ちゃん達」
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