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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
159-2.適材適所
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扉を開け、一歩足を踏み入れたところでクリスティーナは顔を顰めた。
香水か香料の残り香か。甘く、独特な香りが鼻腔を擽る。その匂いはクリスティーナの好みにそぐわない物であったが、彼女が顔を顰めたのはそれが理由ではない。
扉を開けた瞬間、その一帯がペンキをひっくり返されたかの如く黒く染まっている様をクリスティーナは見た。
更に感じる、扉を開ける前とは比べ物にならない程の大きな不快感。それはクリスティーナへ大きな眩暈や吐き気を齎した。
思わず足を止めて呆然とするも、部屋に充満した黒に流動性がある事、輪郭は随分朧気でありながらもその先の景色を認識できる霧の様な形態を取っている事を彼女は悟る。
その濃度が濃すぎるあまりに怯んでしまったが、これもクリスティーナのみが認知することの出来る『闇』であることには変わりないのだろう。
そう判断し、更に部屋の奥へと進もうとした時、彼女の脇をすり抜けてジルベールが前へ立ち、更にリオがクリスティーナの口元へとハンカチを押し当てた。
何事かと二人を交互に見やれば、彼らは自身の口元を袖で覆いながら眉根を寄せていた。
「何か混ぜられている様な……奇妙な匂いが混ざっています。無暗に吸わない方がいいでしょう」
「この匂い……催眠作用の類でしょうか」
「わかるのですか?」
「大抵の薬剤は匂いか味に特徴がある物ですから」
匂いの特徴だけで用いられている薬剤を予測するリオの発言にジルベールが目を丸くする。
それに対し平然と頷きを返すリオは難しい顔をしたまま部屋の先を見つめた。
「少量の摂取であれば問題ないでしょうが……どうあれ、お嬢様を先に進ませる訳にはいきませんね」
「ならば私が行きましょう」
「いいえ、俺が行きますよ。ジルベール様はお嬢様をお願いします」
「しかし」
リオが名乗りを上げたのは自身に不死身という特性があるからだろう。万一、薬剤による影響で大事に至ったとしても蘇生することが出来る。
だがジルベールはそれを知らない。そして危険な目に遭わせないという約束を交わしている以上自分が引き下がるわけにはいかないと考えているのだろう。
「ジルベール様」
そんな彼の考えを組んでか、リオは安心させるように微笑んだ。
香水か香料の残り香か。甘く、独特な香りが鼻腔を擽る。その匂いはクリスティーナの好みにそぐわない物であったが、彼女が顔を顰めたのはそれが理由ではない。
扉を開けた瞬間、その一帯がペンキをひっくり返されたかの如く黒く染まっている様をクリスティーナは見た。
更に感じる、扉を開ける前とは比べ物にならない程の大きな不快感。それはクリスティーナへ大きな眩暈や吐き気を齎した。
思わず足を止めて呆然とするも、部屋に充満した黒に流動性がある事、輪郭は随分朧気でありながらもその先の景色を認識できる霧の様な形態を取っている事を彼女は悟る。
その濃度が濃すぎるあまりに怯んでしまったが、これもクリスティーナのみが認知することの出来る『闇』であることには変わりないのだろう。
そう判断し、更に部屋の奥へと進もうとした時、彼女の脇をすり抜けてジルベールが前へ立ち、更にリオがクリスティーナの口元へとハンカチを押し当てた。
何事かと二人を交互に見やれば、彼らは自身の口元を袖で覆いながら眉根を寄せていた。
「何か混ぜられている様な……奇妙な匂いが混ざっています。無暗に吸わない方がいいでしょう」
「この匂い……催眠作用の類でしょうか」
「わかるのですか?」
「大抵の薬剤は匂いか味に特徴がある物ですから」
匂いの特徴だけで用いられている薬剤を予測するリオの発言にジルベールが目を丸くする。
それに対し平然と頷きを返すリオは難しい顔をしたまま部屋の先を見つめた。
「少量の摂取であれば問題ないでしょうが……どうあれ、お嬢様を先に進ませる訳にはいきませんね」
「ならば私が行きましょう」
「いいえ、俺が行きますよ。ジルベール様はお嬢様をお願いします」
「しかし」
リオが名乗りを上げたのは自身に不死身という特性があるからだろう。万一、薬剤による影響で大事に至ったとしても蘇生することが出来る。
だがジルベールはそれを知らない。そして危険な目に遭わせないという約束を交わしている以上自分が引き下がるわけにはいかないと考えているのだろう。
「ジルベール様」
そんな彼の考えを組んでか、リオは安心させるように微笑んだ。
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